第17話:道連れ


 俺たちと『野獣の剣』は、完全に手打ちにということで。話が纏まると。


「用が済んだなら。グレイ、私と戦って!」


 狼の獣人レベッカが当然のように言う。


「なんで、そういう話になるんだよ? 俺にはおまえが戦う理由がないって言っただろう」


「理由ならある。私はグレイと戦いたい!」


 レベッカは別に悪意がある訳じゃなくて。純粋に俺と戦いたいって感じだ。ホント、変な奴だよな。


「じゃあ、却下だ。俺はそんなに暇じゃないんだよ」


「むう……グレイ。君は本当に意地悪だね」


「グレイ、済すみません。レベッカは貴方のことが相当気に入ったみいで」


 話し掛けて来たのは、4人組のA級ハンターの最後の1人。蛇の獣人の女だ。


「私も自己紹介がまだでしたね。A級ハンターのシーダです。レベッカたちと4人でA級ハンターパーティー『野獣の剣』を組んでいます」


 ちなみにシーダは回復役ヒーラーで。昨日のギースの怪我も、シーダが魔法で治療したらしい。


「俺を気に入ったとか言われてもな。正直、俺はレベッカを面倒臭い奴だと思ているよ」


「その言い方……グレイ、君は本当に意地悪だね」


 レベッカが頬を膨らませる。こうしていると、本当に子供みたいだな。


 手打ちをしたことだし。俺とクリフは『野獣の剣』の4人と一緒に酒を飲むことになった。


「グレイたちは何日かキャトルの街にいるって話だったが。その後はどうするつもりなんだ?」


 鹿の獣人ガセルが酒を飲みながら訊いて来る。


「コーダリア王国について、それなりに情報を集めたら。近いうちに、俺たちは迷宮都市トレドの『螺旋らせん迷宮』に向かうつもりだよ」


 俺たちがコーダリア王国に来たのは、特に当てがある訳じゃなくて。俺が生きていることがエリアザード家の連中にバレると、面倒なことになるから。カイスエント帝国とは別の国に来たというだけの話で。


 迷宮都市トレドの『螺旋迷宮』に行くのだって。ゴーダリア王国を支配しているフェンリルに関わらずに、刺激のある生活をしたいだけで。これという目的はない。


 そんな俺に、クリフはついて来ると言っている。クリフは本当にお人好しで、良い奴だよな。


「別に詮索するつもりはないが。グレイたちは本当に、コーダリア王国のことに詳しくないみたいだな」


 ガゼルが不思議そうな顔をする。


 この辺りで人間が主に住んでいる国はカイスエント帝国だ。

 だけど、ここはコーダリア王国の北部で。カイスエント帝国からだと、普通は南部の街道から入国して。トレドの街に来るには、コーダリア王国の中を北上して来た筈だから。その間にコーダリア王国について、それなりに詳しくなる筈だと考えるだろう。


 だけど俺とクリフがコーダリア王国に来たばかりなのは事実で。知っているフリをすると、基本的なことを聞き漏らす可能性があるからな。


「その辺のことは、人に言えない事情があるんだよ。まあ、察してくれ」


 北部にいるのに、コーダリア王国について知らない可能性があるとすると。攫われて監禁された状態で連れて来られたとか。


 あとは何かの事情があって。俺が知らないと嘘をついていると、考えるかも知れない。だけど、さすがに辺境地帯を越えて来たとは、誰も思わないだろう。それが事実なんだけど。


「ねえ、グレイ。迷宮都市トレドの『螺旋迷宮』に行くなら。パーティーを組む必要があるよね!」


 狼の獣人レベッカが食いついて来る。


「いや、俺はパーティーを組むつもりはないからな」


「クリフと2人だけで攻略するってことか? さすがに厳しいんじゃないか」


 ガゼルは普通に心配しているみたいだけど。


「僕がグレイと一緒に、ダンジョンに行くことはないと思いますよ。僕なんかじゃ、グレイの足手纏いにしかなりませんから」


「途中の階層までなら、問題ないだろう。クリフだって、それなりに戦えるんだから」


「グレイが僕のペースに合わせてくれるならね。だけど、そこまでして貰ってダンジョンを攻略する理由が、僕にはないからね」


 俺とクリフの会話を聞いていたガゼルは。


「つまりグレイはソロでダンジョンに行くってことか?」


「ああ。俺はずっとソロで攻略して来たから問題ないよ。それに何かあっても、ハンターは基本自己責任だろう?」


 別に己惚れているつもりはないけど。自分がダンジョンで死ぬなんて、想像できないし。万が一、死にそうになったとしても。誰かに助けを求めるつもりはない。


「おい、グレイ……てめえに喧嘩を売った俺が言うのも何だが。ガゼルはおまえのことを、心配しているんだぜ!」


 虎の獣人ギースまで、話に入って来る。


「いや、それは解っているけど。おまえたちには関係ないだろう」


「何だと……クリフ、おまえも何で止めねえんだよ!」


「グレイを止める? 僕はグレイの実力を知っているから。そんな必要はないって、解っているんですよ」


 クリフが遠い目をする。クリフは俺とジャスティアの立ち合いを、ずっと間近で見て来たからな。


「確かにグレイはつええが……そこまでの実力なのか?」


 ギースがゴクリと唾を飲み込む。クリフは否定しない。


「まあ、そういうことだから。おまえたちが心配することじゃないし」


「私たちがグレイと同じタイミングで『螺旋迷宮』に行くのは問題ないよね?」


 レベッカは相変わらずのマイペースで絡んで来る。


「俺に止める権利はないからな。勝手にしろよ」


「うん、勝手にする。と言うことで。グレイたちと一緒に私たち『野獣の剣』も、迷宮都市トレドの『螺旋迷宮』に向かうから。これは決定事項!」


「いや、一緒に向かうって。そんな話はしていないだろう」


「うん。私たちは勝手にグレイについて行くだけ。だから何の問題もない」


 こいつは何を言っているんだよ? だけどレベッカは引くつもりはないらしい。


「結局、レベッカが面倒を掛けることになったみたいだな。グレイ、済まない」


 ガゼルが申し訳なさそうな顔をする。


「いや、ガゼルが謝ることじゃないだろう」


 俺だけなら、1人で移動した方が絶対に速いけど。クリフが一緒だし。そこまで急ぐ訳じゃないから。一緒に移動するくらいは構わないだろう。

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