第48話:獣王会
「ガ、ガンツさん……」
白目を剥いて崩れ落ちたライオンの獣人ガンツ。部下たちは駆け寄るけど、ガンツを一撃で倒した俺を恐れてか。ガンツの仇を取ろうと仕掛けて来る様子はない。
「これで終わりか? 呆気ないな」
「グレイ。相手を挑発しないでよ!」
クリフが慌てて止める。だけどガンツは武器を抜かなかったし。殺し合いをしに来た訳じゃないみたいだな。
「なるほど。ガンツの馬鹿を一撃とは、『ザクスバウルの毒蛇』を壊滅させた実力は本物のようやな」
このタイミンクで。入口のドアから黒豹の獣人が入って来る。
年齢は30代ってところ。妖艶な感じの美人で。身体のラインを強調するような革製の服。部下の獣人たちを従えている。こいつらも結構強いけど。黒豹の獣人の女は、S級ハンタークラスだな。
「ルクレチア……貴方まで来ていたんですか……」
マービーの態度が変わる。この女のことを恐れているみたいだな。
「マービー、今日はあんたに用はないで。みなさん、ごきげんよう。うちは『獣王会』のルクレチア・シャルマン。ガンツがいる『灼熱の蠍』は、うちら『獣王会』傘下の組織の1つや。ガンツの馬鹿が迷惑掛けて、済まんかったな」
一応、大物の登場って奴か。
「あんた、グレイとか言ったな。うちは、あんたらに興味があるんや。こんな下品な店やけど。座ってゆっくり話さへんか?」
「俺たちはマービーに招待されたんだよ。そこに押しかけて来た奴の相手をする必要なんてないだろう」
ルクレチアの部下たちが俺を睨む。
「だったらマービーが承諾すれば、ええやろ? なあ、マービー。うちらが同席しても構へんやろ?」
ルクレチアの言葉にマービーが黙る。これで力関係が、だいだい解ったな。
俺たちが個室に戻ると。下着姿の女たちが空気を読んで席を空ける。マービーが女たちに指示して、ルクレチアの酒を持って来させる。
「早速やけど、グレイ。マービーとは、どこまで話が進んでいるんや?」
「客分になれって誘われたけど断った。犯罪組織の片棒を担ぐつもりはないからな」
「なるほどな。せやけど、ここは犯罪都市ガルブレナや。法律なんて、あってないようなモノやから。犯罪組織云々は関係ないと思うで」
「それでも俺たちは好きにやるつもりだからな。変なしがらみに縛られるつもりはないよ」
レベッカたち『野獣の剣』のメンバーは、じっとルクレチアを見て。向こうの出方を窺っている。クリフはまた何か怒るんじゃないかと、冷や汗を掻いている。ライラは今も堂々と俺に抱きついたままだ。
「ほな、うちらと協定を結ぶのはどうや? お互いに一切、手出しはしない。勿論、相手が仕掛けて来たときは別や。うちらの傘下の組織にも、グレイたちに手出しせえへんように徹底させるわ」
これじゃ、協定を結ぶ意味がないと思うかも知れないけど。ルクレチアの狙いは解る。俺たちが他の組織と勝手にぶつかって、その組織が弱体化すれば。相対的に、ルクレチアたちの立場は有利になる。もし俺たちの方が潰されたとしても、面倒な奴らが消えるだけで。ルクレチアたちの腹は痛まないからな。
「協定を結ぶだけなら構わないよ。念を押しておくが、そっちが仕掛けて来たときは一切容赦しないからな」
レベッカたち『野獣の剣』のメンバーが頷く。この条件なら問題ないだろう。
「なら、決まりやな。グレイ、うちらの協定に乾杯や!」
俺とルクレチアは、グラスの酒を飲み干す。
「ルクレチア。あんたはこの辺りの組織の中じゃ、結構な実力者なんだな」
「うちはこれでも『獣王会』のナンバーツーやからな。『獣王会』の傘下には、10を超える組織がある。グレイたちも何か困ったことがあったら、うちに相談せえや。力になるで」
下手なことを頼んだら、足元を見られそうだけど。これくらいは構わないだろう。
「俺たちは家を探しているんだ。家を扱う商人に顔が利くなら、紹介してくれないか」
昼間に物件を見て、良さそうな家はあったけど。相場が解らないと、ボッタくられる可能性があるからな。
「それくらいなら、お安い御用や。明日にでも部下に案内させるから、うちらの本部まで来てくれるか」
『獣王会』くらいの規模になると、拠点を幾つも持っているだろうけど。本部に呼ぶってことは、自分たちの力を見せつけるつもりなんだろう。
「ほな。用が済んだから、うちらは帰るで。マービー、邪魔したな」
ルクレチアは、アッサリと帰っていく。
まあ、協定を結んだ訳だし。俺たちは明日、『獣王会』の本部に行くんだから。マービーの店に長居する理由はないだろう。
「グレイ。あんたは人間にしておくには
最後に余計なことを言って、ライラが睨んでいたけど。
とりあえず。俺たちマービーに『獣王会』について、詳しい話を訊くことにする。
『獣王会』はガルブレナの三大犯罪組織の一つで。傘下の組織を入れると、構成員の数は2,000人以上。『獣王会』直属の構成員たちは、凄腕揃いって話だ。
「確かにルクレチアは、それなりに実力者のようだな」
ライラが面白がるように笑う。混じりモノのライラから見ても、ルクレチアは侮れない存在――という訳じゃなくて。
何か仕掛けるつもりなら、掛かって来いと。あくまでも実力でも、女としても強者の立場から。ライラはルクレチアを見ているようだな。
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