第18話:その頃、竜人の国カイスエント帝国では ※三人称視点※


※三人称視点※


 竜人の国カイスエント帝国の帝都。エリアザード辺境伯ガリオン・エリアザードは、皇帝エルダリオ・サウラスに呼びつけられた。


「陛下。今、何と……赤竜の国ヴァルダーク帝国と再び戦争になると仰るのですか?」


「なに、まだ戦争というほどのことではない。我がカイスエント帝国に出現するヴァルダーク帝国の赤竜を討伐するのだ。

 野蛮な赤竜どもの暴挙を、これ以上見過ごす訳にはいかぬ。ガリオン、貴様に討伐の指揮を執って貰うぞ」


 赤竜の国ヴァルダーク帝国は、竜人ではなく竜が支配する国だ。


 赤竜が支配するのはリザードマンなどの爬虫類系の種族で。ヴァルダーク帝国は文明的には劣っていると、カイスエント帝国の竜人は蔑んでいるが。常に強大な力を発揮する竜の力は、竜人を凌ぐ。


 竜と竜人という近しい種族ながら。二つの種族は度々紛争を繰り返して来た。

 強大な力を誇るヴァルダーク帝国の侵攻を前に、カイスエント帝国は何度も苦渋を飲んで来た。

 

 しかし150年ほど前、史上最強の竜人と呼ばれるジャスティア・エリアザードの活躍によって。数多くの赤竜が仕留められて、ヴァルダーク帝国は弱体化した。


 以降、ヴァルダーク帝国がカイスエント帝国に侵攻することはなかった。しかし近年になって、ヴァルダーク帝国の赤竜が、度々カイスエント帝国領内に出現して。村を襲って略奪を行うようになった。


 これを勢力を取り戻したヴァルダーク帝国が、再び侵攻を始める前触れだと言う者もいたが。ガリオンは、たかが村の1つや2つが襲われただけであり。魔物に襲われたようなモノだと、完全に無視していた。


 しかし皇帝直轄領の村が赤竜に襲われたことで。エルダリオ皇帝は危機感を持ち。強大な魔物が巣食う辺境に面した領土を持ち、帝国屈指の実力を誇る竜騎士団を抱えるエリアザード辺境伯のガリオンに白羽の矢を立てたのだ。


(たかが村が1つ程度で、陛下は何を考えているのだ? 襲われた村に価値などなかろう。

 殺されたのは村を治める変わり者の竜人の家族と、あとは人間に過ぎん。竜に殺される弱者など生きる価値はないし。人間など勝手に増えるだろう)


 赤竜を討伐したところで、ガリオンが得る対価はたかが知れている。皇帝の覚えがが良くなるだけで、新たな領地を得られる訳ではない。

 それに対して、もし部下の竜騎士に犠牲が出れば、エリアザード辺境伯家の損害は大きい。


 竜騎士を育てるのには時間も金も掛かるのだ。そうでなくとも、出来損ないのグレイオンを始末するために辺境に追いやった際に、2人の竜騎士を失っている。他の貴族の台頭もあって、エリアザード辺境伯の勢力は衰えている。


 ガリオンにとっては、帝国内での地位を高めることが全てであり。封建制のカイスエント帝国において、絶対的な権力者ではない皇帝に気に入られるよりも。自らの財や戦力を増やすことの方が重要だ。


 それにカイスエント帝国に現れる赤竜も、はぐれ竜と呼ばれるヴァルダーク帝国でも爪弾きにされる存在である可能性が高く。ヴァルダーク帝国が今さら本気で侵攻して来る筈がないと、ガリオンはタカを括っていた。


 しかし皇帝の勅命を無視する訳にもいかず。ガリオンは頭を悩ませる。相手がヴァルダーク帝国の赤竜であれば、万全を期すには最低でも3人の竜騎士を派遣する必要があるだろう。


 だが辺境に面するエリアザード辺境伯領には、魔物が出現することが多く。皇帝が考えているほど戦力に余裕はない。

 皇帝直轄領に竜騎士を派遣している間に、辺境伯領に被害が出たとしても自己責任であり。皇帝に補填を求めることはできないのだ。


 ガリオンは考え抜いた末に結論を出す。皇帝直轄領に3人の竜騎士を派遣するが、その内2人をガリオンの次男オルランドと三男スレインにした。


 オルランドもスレインも年齢は20代であり。竜騎士団の主力である100歳を超える成竜クラスの竜騎士に比べれば、実力はだいぶ劣る。しかし同行させる竜騎士のサポートに徹すれば、問題ないだろう。その分、成竜クラスの竜騎士2人を辺境伯領に残すことができる。


 さらには赤竜を討伐すれば、息子たちの功績になる。実際に赤竜を仕留めるのは同行する竜騎士だろうが、部下の功績は将のモノになるのだ。

 エルダリオ皇帝も、ガリオンが自分の息子たちを討伐に向かわせるのであれば、文句はないだろう。


 そして万が一、2人の息子が赤竜に殺されたとしても。エリアザード家にはガリオンに匹敵する天賦の才を持ち、すでに戦場で活躍している長男がいる。


 ガリオンは弱者に興味がなく。今回の赤竜討伐を、2人の息子の実力を測る試金石だと考えていた。この程度で死ぬような息子であれば、必要ないと。


「父上、承知しました。このオルランド、必ずや赤竜を討伐して見せます!」


 まだ家督を継ぐことを諦めていない次男のオルランドにとっては、今回の件は自分の実力をアピールする絶好の機会であり。どんな手を使っても、赤竜を討伐すると心に誓う。


「父上、俺もエリアザード家の竜人に相応しい戦いぶりをご覧に入れます」


 一方、三男のスレインは家督を継ぐなど、とうに諦めており。今回自分が派遣されることに疑問を懐きながら。上手く立ち回ることだけを考えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る