第7話
それから半年後。
私達は行く時より少し時間をかけ、同じ道を通り、国に戻った。
帰りは新しいメンバーが2人加わった。
出遭ったモンスターを倒し、野宿の時は交代で見張りをし、宿に泊まる時は
城に戻るとすぐに結婚式の準備が始まった。
勿論、ウィリアムと助け出した姫との結婚式だ。
我が国王は式の日を2ヵ月後と決め、様々な国に招待状を送った。
勿論姫の国にも招待状は送られ、それには他の書簡と違って、持参金などは当日持って来られるが良い、と書き加えられていた。
姫の国から国王一行がこの国に着くにはどんなに急いでも1ヵ月はかかる。
招待状が届き、支度をする時間を考えれば、2ヵ月、という期間はいささか短い。
他国の王と違って、単身早馬で駆けつける訳にいかないからだ。
式の日が近づくにつれ馬や輿で国王達が続々と城に集まり、久しぶりに会った、或いは初対面の他国の王と親交を深めた。
そんな中、姫の父たる王が常識より多い軍勢を引き連れて城に着いたのは、式の当日。
すでに式は始まっていた。
大勢の国王達の前で、ウィリアムと姫は永遠の愛を誓う。
その最中、大広間に姫の父が乱入してきた。
「この結婚に異議あり。我が娘はそこのおなごではない!」
ウィリアムは姫を庇うように王の前に立った。
「何を仰るのです?私がドラゴンの巣から助け出したのはアナスタシア姫。間違いありません」
「ドラゴンから姫を取り返して来られるなど、あるはずがない。王子は拾ったおなごを姫に仕立てたのだ」
王はウィリアムを押しのけると、姫君の腕を掴んだ。
「お前はどこのどいつだ?顔を見せろ!」
王は姫の顔を覆うベールを手荒く払った。
王は姫の顔を見て息を飲み、目を丸くした。
「お父様、酷いわ。私の結婚式が台無しになってしまった……」
姫は涙をぽろぽろ流す。
「お前………なぜここに……城にいたのではないのか……」
「城に?そんな訳ないでしょう?私はドラゴンに囚われ、ウィルに助け出してもらった。城には1年以上戻ってなくてよ」
姫は涙をこぼしながら王に反発した。
「違う!ドラゴンに攫われたのはメイドだ!一体どうしたのだ、アナスタシア?お前はずっと城にいたではないか」
「お父様こそどうなさったの?まさか………持参金を出すのが惜しくなってそんな事を仰っているの?」
「ぃや、確かに持参金は持ってきておらんが、それは結婚するのがお前ではないと知っていたからで………」
王はあたふたと取り繕う。
「酷いわ!」
姫は盛大に泣き始めた。
ここで我が国王が彼らの前に進み出た。
「あなたは彼女が姫ではない、と仰った。だが、姫はそれを否定される。一体どういう事ですかな?」
「ぁ、ぃや、それは………」
王はキャシーが姫になりすましている、と考えていたのだろう。
だが、ベールの中の顔は確かにアナスタシア姫のもので、その声も話し方も彼女のものだった。
それで慌ててしまい、話さなくても良い事を話してしまったのだ。
愚か者が。
我が国王は相手の狼狽ぶりを見て、更にたたみかける。
「あなたは姫が城にいた、と仰った。ドラゴンに攫われたのはメイドだとも。まさかメイドを助ける為にウィリアムを危険な目に遭わせた、と仰るのか?」
「その………それについては……」
「更に持参金も持たず城に来た、と。アナスタシア姫が結婚する訳ではないと知っていた、と」
我が国王の腹から出る低い声は、相手を完全に威圧していた。
器の違い、というヤツだ。
「シャーロット、魔法を解け」
我が国王は私に命じた。
私は杖を振り、姫の姿を元に戻した。
我が国王は娘の手を取って大勢の国王達の前に出た。
「確かにこの娘はアナスタシア姫ではない。ウィリアムがドラゴンの巣より救ったのはこのキャシーだ。では肝心のアナスタシア姫は何処に?その答えはたった今、その父の口から発せられた。ウィリアムはこの男に謀られたのだ。どなたかこの事に異論を唱えられますかな?」
国王達は黙ったままだった。
「では、それを知った私がこの男を憎み、このような芝居をした事をご理解頂けますか?」
国王達は一斉に頷いた。
我が国王は満足げに辺りを見回し、それから震えている王を見た。
「我が国に攻め入るおつもりなら何時でも来られるがいい。が、あなたの国はすでに我が支配下にある。連れて来た軍は全て捕虜にした。牢に入るか、一文なしでここから出て行くか、どちらか選ぶ事を許す」
我が国王の言葉通り、今頃はダンの率いた軍勢が城に入っているはず。
キャシーを完璧に変身させる為、私はヘンリーの手を借りて姫の国に行き、姫を観察した。
その帰りに武器庫に封印術を施しておいたので、ダンは抵抗される事なく城を制圧しただろう、と思う。
王だった男は開いたままだった扉から脱兎のごとく逃げ出した。
「シャーロット」
我が国王の言葉に、私は男に向けて杖を振った。
「あの男の手の甲には罪人の印を施した。まさか、とは思うが、彼の者に手を貸すおつもりなら、お相手いたそう」
国王達は頭を振った。
我が国王はにっこり笑って、キャシーを見た。
「さぁ、ご苦労だった。今後はラリーと共に我が国を支えてくれ」
「ありがたき幸せにございます」
キャシーは深く頭を下げた。
姫付きのメイドだった彼女は、実に見事に姫を演じてくれた。
彼女のおかげでこの芝居が成功した、と言っても良いだろう。
「さて、これからが本当のウィリアムの結婚式だ。花嫁をこれへ」
ウィリアムが奥の扉に向かった。
そこを開けると、花嫁衣装の娘が出てきた。
「この者はウィリアムと共に旅した娘です。ウィリアムが惚れて惚れて、惚れ抜いてしまい、どうしても結婚したい、と幼子のようにごねましてなぁ。大変な親バカだが、それを認める事にしました」
親バカっぷりが恥ずかしいのか、ウィリアムに手を取られ出てきた花嫁を、我が国王は照れくさそうに紹介した。
国王達はさっきまでと打って変わった我が国王の態度に笑みをこぼす。
「さぁ、アンジー。待たせたな」
「いいえ。とっても楽しかったです」
我が国王は花嫁に笑いかけて、祭壇に向かわせた。
それから式が始まり、滞りなく終わった。
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