第19話:旅路
それから2日後。俺たちは『野獣の剣』の4人と一緒に、迷宮都市トレドに向けて出発した。
「グレイ。これでお別れだね。キャトルの街に来たら、また声を掛けてよ」
「ああ、そうするよ。俺もミランダに会いたいからな」
俺とミランダは抱き合って、キスをして別れる。
俺たちには、それぞれやりたいことがあって。お互いに納得した上での関係だから。相手を束縛するつもりはない。
ガゼルたち『野獣の剣』のメンバーは、騎竜と呼ばれる2足歩行の
俺とクリフは歩いて移動するつもりだったけど。ガゼルたちに誘われて、一緒に馬車に乗ることになった。
迷宮都市トレドまでは、馬車で1週間掛かるらしい。つまり、こいつらと一緒に1週間過ごすことになる。
「ねえ、グレイ。私と戦って!」
「いや、戦わないから」
「むうう……グレイはホント、意地悪だね」
1時間に1回は、レベッカに誘われるけど。全部断っている。正直、レベッカの相手をするのが面倒になって来た。
それでも道すがら、ガゼルたちからゴーダリア王国の話が聞けるから。プラスマイナスゼロってところか。
移動中のメシは、それぞれ自分たちで用意することになっていたんだけど。
「グレイ……その……
『野獣の剣』のメンバーたちは料理をする能力がゼロらしく。初日は街で買った出来合いのモノを食べていたけど。
2日目には保存が利く硬いパンと干し肉。あとは塩で適当に味付けしたスープを食べていた。
俺とクリフは、移動中は時間があるし。ジャスティアの城塞にいるときに、シェリルに料理を教えて貰ったから。自分たちで料理をすることにしている。
俺だって別に、そこまで料理が得意な訳じゃない。シェリルに教えて貰ったレシピ通りの分量と手順で料理して。スパイスやハーブを適量加えて、あとは塩胡椒で味を調えるだけだ。
それでも『野獣の剣』のメンバーたちには、料理の匂いが堪らないらしく。
「ねえ、グレイ。僕が言うのも何だけど。馬車に乗せて貰っている訳だし……」
そんなガゼルたちのことが、クリフは気になるみたいで。
「そうだな。食材には余裕があるし。だったら、おまえたちも一緒に食べるか? メシくらいなら、おまえたちの分まで俺たちが用意しても構わないけど」
俺の提案に『野獣の剣』のメンバーたちは飛びついた。こうして旅の途中、こいつらのメシの面倒を見ることになった訳だけど。
「この肉……マジで美味えぜ……」
「ああ……俺も本当にそう思う。これを食べたら、他のメシなんて食えないな!」
「私たちの食事係として雇われる気は……いいえ。スミマセン、失言でした」
「みんな、何を言っているの? グレイはご飯よりも私と戦うことを優先する!」
こいつらは、大袈裟だよな。レベッカは相変わらず、マイペースだけど。こいつもガッツリ食べている。
「だがクリフは本当に意外な奴だな。見た目は全然強そうじゃねえのに、俺の攻撃を躱したし。料理の腕だって……」
「いや、僕も下ごしらえは手伝いましたけど。この料理は、ほとんどグレイが一人で作ったんですよ」
クリフのセリフに、ガゼルたちが驚いている。
「僕たちが一緒に行動するようになって。グレイは料理なんて、ほとんどしたことがなかったんですけど。グレイは何をやっても、一度見ただけで直ぐにできるようになって。今では料理でも全然敵いませんよ」
クリフが苦笑する。まあ、否定はしないけど。料理が上手いのは、素材が違うからだろう。
俺は『
その中には肉が高級食材として扱われる魔物もいて。俺は別に金に困っている訳じゃないから。その肉を料理に使っている。
グレーターミノタウロスの変異種や、オークキング。フェニックスの肉は、脂が乗っていて。確かに普通の肉よりも美味いからな。
説明すること面倒なことになりそうだから、言わないけど。
※ ※ ※ ※
迷宮都市トレドへの移動中。俺たちは何度か魔物と遭遇した。
「全部、私が倒す!」
魔物の匂いに気づいた狼の獣人レベッカが、真っ先に飛び出して行く。
双剣使いのレベッカは魔物よりも速く動いて、次々と仕留めて行く。だけど、こいつは独断専行。パーティーの連携なんて全然考えていないように見える。
「チッ……レベッカの好きにさせるかよ!」
虎の獣人ギースも、レベッカと似たようなもので。大剣使いのこいつは、魔物の群れの中に飛び込んで行くと。大剣を力任せに振り回して、魔物たちを薙ぎ倒していく。
取り逃がした魔物たちが馬車の方へ向かって行っても、お構いなしだ。
「レベッカ、ギース。それ以上、離れるな。俺が帳尻合わせをする羽目になるだろう!」
だけど鹿の獣人ガゼルがいるから。これでも『野獣の剣』はパーティーとして成り立っている。
ガゼルは
「ガゼル、解っている。だけどガゼルがいるから、この距離なら問題ない」
「そうだぜ、ガゼル。ヤバいときは、即行で戻るから。それまでは好きにやらせろや!」
レベッカとギースも、ガゼルの指示は一応聞いているようで。ガゼルが長いリードを掴んで、2人の動きを調整している感じだな。
回復役のシーダもA級ハンターだから。そこらの魔物が相手なら、自分の身を守れるくらいは強い。
だからレベッカとギースを下手に縛りつけずに自由に戦わせた方が、戦力として機能する。まあ、2人の性格を考えれば、そうするしかないんだろうけどな。
こいつら4人がいれば、俺が手を出すまでもないと思うけど。
「ガゼルさん。僕も戦います!」
クリフが参戦して、剣で魔物を仕留める。
クリフは別に戦闘好きじゃないけど。一緒に行動しているのに、自分だけ戦わないような性格じゃないし。真面目な奴だから、魔物を倒して自分の生活費を稼ぎたいんだろう。
街道に出現する魔物は、そこまで強くないけど。クリフは全然危なげなく戦っている。
とりあえず、俺も一緒に行動している訳だから。馬車に向かって来る魔物を適当に仕留める。
「グレイとクリフは勝手に動かなくて助かるよ」
「レベッカさんとギースさんが一緒だと、ガゼルさんは大変そうですね」
「戦力的には、おまえたちだけで十分だし。俺たちは適当にフォローするから、ガゼルは気にするなよ」
「クリフ、グレイ。おまえたちは……良い奴だな」
ガゼルが涙ぐんでいるように見えるのは、俺の気のせいだろう。
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