第6話


翌朝、禁薬を取りに行く事は出来なかった。


ウィリアムが急に出る、と言ったからだ。



「2、3日ゆっくりする、と言っていたはずだが」



私は歩きながらダンに聞いた。



「さぁて、俺にも理由は分からん。夜のうちに気が変わったんだろう」



何か用事があったのか?と聞かれても頭を振るしかない。


禁薬の事は気になるが、それだけの為に待ってくれ、というのも気が引けた。


あれは私以外の人間には蓋を開ける事も出来ないのだ。


納屋の持ち主が見付けても、また店に持って行くのが関の山だろう。


帰り道にでも寄ってみればいい。


それよりも気になるのはヘンリーの姿が見えない事だ。



「ダン、ヘンリーはどうした?朝からずっと見てないし、もう村を出てしまう」


「あぁ、ヤツは別の道で行くそうだ」


「一人で?大丈夫なのか?」


「元々一人で世界中を飛び回ってる奴だ。心配せんでも足手まといがいなくなって清々してるだろうよ」


「心配などしておらん」


「そうか……それより、ヤツがいない分、シャーロットの負担が大きくなるが大丈夫か?」


「当たり前だ。最初からヘンリーの事など当てにしていない」



私の言葉にダンは肩を竦めた。


が、ダンの言った通り、二人でモンスターと戦うのは骨が折れた。


2、3体なら問題ないが、一気に10体ほどで掛かって来られると、私も守備だけしている訳にはいかない。


アンジー達を守りながら杖を振り、ダンと一緒にモンスターを倒した。


ウィリアムは先を急ごうと朝から晩まで移動するし、大きな村はあの時以来なかった。


私はイライラしながら旅を続けた。


私にムリするな、と言ったヘンリーがいない所為でムリせねばならないとは。


傍にいるとイライラするが、いないともっとイライラする。


本当に忌々しい事だった。






大きな村を出て2ヵ月後、ドラゴンの巣まで後3日、という距離まで迫った時、私の前にヘンリーが現れた。


皆で野宿の用意をしている時だった。


私は補充用の薬草を探していた。



「久しぶりだな、シャーロット」


「ヘンリー!お前一体今まで何をしていた?別の道ってどういう事だ?私がどんな気持ちで………その御仁は?」



私はヘンリーの後ろに男が一人いるのに気付いた。



「あ~~紹介しよう。かれはラリー。ドラゴンに囚われてる姫さんの恋人だ」



私は握手の為に差し出そうとした手を止めた。



「恋人?姫君のか?」


「そうだ。まぁ、話はみんなのとこに行ってからだ」



ヘンリーはそう言って歩き出した。


ラリーも後を付いて行く。


私はその後を追った。


焚火を囲んだ皆の前でヘンリーはラリーを紹介し、話し始めた。



「俺、みんなと別れて姫さんの国に行って来た。で、聞き込みした。姫さんを取り戻せなければ戦が始まる、とシャーロットは言ったが、それが事実かどうか知りたかったからだ」



戦が始まらないのなら、取り戻さなくても良いんじゃないか、とヘンリーは考えたらしい。


そして聞き込みをするうちにおかしなことに気付いた。


国の人間は城の姫がドラゴンに攫われたなんて、誰も知らなかったのだ。


不思議に思ったヘンリーは城にも忍び込んだ。


そこで聞いたのだ。


攫われたのは、姫付きのメイドだという事を。



「あの国の王は、王子の国を欲しがってる。国土は広く、資源豊かな王子の国のほんの一部でも自分の国に、と考えているようだ。娘が結婚すれば同盟関係が出来て、戦を仕掛けることもままならなくなる。そこで一計を案じた訳だ」



姫が攫われた事にして、ウィリアムに取り返させる。


が、相手はドラゴン。


簡単にはいくまいし、上手くすれば戦を仕掛けるきっかけにもなる。



「俺、姫さんも見てきた。部屋で刺繍してたよ。囚われてるのがメイドなら取り返さなくてもいい、と思った。姫は城にいるって公言すれば戦は起こらないだろう、とも思った。で、帰ろうとした時、この人に会った」


「私はキャシーを取り戻したいのです。お願いします。私に力を貸して下さい」



ラリーは頭を下げた。


私達はウィリアムを見た。


しばらくの間、ウィリアムは何も言わなかった。



「私は、この者達を助けたいと思う。だが、姫ではないと分かった今、アンジーをドラゴンにくれてやる事は出来ない。何かいい考えがあるだろうか?」



ウィリアムはジョンを見た。



「さて、わしにはヘンリーが妙案を持っているように見えますがな」



ジョンは白いひげを撫でながら答えた。



「ヘンリー、そうなのか?」



ウィリアムの問いにヘンリーは頷いた。



「ただ、俺の作戦にはシャーロットの力が必要だ」


「シャーロット、お前次第、だそうだ」



ウィリアムが私を見る。



「王子のお心のままに」



私の答えにウィリアムは頷いた。


それを見たヘンリーは、その計画を話し始めた。

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