第47話:用件


 犯罪組織『ロズワルド会』のマービーに、女が下着姿でポールダンスを踊る酒場に招待されて。


 とりあえず、俺たちは自己紹介する。名前を告げただけだが。


「まずは、『ザクスバウルの毒蛇』を潰してくれたことに感謝します。最近、奴らはデカい顔で好き勝手にやっていたので。目障りだったんですよ」


 犯罪都市ガルブレナには犯罪組織が乱立していて。『ザクスバウルの毒蛇』はその一つに過ぎないそうだ。犯罪組織同士は反目していたり、協力関係にあったりと。その関係は様々らしい。


「それで。マービー、あんたが俺たちに接触した目的は何だよ?」


「グレイさんは話が早くて助かります。単刀直入に言いますが、私たち『ロズワルド会』の客分になりませんか? うちがバックにつけば、あなた方にもメリットがあるでしょう」


「俺たちを犯罪組織の抗争に巻き込むつもりか?」


「抗争に加わることを強制したりはしませよ。グレイさんたちが納得したときに、手を貸して貰えるだけで構いません。

 うちの客分になっても、グレイさんたちは『ザクスバウルの毒蛇』を一夜で壊滅させたんですから。簡単に手を出そうなんて考える馬鹿はいませんよ。むしろ、どこの組織とも関係ない今の方が、馬鹿に狙われる可能性が高いと思いますが」


 あくまでも客分だから、そこまで強い繋がりになる訳じゃないってことか。犯罪組織と繋がっていた方が、チンピラに絡まれることは少なくなると思うけど。


「犯罪組織の片棒を担ぐつもりはないよ。喧嘩を売って来る奴は、叩き潰せば良いだけの話だからな」


 レベッカたち『野獣の剣』のメンバーが頷く。ライラは冷めた目で、マービーを見ている。クリフは俺の言葉に顔を引きつらせているけど。


「そうですか。じゃあ、仕方ありませんね。とりあえず、この話は諦めますよ」


 断ったら『ザクスバウルの毒蛇』のように、力づくで来る可能性も考えていたけど。マービーにそのつもりはないらしい。


「うちはグレさんたちと、事を構えるつもりはありませんよ。今日はあくまでも、お近づきの印に店に招待しただけです。どうぞ遠慮なく、好きなモノ好きなだけ注文されて構いませんし。店の女を口説いても構いませんよ」


 最後の台詞に、ライラがマービーを睨みつける。


「勿論、グレイさんとライラさんの邪魔をするつもりはないですよ。ライラさんほど美しい方は、うちの店にはいませんからね」


「マービーも良く解っているようだな。さあ、グレイ。ここからは2人で楽しもうか」


 周りの奴らを完全に無視して。ライラは俺に抱きついて唇を重ねる。

 俺にとっては、いつものことだけど。マービーは俺が女にだらしない奴だと思うだろう。俺が1人でいるときに、ハニートラップを仕掛けて来るかも知れないな。


 レベッカたちは本当に遠慮なく、好き勝手に注文して。散々、飲み食いしている。


 ガゼルとシーダは下着姿の女たちに、普通に接客されている。ギースは両側に侍らせた女に、ちやほやされて上機嫌だ。


 クリフは如何にも、こういう店に慣れていない客って感じで。居心地悪そうにして、女にも敬語を使っているけど。下着姿の女をチラチラ見て、顔を赤くしている。クリフは女に慣れていないだけで。興味がないって訳じゃないからな。


 このとき。ドアを叩く音がして、マービーの部下が部屋に入って来る。部下が耳打ちすると、マービーが立ち上がる。


「野暮用ができましたので。みなさん、ちょっと失礼します」


「マービー。俺たちに関係があることか?」


 俺は魔力が感知できるから。この店に入って来た奴らのことは気づいている。


「さすがは、グレイさんですね。他の組織の連中が、グレイさんたちがこの店にいることを嗅ぎつけたようです」


「だったら俺も行くよ。別に構わないよな?」


「ええ、勿論です。他の方も好きにして下さい」


 俺たちは全員、マービーについて行く。


 部屋を出ると、店の入口付近に。ガラの悪い男たちが10人ほどいる。

 男たちの中心にいるのは、頬に傷があるライオンの獣人。縦にも横にも大きくて。身長は2m近く。太い腕はギース以上だ。


「おい、マービー。『灼熱の蠍』のガンツ様が来てやったぜ!」


 『灼熱の蠍』ってのは、別の犯罪組織だろう。


「ガンツさんが私の店に来るなんて、めずらしいですね。いったい何の用ですか?」


 マービーは飄々として応える。


「惚けるんじゃねえ。俺様が用があるのは、てめえの後ろにいる奴らだ」


 ガンツは値踏みするように俺たちを見る。


「『ザクスバウルの毒蛇』を壊滅させたって話だから、どんな奴らかと思ったが。何だよ、身体も小せえし。大したことねえな」


「なんだと、てめえ……」


「喧嘩を売るなら相手になる」


 ガンツは本気でそう思っているのか。俺たち挑発しているのか。どっちにしても、ギースとレベッカが、真っ先に喧嘩を買っているけど。


「ギース、レベッカ。ちょっと待って! もう少し話を聞こうよ」


 クリフが2人を止める。これで、いきなり殴り掛かることはなさそうだな。


「いきなり来て、好き勝手に言うなって。興味が失せたなら、臭い口で喋っていないで。さっさと帰れよ」


 だけど喧嘩を売られて、俺も黙っているつもりはない。


「ほう……言うじゃねえか。てめえが、こいつらの頭か? 腕っぷしに自信があるなら、俺が試してやるぜ」


 ガンツは腕を前で構えて、筋肉を隆起させる。力に相当自信があるようだな。


「マービー。店の中を壊すつもりはないから構わないか?」


「仕方ありませんね。グレイさん、好きにしてください」


 マービーは苦笑しているけど。俺たちが他の組織と敵対するのは、マービーも望むところだろう。


 俺はガンツの方にゆっくりと歩いて行く。


「近くで見見ると、思った以上に小せえな。良いぜ、一発先に……」


 ガンツが言い終わる前に、腹に拳を叩き込む。勿論、手加減して。吹き飛ばさないように、捩じり込むように力を伝える。


 俺の拳が腹にめり込む。ガンツは血を吐いて。白目を剥いて、その場で崩れ落ちた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る