第34話 負荷雷光

 振るわれる刃。


 紫電を纏うそれが目の前まで迫った時、手の甲を刀身に沿わせる。


 思い出した。


 速い動き、強力な攻撃。怪物モンスターが自分たちよりも強いなんて当たり前だ。


 だから技術を磨き、意識を変える。


 たった一ミリの空隙に、生きる道がある。


 逸れた剣が毛先を掠めていくのを感じながら、黒鬼ダークオーガの顔を見据える。


 恐るな、視線を逸らすな。


「振槍」


 ゴッ‼︎ これまでにない手応えで、鬼の頭が後ろに仰け反った。


 それでも黒鬼ダークオーガの動きは止まらない。仰け反りながら、剣を切り返してくる。


 それを掻い潜りながら、今度は脇腹に拳を突き立てる。


「オ、ォオオオ」


 鬼から聞こえるそれは、うめきか怒りの声か。


 ただ殴るだけじゃない、拳には炎をまとわせ、それで黒鉄の肌を焼き、魔力マナを喰らう。


 使う分だけ、奪い取る。


 振るわれる剣に合わせ、足を動かして有利な場所を取る。


 こいつにまともな技術はない。落ち着いて立ち回れば、攻撃を受けずに殴れる。


 剣崎や星宮に比べれば、見切りやすい。


 何度目かの拳を入れた時、鬼の身体が揺らいだ。手だけで振るわれようとする剣を見た時、頭の中の本能にも近い場所が身体を動かしていた。


 深く身体を沈み込ませ、大地を蹴ると同時に炎を噴かして加速する。


 ──閃斧せんぶ


 火炎の一閃が、剣の横を通り過ぎ、黒鬼ダークオーガの胸を捉えた。


 爆発音のような音を立てて衝突し、鬼が吹き飛んだ。


 路面に散った火と煙が、道のように残る。


「‥‥ふぅ‥‥」


 入った。


 無我夢中だったけど、入れられると思った時には身体が動いていた。魔法マギの練度は間違いなく上がっている。


「ァァァ」


 だらりと身体を投げ出していた黒鬼ダークオーガが立ち上がり、声を出した。


 硬えな。閃斧をまともに受けても、傷らしい傷にもならないのはおかしいだろ。


 まあそれでもいい。


 次はどう来る。


 何が来ようと、見切って、殴る。


 しかし黒鬼ダークオーガの行動は、俺の予想を裏切った。


「ァァ──ァァァアアアアアアアアア‼︎」


 断末魔よりもおぞましい叫び。ビリビリと地面が震え、周囲の建物のガラスが砕けて落ちてくる。


 なんだ、一体何をしようとしてるんだ。


 その時、二本の角の間に紫電が走った。何度も、何度も、激しく。そうして生まれるのは、これまでのような火花に近いものではなく、光り輝くプラズマの塊。


 凄まじい魔力マナの圧。


 あれは、やばい。


 炎を前面に集中させ、壁のように燃やす。




「『負荷雷光ペインボルト』」




 これまでに受けたダメージを鬱憤うっぷんごと叩きつけるように、紫電が荒れ狂った。


 雷が間近で落ちたような轟音と共に、地面に白くのたうつわだちが引かれる。


 衝撃は即座に来た。


 『火焔アライブ』は決して受けに強い魔法マギではない。


 炎の壁が持ち超えたのはほんの数秒。


 紫電の槍が火を貫き、俺の身体を幾度となく突き刺した。


「ぁがぁっ──‼︎」


 痛いなんてもんじゃない。脳の神経が焼き切れたかと思った。


 くそ、そんな大技があったのかよ。ふざけやがって。


 とにかく『火焔アライブ』を再生に回して、身体の内部から治す。


 意識が途切れたら死んでた。


 魔法マギの発動を止めるな。死ぬほど痛くても、それを噛み締めろ。


 拳を地面に叩きつけ、痙攣する身体を無理矢理起こす。


 白熱した地面の上で、砕けたガラスが溶けていた。


 その上で、角に紫電を走らせる黒鬼ダークオーガが悠然と歩いてくる。


 起き上がって、構える。まだ痛みと傷でまともに動かない身体を、炎が動かす。


 さあ、第二ラウンドと行こうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る