第43話:犯罪都市


 俺たちは宿屋を出ると。情報収集と夕飯を食べるために酒場に向かう。


 情報を集めるなら、まずはハンターズギルドってところだけど。犯罪都市ガルブレナは、ゴーダリア王国に正式な都市として認められていない。だから、この街にハンターズギルドはないんだよ。


 ラナが教えてくれた酒場は、ガラの悪そうな奴らの溜まり場って感じで。刺青を入れた男たちが、腰に下げた武器をこれ見よがしに見せている。

 ハンターという人種も、口より手が先に出る奴が多いけど。ここにいる奴らみたいに、荒んでいる訳じゃない。


 とてもラナたちが行きそうな場所じゃないけど。ここに来たのには、勿論理由がある。この店が『ザクスバウルの毒蛇』の傘下にあるからだ。


 ラナからは『ザクスバウルの毒蛇』の本部の場所も聞いているけど。いきなり押し掛けても、門前払いだろう。だから、まずはこの店で『ザクスバウルの毒蛇』の奴に接触するつもりだ。


「私はお腹がすいた。早くご飯にしよう」


 レベッカたちは店の雰囲気なんて全然気にしていない。あからさまに警戒しているのは、クリフくらいだ。

俺たちはテーブルに着いて、酒と料理を注文する。


夕飯を食べながら、客たちの様子を窺う。皆ガラが悪いから、誰が『ザクスバウルの毒蛇』の奴かなんて見分けがつかないな。

 まあ、初めからコソコソ嗅ぎ回るつもりはないし。正攻法で行くか。


「店の奴と話をしてくるよ」


「だったら私も行く」


 俺が席を立つと、レベッカがついて来た。

 俺はカウンターに行って、バーテンダーに話し掛ける。


「この店って『ザクスバウルの毒蛇』の傘下なんだよな? 『ザクスバウルの毒蛇』の奴と話がしたいんだけど。紹介してくれないか?」


「はあ? あんた、何を言っているんだよ? うちの店は、何の関係もないぜ」


 シラを切られるのは、想定の範囲だ。俺がカウンターに金貨を置くと、バーテンダーの目の色が変わる。。

 だけどバーテンダーより先に、周りの客たちが反応する。俺の話を盗み聞きしているのには気づいていたけど。


「あんた、『ザクスバウルの毒蛇』に用があるんだろう? だったら早く言っていくれよ。俺が紹介してやるぜ」


 蛇の入れ墨を入れた猪の獣人。同じテーブルにいた3人の獣人もやってきて、俺とレベッカを取り囲む。

 バーテンダーの方を見ると舌打ちして、嘲るように笑っている。馬鹿な客がカモにされるとでも思っているんだろう。


「じゃあ、『ザクスバウルの毒蛇』の奴を、ここに連れて来てくれないか? 金貨を渡すのはその後だ」


「おい、何を言ってやがる? 人にモノを頼むなら、先払いが常識だぜ!」


「じゃあ、他を当たるよ。邪魔したな」


 俺がカウンターの金貨を仕舞おうとすると。


「おい、てめえ。こっちが下手に出れば、ふざけやがって! 迷惑料として、有り金を全部置いていけ!」


 他のテーブルからも、ガラの悪い連中が集まって来る。俺が金を持っているのが解ったから。力づくで奪おうって魂胆か。

 俺たちを殺したところで、ここは犯罪都市ガルブレナだからな。路地裏に死体が転がっていところで、誰も騒がないだろう。


「弱い奴は群れるのが好きだけど。数がいれば勝てると思っているの?」


「何だと、このアマ。〇されて、犬の餌にされてえのか!」


 脅し文句にも、レベッカはどこ吹く風だ。いつもなら、余計なことを言うなと思うところだけど。今日は勝手が違うからな。


「臭い口でわめくなって。迷惑料を貰いたいのは、俺たちの方だ。おまえら、邪魔だから消え失せろよ」


「てめえ……死にてえようだな!」


 猪の獣人は剣を抜いて、いきなり切り掛かって来る。俺が躱さずに、そのまま受けると。剣が当たった瞬間、刃が根元からポキリと折れる。


「な……どうなっていやがる?」


 猪の獣人は唖然としているけど。


「おまえたち・・の方から、手を出したんだからな。文句を言うなよ」


 俺は猪の獣人の頭を掴むと、容赦なく床に叩きつける。

轟音を立てて、床が陥没して。血塗れの猪の獣人の身体が、床に半分ほどめり込んだ。


「てめえ、やりやがったな!」


猪の獣人の3人の仲間が武器を抜くけど。奴らが反応できない速度で、続きざまに拳を叩き込む。吹き飛んだ獣人たちは、周りの獣人を巻き込んで壁に激突する。


「こんな奴に、ビビるんじゃねえぞ! 囲んで、なぶり殺しにしちまえ!」


 周りの獣人たちが一斉に武器を手にする。これだけ好きにやられて、頭に血が上っているみたいだな。


「グレイだけ暴れてズルい。私もやる」


 これまで傍観していたレベッカが双剣を抜いて。獣人たちを見据える。


「レベッカ、できるだけ殺すなよ。俺は平和的に解決するつもりだからな」


「うん、解った。任せて」


 レベッカは姿勢を低くして、獣人たちの間を擦り抜けるように駆け抜けながら。剣の平と柄を使って獣人たちを次々と殴る。確実に急所を狙って。

獣人たちは取り囲もうとするけど。レベッカの動きに、完全に翻弄されている。


「俺の相手は、おまえたちか?」


 俺はレベッカとは逆側の獣人たちの群れに突っ込んで行くと。手当たり次第に殴り飛ばす。勿論、手加減はしているけど。殴り飛ばした獣人が、周囲の獣人を巻き込むから。瞬く間に、俺の周りから獣人がいなくなった。


「おい、てめえら。そこまでだ! こいつらが、どうなっても構わねえのか?」


 声がした方を見ると。テーブルで酒を飲んでいるガゼルたちを、武器を手にした獣人たちが取り囲んでいる。

 俺たちは、さっきまで一緒にいたし。仲間だってことは、こいつらも解っているんだろうけど。


「あ゛? 誰がどうなるって?」


「そうだな。相手を見て物を言えよ」


 数分後。獣人たち全員が、床に転がっていた。


「これで平和的に解決したって言う。グレイの神経を僕は疑うよ」


 クリフは呆れた顔をするけど。これくらいは、いつものことだろう。

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