第77話 不断の灼熱線

     ◇   ◇   ◇




 えんが紡がれるように、皆が代わる代わる手を繋ぎ、戦っている。


 俺も、こんなところで寝ていられない。


「う、ぐぅぁああああ!」


 『火焔アライブ』を発動しろ。


 魔力マナを燃やせ。


 全身から一滴残らず、全ての力を燃料に変えろ。


 さっきまでは頭にもやがかかっていたようで、何が起こっていたのか薄っすらとしか思い出せない。


 しかし今はそんなことは関係ない。


 ただ目の前にあるこのチャンスを逃すことだけは、絶対にしたくない。


 ホムラ、力を貸してくれ。


 あいつをぶっ飛ばす。


 残った左手で地面を掴み、膝を浮かし、立ち上がる。もう再生に炎を燃やす余力もない。


 ただ今動けばいい。


「シネ、シネ、シネェェエエ‼」


 刃脚が騎町さんを両断し、糸が空道を捉えて爆殺した。


 くそったれ。


 化蜘蛛アラクネは最後に残った村正へと脚を伸ばした。


 瞬間、身体が軽くなる。


 まるで全身に羽が生えたかのように、足が地面を蹴り、駆け出す。


 普段自分が身体を動かしている時と、何ら遜色ないスピードで、化蜘蛛アラクネへと距離を詰める。


 これは、紡の『念動糸クリアチェイン』だ。


 なら、もう何も心配はいらない。俺がすべきことはただ一つだけだ。


 地を蹴り、空に跳ぶ。


「ァアア――?」


 化蜘蛛アラクネが気付き、顔を上げた。


 その時、俺は既に左腕を振りかぶっていた。


 圧縮に圧縮を重ねた、文字通りの全身全霊。五枚の花弁が、陽炎のように揺れる。


 化蜘蛛アラクネは即座に糸を巻き込んだ。


 俺の五煉振槍ごれんしんそうを弾き返した、糸の槍。


 再度それで迎え撃とうとしている。


 上等だ。


 今度こそ、ぶち抜く。




 その瞬間、『火焔アライブ』が吠えた。




 使い切ったはずの炎が膨れ上がり、花弁の枚数が増える。


 それは、捕食バイトによる魔力マナの強奪。しかしそれは、化蜘蛛アラクネからではない。


 全身に巻き付いた紡の糸を赤く燃やし、そこから彼女が流し込む魔力マナを己の力とする。


 ドクン、ドクン、と心臓が脈打つのが分かる。


「行って、護!」


 紡の血が流れるような感覚に、全身が熱くなった。



 ――ぶっ飛ばす。



「ぁぁあああああああああああああああああああ‼」



「シネェェエエエエエエ‼」


 上から下へと撃ち出す拳は鉄杭てっくいの如き重さで糸の槍と衝突し、そして貫く。


 燃え盛る炎は、俺自身すらも焼き焦がし、咆哮ほうこうした。




 『七煉振槍ななれんしんそう』。




 ゴウッッ‼‼ と七枚の花弁が拳の先で咲き誇り、怪物モンスターを焼き尽くす。


 まるでそれは勝利を祝福する花火のように、退廃の街を照らした。


 炎は俺も、化蜘蛛アラクネも、平等に飲み込み、後には何も残らなかった。


 これこそが戦いだとでもいうように、静けさだけが、舞い降りる。


 そうして生徒たちによる怪物モンスター完全制圧という、歴代に類を見ない結果でもって、適性試験は終わりを迎えた。

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