第6話 再会

 アンフィニ卿は、このマズーダ領主国の領主の分家であり、首都ユノースにあるこの城から1時間半ほど歩いた先の街、ミアータに邸宅がある


 「ふう、ようやく着いたぞ。結構いい運動になるなぁ」


 汗を拭ったアルは、第一種軍服の帽子を脱ぎ、汗を拭った


 海の近いミアータは、漁業が盛んな港街。そして、アルの生まれ育った街でもある。普段は、城内の寄宿舎で生活している彼は、久しぶりに故郷に帰ってきたというわけだった


 「あんれ、アル坊じゃないかぇ。まぁ〜すっかり、立派な兵隊さんになっちゃってぇ」


 「ばぁちゃん!元気?」


 ミシェルばあちゃん。実の祖母ではないが、アルの実家の近所に住んでる、一人暮らしの老婆だ。俺が小さいとき、親が忙しくて留守の時に、アルと兄の面倒を見てくれていた


 ほんの少し老婆ばあちゃんと世間話をしてから、アルはアンフィニ卿邸宅の、豪華な作りの門の前にたどり着いた。すると丁度そこに、同い年ぐらいの若い女が立っていた


 大きな黒い瞳に、くっきりとした目鼻立ち。長い黒髪を後ろで一つに束ね、スラリと長い手足。パンツルックとショートブーツが似合う、『』ナイスバディの美人が、そこにいた

 

 「う〜ん、ナイス勃起エレクチオン!」


 アルはえりを正し、帽子を被り直すと、”有り余る下心“をひた隠しにして、その女に話しかけた

 

 「デ、デヘヘ、お嬢さん!お一人ですか?この後、お暇ですか?ぼ、僕、ここが地元なので、案内しましょうか?」


 「あら、兵隊さん。もしかして私を口説いてる?......ん?」


 女が振り向き、不思議そうな顔して、アルの顔をじっと見つめる。こんな美人に間近で見つめられると、アルはドキドキしてきたが、何故だか、見覚えのある顔のような気がしてくる

 

「やだなぁ〜!そんな美人に見つめられるなんて、ボクちゃん、困っちゃうなぁ〜デヘへ.......」


 「......はぁ、全く。そう言うとこ、な〜んにも変わってないのね、”アル“?」


 「えっ!お嬢さん、何故、俺の名前を知っ......」


 言葉を遮り、ニヤリとした女は、アルの股間を蹴り上げた


 「あ゛ぅッ!......ッ〜痛ってえぇ!なぁにすんだ!このアマァ!」


 はしる衝撃に、股間を抑えながら悶絶し、ピョンピョンと跳ね回る。そんな彼を見つめて、女は”イタズラっ子“のように微笑んだ


 「まだ気づかない?アル、僕だよ、エルマーだよ」


 股間の痛みに冷や汗をかきながら、突如現れた、幼馴染に俺は、驚きを隠せず叫ぶ


「ゑ!エルマー!?お......お前、女の子だったのぉ〜ッ!」


 「そうよ。昔は家の方針で“男の子”として育てられてたからね。あ、そう、そう。私の本名はエルサ。エルサ・ロベールよ。まあ、今まで通り、“エル”って呼んでくれれば構わないから」

 

 エルマー改め、エルサが言うには、元々、病気がちな兄、アンドレの代わりに、家督を継ぐべくエルマーとして育てられていた。しかし、数年前『転生者』のもたらした医療技術によって、アンドレの病状は寛解。跡取りの心配がなくなったので、本来のエルサとして、生きているのだと言う


 「今は、お父様の仕事を兄さんと一緒に手伝ってるの。まあ最近の私は『早く結婚しろ』と、お父様が持ってくる縁談ばかりで、困ってるんだけどね」


 あの頃と変わらない笑顔で、エルは笑った

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