第9話 選ばれし者

 突然の提案に、驚く俺たちを『まあ、驚くのも無理ないか』という表情で見つめたレオは、事情を話し始める


 「これは、聞いた話なんだが......今から16年前。ある魔法研究者の実験の失敗で、偶然この世界と、異世界ちきゅう接続リンクしてしてしまった。その時、この世界にきたのが、オレのような『転生者』だ」


 アルとエルは、16年前のことを思い出す


 この目の前にいる“レオ”、レオナルド・ヴァンケルは、一度死んだ。そしてその後、『チキュー』と言う世界の『ニホン』とか言う国で死んだ、『サカグチ・アキラ』と言う人間が、レオの身体で、生き返ったのだった


 さらにレオは続ける


 「『転生者』は、前世の記憶を持ったまま、この世界の人間に成り代わる。その際に付与能力チートスキルと呼ばれるものが、与えられるそうだ。アル、一度、お前が木の上から落っこちて、腕の骨が折れたことがあっただろ?」


 木から落っこちたことなど数えきれないほどあったが、一度だけ、曲がっていけない方向に腕が曲がり、動けなくなるほど痛かった、あの日ことをアルは思い出した


 「確か、レオが手をかざした瞬間、全部綺麗に治って、青アザすらできてなかった。もしかして、アレって......」


 レオは静かに頷く


 「ああ、そうだ。どうやら、俺に与えられた付与能力は、“傷や怪我を治す力”のようだ。他の『転生者』の能力は様々で、おかげでこの世界のあらゆる物事が大いに進歩したのは言うまでもない」


 「確かにそうだな。俺も毎日、になりっぱなしだもんなぁ〜」


 いつもの艶本アレのことを思い出しながら頷くアル。その盛り上がった股間を見たエルが、恥ずかしがる様子もなく、すかさずツッコミを入れる


 「......あんたのは、いかがわしい方向性モノだと、すぐ分かるわ......」


 「で、そんな世界の話と、旅に出ようぜが、どう繋がんだよ。勿体ぶらずに言ってくれよ」


 アルは、回りくどい話は嫌いだ。だから結論を早く言ってくれとレオを急かす。するとレオは、ハッとして、咳払いをする


 「済まなかった。実は、皇帝陛下より、『これから起こるかもしれぬ、魔界からの侵略を未然に防ぐための調査』の勅命を受けたんだ。ほら、これが証書」


 レオが見せた証書には確かに、3人の名前が書いてあり、御璽ぎょじ(皇帝の判)が捺されている


 だが疑問が残る。まずそのような調査であれば、まず帝国軍の内部で、調査隊が結成されるはず。なぜ俺たちなんだと思っているうちに、エルが先に口走る


 「属国兵士のアルはともかく、なぜ?貴族階級のレオと、商人の私が選ばれているのかしら?」


 「それは、帝国の大魔法使い、アドラー様の進言によるものだそうだ」


 大魔法使いアドラー。彼はこれまで何度も夢の中で、“神のお告げ”を受け、幾度となく帝国ミクラスを救ってきた英雄だ。そんな彼が、“この世界と魔界が繋がり、魔界の王になりし『転生者』が、この世界を我が物にする”そんな夢を見たという


 「それで、立ち上がった若者が、俺たち3人だったわけなんだとさ」

 

 俺とエルは、そんな作り話のような話を、信じたくはなかった。だが皇帝陛下直々の勅令、そして、レオの語り口からして、嘘ではない。大人しくこの“馬鹿げた話“を飲み込むほかなさそうだと悟った


 「......わかった。で、いつ旅立つの?こっちも支度があるし、それに仕事も......」


 エルの心配事に対して、レオはゆっくりとした口調で答える


 「3日後に出発だ。もしよければ支度をして、出発するまでの間、この邸宅でゆっくりするといいよ。仕事は......あ!そうそう。アレをやっとかないといけないんだった」


 アルとエルが首を傾げると、レオは照れくさそうに笑った


 「一応俺、領主代行者だから、めんどくさいけど、形式ばったこともやらなくちゃいけなくてね......ポール!」


 手を2回叩きながらレオが呼びつけると、物陰からポールが6人の従者を連れて現れた。レオが玉座に深々と腰掛けると、6人の従者が左右に3人ずつ、玉座と俺たちの間に立ち、お互いに向かい合うように並ぶ。ポールは玉座の側に立ち、こう宣言する


 「ではこれより、アンフィニ卿レオナルド・ヴァンケル様から、領民2名に、辞令じれいが下される!アルフレッド・エンデ、エルサ・ロベール、両名は一歩前へ!」


 その口上を聞いたアルとエルは、並んで一歩前に出ると片膝をつき、頭を下げる


 咳払いを一つしたレオがこう告げた


 「我、領主の代行者。アンフィニ卿レオナルド・ヴァンケルの名の下に、領民2名に告ぐ!兵士アルフレッド・エンデ。そなたを皇帝陛下の勅命の下、近衛として、我と帯同することを命ずる。そして、商人エルサ・ロベール。同じく、そなたを皇帝陛下の勅令の元、秘書官として、我と帯同することを命ずる」


 2人はさらに深々と頭を下げた


 「「謹んで、お受け致します」」


 こうして、3人の幼馴染は、皇帝陛下の勅命により旅に出ることになったのであった




 

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