第54話:喰種連合


 『喰種グール連合』の本部は、『獣王会』や『ローゼンファミリー』の本部と違って。犯罪都市ガルブレナのスラム街にある。

 敷地は広いけど。建物は全然豪華な造りじゃなくて、古びた平屋だ。


 門の前には、これ見よがしに抜き身の剣を持った2人の門番が立っていて。他にも塀に囲まれた敷地を囲むように。ガラの悪い連中が、そこら中にたむろしている。


「ゾルディ・ゴーマンに、話があると伝えてくれないか」


 門番に話し掛ける。ライラとクリフ、『野獣の剣』の4人も一緒に来ている。


「うちのボスに話があるだと? てめえ、どういう了見だ?」


 周りのガラの悪い奴らが武器を手にして、どんどん集まって来る。こいつらも『喰種連合』の構成員か? 


「俺はグレイ。『ザクスバウルの毒蛇』を潰したのは、俺たちだって言えば解るだろう?」


「てめえらが例の……それで、うちのボスに何の用だ? 用件次第じゃ、只じゃ置かねえぞ!」


 構成員が剣を構える。そんなに慌てるなよ。


「最近、俺の家に侵入しようとする奴らが多くて。知り合いに聞いたら、ゾルディ・ゴーマンが裏で糸を引いている可能性が高いって話だから。本人に確かめに来たんだよ」


「はあ? 証拠もなしに、うちのボスを疑ってやがるのか?」


「まあ、そういうことだけど。話を訊くだけだから、問題ないだろう? 心配するなって。武器はここで預けるからさ」


 すっかり常套手段になったけど。みんなの武器は俺の『収納庫ストレージ』の中で。今は予備の武器をダミーとして持っている。


 アッサリと武器を渡した俺たちに、構成員が訝しそうな顔をする。


「ちょっと、待っていろ。上に話をして来る」


 門番の1人が門の中に入って、しばらく待っていると。建物の中から、武器を手にした構成員たちがゾロゾロ出てくる。全部で200人くらいか。


「上の許可が出たから、中に入って構わねえぜ」


 戻って来た門番が、下卑た笑いを浮かべる。人数で脅しているつもりみたいだけど。俺たちは平然と門の中に入る。


「てめえら……俺たちを舐めているのか?」


 立ち並ぶ構成員たちが、凄みを利かせて睨んで来る。この人数がいれば、勝てると思っているのか。


「おまえら、何か勘違いしているみたいだけど。俺たちは話をしに来ただけだからな」


 とりあえず、俺は穏便に済ませるつもりだったけど。


「貴様たちに用はない。邪魔だから道を空けろ」


 ライラが嘲るように笑う。おい、挑発するなよ。


「なんだと、てめえ……」


「弱い奴ほど群れるのが好き。丸腰相手に、その人数で掛かるつもり?」


「てめえらの相手なんて、素手で十分だがな」


 レベッカとギースまで、完全に喧嘩を売っているな。


 俺たちは200人の構成員たちと睨み合う形で。道を塞がれているから前に進めない。これじゃ、埒が明かないな。


「おまえら、邪魔なんだよ」


 一瞬だけ威圧するイメージで魔力を放つ。200人の構成員が突然意識を失ってバタバタと倒れる。魔力はこういう使い方もできるんだよ。


「てめえら、何しやがった!」


 外にいたガラの悪い連中が、武器を手にして雪崩れ込んで来る。やっぱり、あいつらも『喰種連合』の構成員だったか。


「おい、勘違いするなよ。こいつらは気絶しているだけだからな」


 俺は説明しても、雪崩れ込んで来る奴らは誰も聞いていない。


「こうなったら、俺たちも攻撃して構わねえよな?」


「向こうから仕掛けて来たから問題ない」


 ギースとレベッカは倒れた構成員の剣を奪ってる気満々だ。


「まあ、仕方ないか。だけど、できるだけ殺すなよ」


「「解った(ぜ)!」」


 ギースとレベッカは嬉々として突っ込んで行くと。襲い掛かって来る連中を、剣の平で纏めて薙ぎ払う。

 ガゼルとライラも武器を奪って参戦すると。雪崩れ込んで来た構成員たちは、次々と吹き飛ばされて、地面に叩きつけられる。


 クリフが顔を引きつらせる。


「ねえ、グレイ……僕たちは話をしに来たんだよね? さすがに、やり過ぎじゃない?」


「だから、できるだけ殺さないようにしているだろう」


 俺は喋りながら、突っ込んで来た奴らを殴り飛ばす。


「いや、そういうことじゃなくて。これじゃ、話し合う余地がないよね?」


「クリフは甘い。殺しに来た奴らに容赦したらダメ」


「ああ。俺たちは剣で語り合っているじゃねえか!」


 俺とクリフが喋っているうちに、レベッカたちは雪崩れ込んで来た連中を全滅させる。結局、こうなるのかとクリフが肩を落とす。


「クリフ、諦めろよ。ここは犯罪都市ガルブレナ、殺し合いが日常茶飯事の場所だからな。おまえも、そろそろ慣れないと」


「僕だって、もう慣れたけど。自分のやり方を通すことを、諦めるつもりはないよ」


 クリフは犯罪都市に染まるつもりはないみたいだな。


「グレイ。邪魔者が片づいたのなら、先に進もうではないか」


 ライラは俺の腕に抱きつくと。気絶している構成員たちを完全に無視して、踏みつけながら歩いて行く。


 『喰種連合』の本部は平屋だけど。広さは『獣王会』や『ローゼンファミリー』の本部と大して変わらない。


 中に入ると構成員たちが待ち構えていて、一斉にクロスボウを放つ。

 飛んで来る10本以上の矢を、レベッカたちが切り落として反撃。もう完全に戦闘モードだな。


「なあ、俺たちはゾルディ・ゴーマンと話をしに来たんだ。そっちが攻撃しないなら、戦う気はないからな」


 一応、もう一度説明してみるけど。


「おい、魔法が使える奴らを集めろ! ここを絶対に通すんじゃねえぞ!」


 やっぱり、全然話を聞いていないな。向こうも戦う気満々だし。魔法を使ったところで、結果は同じことだけど。いちいち相手をするのも、面倒になって来たな。


「何を考えているのか、何となく解るけど……グレイが真面まともに戦ったら、それこそ全部終わっちゃうと思うよ」


 クリフが言いたいことは解る。下手をしたら、話を訊く相手がいなくなるからな。ここはレベッカたちに任せるか。


 魔法が飛び交う中をレベッカたちが駆け抜けて、構成員たちを次々と仕留めて行く。剣の平で殴っているから。死んだ奴は、ほとんどいないだろう。

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