第52話:誘い
ガルブレナ最大の犯罪組織『ローゼンファミリー』の本部に呼ばれて。ボスのガルシアと幹部たちと一緒に、俺たちは酒を飲みながらメシを食べている。
一通りの料理を食べて、腹は膨らんだ。これで話が終わりなら、何のために呼んだんだってことになるけど。
「ところで、話は変わるが。グレイ、おまえたちは『獣王会』と協定を結んだらしいな」
ボスのガルシアの言葉に、『ローゼンファミリー』の幹部たちが俺に注目する。
「不可侵協定ってところだよ。向こうが手を出さなければ、こっちも手を出さない。それだけの話だ」
「それにしては『獣王会』のルクレチアが、おまえたちが今住んでいる家を紹介したらじゃないか」
少し調べれば解ることだけど。ガルシアは只の暴力馬鹿とは違うようだな。
「ルクレチアに紹介される前から目をつけていた物件だけど。商人との交渉に協力して貰ったのは確かだな。その分の礼くらいはするつもりだけど。『獣王会』と手を組むつもりはないからな」
「だったら、グレイ。『ローゼンファミリー』の傘下に入る気はないか? 傘下と言っても、普段は好きにして構わない。多少の上納金は納めて貰うが。その代わりに何かあれば、『ローゼンファミリー』傘下の3,000人が味方につく。おまえたちにとっても、悪い話じゃないだろう?」
ガルシアは自信たっぷりに言うけど。
「徒党を組むつもりはないよ。俺は好きにやりたいから、そういうのはお断りだ」
幹部たちが俺を睨みつけるけど。ガルシアが視線で制する。
「若い奴は元気が良いな。だが、これは脅しじゃないが。その人数でガルブレナの三大組織を相手にできると思っているなら、考えが甘いぞ。おまえたちが潰した『ザクスバウルの毒蛇』は、たかが構成員100人の新興組織だ。俺たちとは規模も、潜り抜けて来た鉄火場の数も違う」
「忠告なら聞くだけ聞くけど。俺のやり方を変えるつもりはないよ」
俺は席から立ち上がる。
「話がそれだけなら、俺は帰るよ。メシと酒の味は悪くなかったな。それと、こっちも訊きたいことがあるんだけど。この1週間で、夜中に俺の家に侵入しようとした奴が度々いたから。全部撃退したんだけど、裏で誰が糸を引いているか知らないか?」
「『ローゼンファミリー』の傘下に、そんなセコイ真似をする奴はない。やるなら正面から力ずくで行く。そういう真似をするのは『
『喰種連合』はガルブレナの三大組織の最後の1つだ。
「『ザクスバウルの毒蛇』は『喰種連合』の傘下って訳じゃないが、利害関係にあったからな。顔を潰されたと思って、仕返しでもしようしているんだろう」
ガルシアは俺たちを傘下に入れるために、脅しで言っているかも知れないけど。『喰種連合』は悪い噂しか聞いたことがない。
「なるほどね。教えてくれたことには感謝するよ」
他のみんなも席を立って、俺たちは『ローゼンファミリー』の本部を後にする。
帰りも虎の獣人のマーシュが馬車で送ると言ったけど断る。歩いた方が速いからな。
「『ローゼンファミリー』の誘いを断ったのは解るけど。今度は『喰種連合』か。グレイは本当に『喰種連合』が裏で糸を引いていると思う?」
帰り道を歩きながら、クリフが不安そうな顔をする。
「『喰種連合』の仕業だと決めつけるのは早計だと思うけど。相手が誰だろうと、仕掛けて来るなら叩き潰すだけの話だ」
「相手は、たかが犯罪組織だろう。グレイの敵じゃない」
ライラは不敵に笑うと、堂々と俺の腕に抱きつく。クリフが顔を引きつらせているけど。
「それにしても最近は、道端でガラの悪い人に絡まれなくなったね。まあ、
犯罪都市ガルブレナに来てから、道端で絡まれるのは日常茶飯事だったけど。その度に瞬殺したら、俺たちの顔もだいぶ知られて来たらしく。
『ザクスバウルの毒』を潰した噂が広まったこともあって。俺たちが街を歩いていると、道を空ける奴が増えた。
「チッ……根性のねえ奴らだぜ。てめえらも犯罪都市の住人なら、ビビってねえで掛かって来いよ」
「ギースは大口叩かない。あいつらが恐れているのはギースじゃない」
「うるせえな、レベッカ。それくらいは俺だって解っているぜ」
ギースは不満そうだけど。俺たちが家に帰るまで、誰かに絡まれることはなかった。
「じゃあ、俺たちは宿に戻るから」
ガゼル、ギース、シーダの3人は今でも宿屋暮らしだ。プライベートな時間が欲しいという気持ちは解らなくないし。部屋が空いているからと言って、無理に一緒に住む必要はないからな。
3人が狙われる可能性もあるけど。ガゼルたちはA級ハンターで、俺と一緒に鍛錬して鍛えているからな。大抵の奴が相手なら、後れを取ることはないし。自分よりも強い奴と戦っても、簡単に殺されたりしないだろう。
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