第35話 覚悟 ―星宮―
◇ ◇ ◇
悔しい! 恥ずかしい! 大馬鹿者!
走る
自分が避難の手助けなんて提案しなければ、男を問い詰めていなければ、ああはならなかったはずだ。
織宗次郎は倒れ、真堂護は足止めのために残った。
ランク2の
何が人々の助けになりたいだ。
何が父に憧れているだ。
「ッ──」
自分は、何もできなかった。
逃げる判断も、戦おうとしたのも、真堂護だった。
彼よりも長く
だというのに、
みっともない。
護が
迷わず有朱を助けた彼の姿を見て、勝手に期待していたのだ。
きっと自分と同じ思いをもって
理想を押し付けていた。
だから、落胆してしまった。
結局その人に助けられ、全てを押し付けて逃げ出している。
口の中に血の味が広がり、それが余計惨めに感じられた。
それでも止まらない。止まれない。
走り、走り、誰かに呼び止められた。
「君、どうしてこんなところにいるんだ!」
「後ろにいるのは、
警察だった。
まだ残っている人がいないかどうか、
有朱は彼らの姿を見とめると、その場で男を下ろし、手を引いていた佐々木を離した。
「ランク2の、
有朱の言葉に驚いた様子の警官たちは、気まずそうに視線を合わせた。
嫌な予感が、背筋を這い回る。
「応援は──?」
「別の場所でも大量の
「‥‥‥‥」
言葉が出なかった。
それじゃあ、それじゃあ一人残った護は、どうなる?
「あり、がとうございます。二人を、よろしくお願いします」
有朱は歯を食いしばり、うめくように礼を言った。
そして
「あ、おい!」
「止まりなさい‼︎」
制止の声を無視して、走る。
行ってどうにかなるとは思わない。もう何もかもが終わっていて、無駄死にするだけかもしれない。
それでも行かないわけにはいかなかった。
絶望は巨大だった。
戦場に行けば彼が力なく倒れていて、もう全てが終わったのだと悟る。その未来が、ほとんど確定していた。
だからこそ、有朱はその光景を見た時、信じられなかった。
「がぁぁああああああああ‼︎」
「ァァアアアアアアア‼︎」
護が、戦っていた。
火花を散らし、流れる血を燃やし。
ランク2の
それはあり得ないことだった。
B級の
つまり彼は、
「嘘‥‥」
これは奇跡だ。
そして奇跡は長くは続かない。
足を回して拳を振るう護の呼吸は、目に見えて荒い。もういつ倒れてもおかしくないほどだ。
何よりも、攻撃がうまく届いていない。彼の攻撃方法は徒手格闘。懐に潜り込まなければならないが、
一番の障壁が、角から
もはや逃げることはできない。二人で生き残るためには、あれを倒す他ない。
「はぁ──」
自分がなすべきことが、見えた。
しかしそれをすれば、ランク2の
あの目に睨まれ時、さっきはまともに動くこともできなくなった。
それでも、今なら動ける。そう思える。
前で、彼が戦っているのだ。
一番怖い場所で、危ない場所で、有朱たちを守るために命を削っている。
「星宮有朱! 覚悟を決めなさい!」
自分に喝を入れ、
光のアイコンが弾け、彼女の周りにいくつもの光弾が浮かび、線で繋がれた。
彼女が最も得意とする遠距離
激しく立ち回る二人目掛けて、流星群が放たれた。
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