第20話:迷宮都市
キャトルの街を出発してから1週間後。俺たちは迷宮都市トレドに到着した。
迷宮都市トレドを一言で言えば、雑多な街だ。
『
まあ、俺が実際に知っている街なんて。エリアザード辺境伯領にある街と、キャトルの街くらいだからな。街の機能性と言っても、俺の知識は本で読んだものだ。
「グレイ。『螺旋迷宮』には、いつ向かうんだ?」
鹿の獣人ガゼルが訊く。
「とりあえず、今日は宿を取って。『螺旋迷宮』に行くのは明日からだな」
俺たちは宿屋を決めると、6人で夕飯を食べに行く。
「こんな店のメシより、グレイが作るメシの方が美味えな」
虎の獣人ギースはそう言って、酒で料理を流し込む。
ギースに褒められても嬉しくないし。料理の腕と言うよりも、素材の違いだからな。
迷宮都市トレドには『螺旋迷宮』目当てのハンターが集まっていて。この店もハンター御用達らしく、客の大半がハンターだ。
なんでハンターだと解ったかと言うと。大抵のハンターが等級を現わすプレートを首から下げているからだ。
ハンターのプレートは身分証替わりになるってのもあるけど。等級が高いハンターは、自分のプレートを誇示したがる。
「なあ。あんたたちが、あの有名なA級ハンターパーティー『野獣の剣』だろう? こんなところで、会えるとは思わなかったぜ!」
ガゼルたち『野獣の剣』のメンバーは、結構な有名人らしく。A級ハンターのプレートを着けていることもあって。他のハンターたちが、しきりに話し掛けて来る。
「チッ……こっちは、てめえらに用はねえぜ」
「私も弱い奴に興味ない」
だけどギースとレベッカは相変わらずで。
「おまえら、そんなに邪険にするなって。みんな、気分を害して悪かったな。お詫びに一杯ずつ奢らせてくれよ」
こういうときも、ガゼルが場を収める。やっぱりガゼルが『野獣の剣』のメンバーの中で一番
蛇の獣人シーダも真面目そうだけど。この1週間、一緒に行動していたら。ちょっと何を考えているか解らないところがあるんだよな。
「なあ。『野獣の剣』のあんたたちが、なんで人間なんか連れているんだ? そいつらは奴隷か荷物持ちなのか?」
隣りのテーブルのハンターたちが俺とクリフを見て、馬鹿にしたように笑う。プレートを見ると全員B級ハンターだ。
俺とクリフはハンターのプレートを着けていないけど。一般的に人間は獣人よりも身体能力が劣るから、弱いと決めつけているんだろう。
魔物を狩るハンターなんて仕事をしている奴の中には、言葉よりも先に暴力って連中が多い。だから思ったことを何でも口にする馬鹿もいる訳で。そんな奴の相手を、いちいちするつもりはない。
クリフも苦笑しているだけで。文句を言うつもりはないみたいだけど。
「グレイとクリフのことを馬鹿にしているみたいだけど。グレイの方がずっと強いし。クリフだって、君たちに負けないと思うよ」
だけど狼の獣人レベッカは、黙っているつもりはないようで。おもむろに立ち上がると、俺たちのことを笑ったハンターたちのテーブルに向かう。
「その人間たちが、俺たちよりも強いだって? いくら『野獣の剣』のあんたの言葉だって、聞き捨てならねえな!」
テーブルを囲んでいた4人のB級ハンターたちが、俺たちを睨みながら立ち上がる。いや、どうしてレベッカじゃなくて。こっちを睨んでるんだよ?
「てめえらが言いたいことは解るが。文句があるなら、拳で語れや!」
虎の獣人ギースが焚きつけるように言う。
「あの、ギースさん。そんな勝手なことを……」
クリフが止めようとするけど。
「私も同感ですね。貴方たちが口だけじゃないなら。グレイたちと戦ってみれば良いじゃないですか?」
蛇の獣人シーダまで、こんなことを言う。やっぱり、『野獣の剣』の中で真面なのはガゼルだけか。
「グレイとクリフには申し訳ないが。これも良い機会じゃないか。ハンターは実力主義だから、おまえたちの力を見せつけてやれよ」
前言撤回。ガゼルも止める気はないみたいだな。『野獣の剣』の中では、まだマシな奴と評価を修正しよう。
これから始まる暴力を期待して、周りのハンターたちが歓声を上げる。ホント、ハンターってのは血の気が多い連中だな。
店の中で暴れたら、迷惑だろうと思ったけど。こんなことは日常茶飯事らしく。従業員たちが戦うスペースを作るために、周りのテーブルと椅子を片づけている。
「グレイ、どうしようか?」
「ここまで来たら、向こうは引き下がるつもりはないだろうな」
完全乗せられた形だけど。どうせやるなら、さっさと終わらせるか。
俺とクリフは、従業員たちが作ったスペースに向かう。相手はB級ハンターが4人だ。
「クリフは何人相手にする?」
「僕は1人で十分だよ」
「じゃあ。残りは俺が先に片づけるか」
俺は一瞬で間合いを詰めると、奴らが反応できない速度で床に叩きつけて。次の瞬間。陥没して出来た穴の中に、3人のB級ハンターが血塗れで転がっていた。
「な……何をしやがッ!」
最後に残った奴が、唖然としているところに。クリフが跳び蹴りを入れて、派手に蹴り飛ばす。
「そっちが喧嘩を売った癖に、何をぼうっとしているんですか! 貴方の相手は僕ですから!」
クリフがいつもの口調で、
「いや、クリフ。もう終わっているから」
「え? 嘘……」
クリフが蹴り飛ばしたB級ハンターは、床に頭を打ちつけて。完全に伸びている。
別にまぐれという訳じゃない。レベッカは
一瞬で4人を倒した俺たちに、周りのハンターたちが静まり返る。
「グレイ、他の人とばかり戦ってズルい。今度は私の番!」
レベッカだけは相変わらずで。嬉々として身構える。ホント、こいつは何を考えているんだか。
「レベッカ。おまえとは戦う理由がないって言っただろう。クリフ、料理が冷めるから。さっさと席に戻るぞ」
「むう……グレイ。君は本当に意地悪だね」
どうしても俺と戦いたいなら。今の4人みたいに、俺に喧嘩を売れば良い筈だけど。
レベッカは戦おうと言うだけで、俺を怒らせるようなことはしない。ホント、こいつは変な奴だな。
「B級ハンター3人を瞬殺か。それに今の動き……貴様は本当に人間なのか?」
このとき。奥のテーブルの方からやって来たのは、狐の獣人の女。
目深に被った帽子。白い髪。琥珀色の瞳。黒い軍服を着ているから、こいつがハンターじゃないことは解る。
ゴーダリア王国はカイスエント帝国と違って、獣人を軍に組み込んでいる。ゴーダリア王国を支配するフェンリルの個体数が少ないからだ。
「そんなことは、どうでも良いだろう。俺に何か用か?」
国を支配する連中になんて、関わり合いたくないけど。向こうから来るなら仕方ない。
「いや、失礼。貴様に少し興味が湧いたというだけの話だ。邪魔して悪かったな」
狐の獣人は意味深ない笑みを浮かべると。簡単に引き下がる。
だけど悪い予感しかしないな。
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