第45話:毒蛇のアジト


 夕方になって。俺たちは『ザクスバウルの毒蛇』のギラン・マーカスとの約束通りに、昨日と同じ酒場に向かう。


 店に入ると、客たちが俺たちに注目している。昨日、ここにいた客たち全員をボコボコにしたからな。皆がビビっているのが解る。


 まだギランは来ていないようで。俺たちはテーブル席について、夕飯を食べながら待つことにする。


 しばらく待っていると、犬の獣人ギランが店にやって来た。


「上に話をつけたから。俺について来てくれ」


 店を出て偽ランについて行くと。向かった場所は、ラナから聞いている『ザクスバウルの毒蛇』の本部だ。


 古びた貴族の邸宅って感じの高い塀に囲まれた建物。門の前には2人の獣人が見張りとして立っている。


「おい、ギラン。そいつらが例の奴らか?」


 門番が抜け目のない目で俺たちを観察する。


「ああ、そうだ。ボスには話を通してある」


「てめえら。武器は預からせて貰うぜ」


「何だと!」


 ギースが文句を言うけど。ここで揉めても埒が明かないからな。俺たちは武器を渡して、門を抜ける。


 邸宅の中に入ると。俺たちは広間のような広い部屋に通される。


 部屋には100人近い獣人が立ち並んでいて。全員武装して、俺たちを睨んでいる。


「ねえ、グレイ。ちょっと不味い状況じゃないかな?」


 クリフは青い顔になるけど。ライラと『野獣の剣』のメンバーたちは全然動じていない。


 ギランに続いて、俺はみんなの先頭を進んで行く。

 部屋の奥には、テーブルを囲む年配の獣人たちがいる。『ザクスバウルの毒蛇』の幹部たちってところだろう。


 一番奥の席に座っているのは、隻眼の蛇の獣人だ。年齢は40代半ばってところで、如何にも裏社会の奴って感じの凶悪な顔。襟元が大きく開いた派手な服を着ている。


「ギランの店で派手に暴れたのは、てめえたちか? 俺が『ザクスバウルの毒蛇』を束ねるビクトル・ハーディーだ。うちに話があると聞いているが」


「俺たちは成り行きで、おまえたちがスプリタス商会に放った刺客を倒したが。そっちが仕掛けて来ないなら、これ以上事を構えるつもりはない。今日はそれを伝えに来たんだよ」


「何だと、てめえ……口の利き方も知れねえのか?」


「おい、よせ。こいつらは、一応客人だからな」


 いきり立つ幹部を制して、ビクトルはニヤリと笑う。


「てめえらの事情は、こっちには関係ねえ。うちは構成員を殺されて、幹部が1人捕らえられたんだ。この落とし前を、どうつけるつもりだ?」


「金を払えってことか? おまえたちは力づくで、スプリタス商会と取引した盗品を奪おうとして。俺たちはそれを撃退した。どこに金を払う理由があるんだよ?」


「言うじゃねえか。だが、ここは犯罪都市ガルブレナ。理屈じゃなくて、暴力が支配する街だ。良い気になっているようだが。てめえらが殺した奴の大半は、うちの構成員でもねえ三下ばかりだ。この街で生きていたいなら、慰謝料として金貨1,000枚。耳を揃えて払うんだな」


「金貨1,000枚って……そんな金額、無茶苦茶ですよ」


 クリフが思わず呟くけど。ビクトルに睨まれて、引きつった笑みを浮かべる。


 ビクトルは三下ばかりだっと言っているけど、ハッタリだな。最初に仕掛けて来た盗賊たちは、本当に大したことなかったけど。覆面の奴らと、ここにいる構成員たちの実力は大差ないだろう。


「だから金を払うつもりはないって言っているだろう。人の話を聞かない奴だな」


「だったら交渉決裂だ。てめえらは、ここで死ぬことになる」


 ビクトルの言葉に、『ザクスバウルの毒蛇』の連中が一斉に武器を抜く。


「そっちが先に武器を抜いたんだから、文句を言うなよ」


 俺は『収納庫ストレージ』から、みんなの武器を出して投げて渡す。武器を取り上げられることは予想していたから。門のところで渡したのは、そのために用意した武器だ。


「私は敵に容赦するつもりはない。覚悟して」


「死ぬのはてめえらだぜ!」


 レベッカとギースが先陣を切って。『ザクスバウルの毒蛇』の構成員たちを迎え撃つ。

 クリフはシーダの傍で守りに徹しているけど。A級ハンターのレベッカたちとライラに、100人の構成員たちが次々と倒されていく。


「てめえら、ふざけやがって!」


 幹部たちが一斉に切り掛かって来るけど。魔力を剣の形に収束して、一瞬で切り伏せる。こいつらはラナたちを殺して、盗品を奪い返そうするような連中だから。遠慮する必要はないだろう。


「人数がいれば勝てるとでも思ったのか? 『ザクスバウルの毒蛇』も甘いよな」


 俺はビクトルに魔力の剣を突きつける。


「ま、待て……俺が悪かった。今後、てめらには一切手出ししねえから……」


「あのなあ。今さら遅いんだよ」


 ビクトルの首を、容赦なく切り落とす。100人いた構成員も、ライラやレベッカたちと一緒に全滅させた。


「グレイ。皆殺しにしなくても……何か他に方法があったんじゃ……」


 血の肉片で赤く染まる広間を見て、クリフが呆然としている。まだ殺し合いに慣れていないみたいだな。


「クリフのそういうところ、嫌いじゃないけど。敵に容赦したら、死ぬことになるぞ」


 『野獣の剣』のメンバーたちとライラが、俺を見て苦笑する。

 俺が容赦するのは、相手と状況次第だからな。

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