第53話:協力関係
「グレイの家に侵入しようとした奴の裏で糸を引いているのが『
ガルシアから聞いた情報の裏を取るために。俺は『獣王会』の本部に来て、黒豹の獣人ルクレチアから話を聞いている。ライラとクリフ、『野獣の剣』の4人も一緒だ。
「『喰種連合』と『ザクスバウルの毒蛇』が利害関係にあったのも本当の話や。『喰種連合』が『ザクスバウルの毒蛇』に盗品や薬物を流して、『ザクスバウルの毒蛇』が捌く。『喰種連合』にしたら『ザクスバウルの毒蛇』は、いつでも切り捨てられる便利な道具やったけど。自分の道具を潰したグレイたちを、逆恨みしている可能性はあるな」
犯罪都市ガルブレナで盗品や薬物を扱うことは、別にめずらしいことじゃない。だけど街の外の奴と取引すれば、足がつく可能性がある。
ゴーダリア王国はガルブレナを支配するフェンリルを恐れて、簡単に手出しはしてこないけど。王国が恐れているのはフェンリルであって、ガルブレナの犯罪組織じゃないし。フェンリルは犯罪組織を放置しているだけで、守ってくれる訳じゃない。
「『喰種連合』を束ねるゾルディ・ゴーマンって男は、用心深くてねちっこい奴や。ゾルディが裏で糸を引いとるなら、今は様子見ってところやろう。自分は安全なところにいて、グレイたちの力と弱みを探って。絶対に勝てると確信を持ってから動く」
これだけ聞いたら、頭が回る用意周到な奴だと思うけど。夜中や俺が家にいないときに仕掛けて来るとか、やり方が気に食わないし。向こうが動くまで、待ってやる必要はないだろう。
「なあ、グレイ。情報を教えたんやから。今夜は、うちに付き合って貰うで。2人きりで飲もうやないか」
ルクレチアは誘うように、妖艶な笑みを浮かべる。
「貴様は私に喧嘩を売っているのか? グレイは私の男だぞ」
ライラが俺の腕に抱きついて、嘲るように笑う。
ここは『獣王会』の本部だから、周りにいる構成員たちが睨んでいるけど。ライラはお構いなしだ。
「ライラ、あんたも良い度胸しとるわ。腕も半端ないようやし。けど、たまにはグレイを貸してくれてもええやないか」
「断固断る。情報料なら金で払えば、それで十分だろう」
俺もライラが一緒にいるから、他の女に手を出すつもりはない。ライラは良い女だからな。
「ライラが同席して構わないなら、酒くらいは付き合うけど。それとは別に情報料は、ライラが言ったように金で払うよ」
「情報料ってのは冗談や。これくらいの情報は、協定を結んでいるグレイになら、幾らでも教えるで」
ルクレチアが
「いや、俺が家を買ったときに協力してくれたこともあるし。こういうときは、金よりも物の方が良いだろう」
俺は『
背中から巨大な角が生えた双頭の狼の魔物。これは俺が街を抜け出して、鍛錬と魔物狩りに行ったときに仕留めた得物で。ハンターズギルドに売れば、金貨200枚にはなるだろう。
ルクレチアだけじゃなくて、周りの構成員たちが唖然としている。
「グレイ。あんた、この魔物をどこから出したんや? それに、この魔物を売れば幾らになるか、解っとるんか? 家を買ったときに協力した礼金としては高過ぎるで」
確かに金貨200枚あれば、あの家が買えるからな。
「魔物はマジックバッグで運んだんだよ。俺もハンターだから、魔物の買取価格の相場くらいは解っているけど。これからもルクレチアには、色々と教えて貰うと思うから。その分の前払いだと思ってくれ」
ルクレチアに借りを作りたくないってのもある。借りを作ると、面倒事に巻き込まれる可能性があるからな。逆に貸しを作っておけば、ルクレチアは悪い奴じゃないから。必要な時に協力してくれるだろう。
「ほな、ありがたく受け取っておくで。あんたら、これを運んで解体屋を呼びや」
ルクレチアが指示を出すと。構成員たちが、どうにかして魔物を運ぼうとしているから。『獣王会』の本部には何度か来ているから。顔見知りの構成員も増えた。
「どこに運ぶんだよ? 俺がそこまで運ぶからさ」
『収納庫』に入れて運べば簡単だからな。魔物を倉庫に運ぶと、構成員たちが礼を言う。
「じゃあ、ルクレチア。俺たちは行くから」
「なんや、もう帰るんか? さっきの2人きりで飲む話は冗談として。これだけの品を貰ったんやからな。こっちも礼として、食事くらいは振舞うで」
「誘ってくれて悪いけど。これから他に行くところがあるんだよ」
ルクレチアが訝しそうな顔をする。
「グレイ。あんた、もしかして……」
「ああ。これから『喰種連合』の本部に行こうと思ってね」
『喰種連合』が本当に裏で糸を引いているか解らないけど。俺は話を訊きに行くだけだからな。
門前払いにされるかも知れないけど。そのときはそのときで。相手の反応から、探りを入れることはできるだろう。
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