第49話:活動拠点


「ようこそ、グレイ。我らが『獣王会』の本部へ」


 『獣王会』の本部は、ほとんど城のような巨大な邸宅で。中には何百人いるかって感じの構成員たちがいた。


「ちょっと、グレイ……」


 クリフは数に圧倒されているみたいだけど。


「ルクレチア。それで、俺たちを案内してくれる奴はどこだよ?」


「なんや、グレイ。反応が薄いな。さすがは大物ってところか」


 黒豹の獣人ルクレチアが妖艶な笑みを浮かべる。


「まあ、ええわ。約束通りに、うちの部下に案内させるで」


 ルクレチアの部下が案内したのは、俺たちが昨日訪れたワグナー商会だった。


「この人たちはルクレチアの姉御の客人だ。家を探しているって話だから、極上の物件を見繕ってくれ」


「わ、解りました。貴方たちはルクレチアさんの知り合いだったんですか? だったら早く言ってくださいよ」


「おい、どういうことだ?」


 店主がルクレチアの部下に、昨日のことを説明する。


「ルクレチアに家を扱う商人を紹介してくれと頼んだのは、俺はこの辺りの相場に詳しくないから。他と比較しようと思ったんだよ。だけど同じ商人を紹介されるとはな」


 店主は苦笑いを浮かべながら、家の平面図を広げる。どれも昨日案内された物件だけど。提示された金額は昨日の半分以下だ。


 ルクレチアの顔を立てて、安くした可能性もあるけど。これだけ値段が違うのは、昨日はボッタくろうとしていたってことだろう。


「なあ。解るなら教えて欲しいんだけど。この金額って妥当なのか?」


 俺はルクレチアの部下に訊いてみる。


「そうですね。妥当な金額だとは思いますが」


 ルクレチアの部下は店主を睨むと。


「おい、ルクレチアの姉御の客人だって言った筈だ。おまえは姉御の顔を潰すつもりか? このクラスの物件なら、もっと値引きできるだろう」


 ルクレチアは只の案内役じゃなくて。家に詳しい奴に案内させたようだな。


「ゴーダさんに掛かったら、敵いませんね……解りました。この値段じゃ、私の儲けはありませんが」


 店主はさらに1割ほど値引きした値段を提示する。


「じゃあ、最初に見せて貰った物件にするか。だけど値段は、さっきの金額で良いよ。値段が妥当なら、それ以上値引いて貰うつもりはないから」


 店主が驚いた顔をするけど。ボッタくろうとしたことに、文句を言うつもりはない。

 儲けられるところで儲けようとするのは、商人として、そんなに悪いことじゃないだろう。騙される方が間抜けなだけだ。それにルクレチアに、借りを作りたくないからな。


 俺は家の代金を即金で払う。犯罪都市ガルブレナに冒険者ギルドがないことは解っていから。途中の街で魔物の素材と魔石を売って、それなりの金額を手に入れたし。スプリタス商会のラナと取引をして。積み荷と馬車を運ぶ代わりに受け取った金もあるからな。


 家のカギと一緒に、権利証を受け取る。こんな紙切れが犯罪都市で、どこまで立つか解らないけど。

 とりあえず、俺は買った家に向かうことにする。


 高い塀に囲まれた家は、俺の要望通りに広い庭があって。2階建ての建物には20ほどの部屋がある。普通に10人以上が暮らせるだろう。

 クローゼットやテーブルと椅子、ベッドとか家具も一通り揃っている。あとは布団やカーテンを買えば、今日からでも住むことができる。


「俺は、この家に住むつもりだけど。おまえたちは、どうする?」


「どうするって……僕たちも一緒に住んで良いの?」


「ああ。活動拠点と鍛錬をする場所を確保することが目的だけど。部屋はたくさんあるからな。好きにして構わないよ」


「私はグレイの女だ。ここなら誰に気兼ねすることもないからな」


 ライラは当然のように一緒に住むつもりだし。


「だったら僕は洗濯や掃除とか雑用をするから。この家に住ませてよ」


「私も住む。グレイの家に住めば、毎日グレイの御飯が食べられる」


 毎日俺がメシを作るのか? まあ、メシを作るくらいは構わないけど。


 ガゼルたち『野獣の剣』の他の3人は、当面の間は宿屋に泊って通うそうだ。プライベートな時間が欲しいんだろう。メシはここで食うつもりみたいだけど。


 俺とライラ、クリフ、レベッカの4人は、必要な物を買い揃えるために買い物に行く。

 布団やカーテンに、特に拘りがある訳じゃないから。それなりに質が良いものを選ぶだけで。そんなに時間は掛からなかった。


 あとは防犯対策だな。俺が不在のときや、夜中に何か仕掛けて来ると面倒だから。魔法で対策を施す。


 まずは敷地全体に結界を展開する。これで俺の許可なしに家に入るのは難しいだろう。結界に一定以上の衝撃があれば、俺だけに聞こえるアラームで知らせる仕掛けをしておく。


 結界を破られることも想定して、庭と家のドアと窓の周辺にトラップを仕掛ける。触れたら発動するタイプの攻撃魔法だ。不法侵入者なんだから、殺しても構わないだろう。鍛錬をするときは罠を解除する必要があるけど。


「ライラ、クリフ、レベッカ。庭に出るときは、俺に言ってからにしろよ。そうしないと、命の保証はしないからな」


「命の保証はしないって……グレイ、いったい何を仕掛けたの?」


 クリフが顔を引きつらせる。まあ、クリフなら一撃で死ない程度の威力にしたから。万が一、暴発させても問題ないだろう。

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