第42話:報酬と覚悟


 黒ずくめの男を捕らえたから。覆面の連中は全員始末した。生きている奴も虫の息だったし。回復魔法で治療して、情報を聞き出すまでもないだろう。


 黒ずくめの男の名前はザック・バーデン。ガルブレナの犯罪組織『ザクスバウルの毒蛇』の幹部の1人だ。

 本人が吐いたのもあるけど。ラナが『ザクスバウルの毒蛇』のボスと盗品の取引をしたときに、ザックが同席していたそうだ。


 まあ、これでラナたちを襲った奴らが『ザクスバウルの毒蛇』だと確定した訳だし。相手が犯罪組織なら、潰すことになっても躊躇する必要はないな。


「情報を聞いたから。もう、おまえに用はないな」


「お、おい……お、俺を殺したら『ザクスバウルの毒蛇』と全面戦争になるぜ!」


「こいつは、こんなことを言っているけど。護衛を依頼したのはラナだから、判断を任せるよ。だけど俺はこいつを、犯罪都市ガルブレナまで連れて行くつもりはないからな」


 ガルブレナまで、まだ馬車で10日近くあるから。ザックを軟禁して連れて行くのは、正直面倒臭い。


「解りました。私たちは『ザクスバウルの毒蛇』と全面戦争するのは御免ですから。街に着いたら、衛兵に引き渡しましょう」


 俺の感覚だと、命を狙った奴を殺さないのは甘いと思う。まあ、俺も相手が女なら殺さないけど。ラナは商人だから。俺と感覚が違うんだろう。


 その後は街に着くまでに、襲撃されることはなかった。ラナの依頼は無事終了って訳で。俺たちは約束の報酬を受け取る。


 俺は『収納庫ストレージ』からスプリタス商会の4台の馬車と荷物を取り出して、その分も報酬を受け取る。


 『ザクスバウルの毒蛇』が、これで諦めるかは解らないけど。俺たちはガルブレナに向かう訳だし。ザックを殺さなかったから。ザックの口から俺たちが関わったことはバレるだろう。


 ザックを街の衛兵に引き渡した後。俺はラナを夕飯に誘う。

別にラナを口説こうとか、そんなつもりじゃない。クリフとライラ、『野獣の剣』のメンバーたち、スプリタス商会のアンドリューも一緒だ。


 個室のある酒場に入って。部屋に注文した品が届き、ウエイターが出て行くと。俺は切り出す。


「なあ、ラナ。俺たちが『ザクスバウルの毒蛇』を壊滅させたら、報酬を払う気はあるか?」


 『ザクスバウルの毒蛇』が壊滅すれば、ラナたちが襲撃される可能性はなくなる。

 俺は別にスプリタス商会のために、『ザクスバウルの毒蛇』を壊滅させるつもりはないけど。成り行きで壊滅させる可能性があるから、一応訊いてみた。


「そんな約束をすると、私たちが『ザクスバウルの毒蛇』を壊滅させてくれと、依頼したのと同じことになりますよね?」


「俺が喋ればな。だけど、おまえが報酬を払うのは『ザクスバウルの毒蛇』が壊滅した後だし。俺は余計なことを他の奴に喋るような馬鹿じゃない」


 ラナは少し考えてから。


「解りました。私たちは『ザクスバウルの毒蛇』と争うつもりはありませんが。グレイさんがご自身の判断で『ザクスバウルの毒蛇』を壊滅させたときは、報奨金をお支払いします」


 ラナが提示したのは結構な金額だ。『ザクスバウルの毒蛇』が壊滅すれば、スプリタス商会が盗品の取引をしたことを知る奴がいなくなる訳だし。取引したことをネタに揺すられる可能性もなくなる。ラナも可能であるなら、『ザクスバウルの毒蛇』を潰したいんだろう。


 俺たちはラナから取引の話を聞いたけど。取引の現場も、取引した盗品も、実際に見た訳じゃないし。俺たちが情報を漏らしたところで、何とでも言い逃れできるからな。


※ ※ ※ ※


 その日は街の宿屋に泊まって。当然、俺とライラは同じ部屋だ。


 翌日、俺たちは犯罪都市ガルブレナに向けて出発する。


 そして10日ほど馬車で移動すると。ラナの依頼を請けたことで、予定よりも少し時間が掛かったけど。俺たちは犯罪都市ガルブレナに到着した。


 犯罪都市ガルブレナの外観は、外壁に囲まれた城塞都市で。特に変わったところはない。

 入口で検問を受けるのも、これまで訪れたゴーダリア王国の他の街と同じで。俺たちはハンターのプレートを持っているから、通行料を払うこともなく街には入れた。


 ちなみにライラもハンターとして登録していて。元憲兵ということで、特例で最初からC級ハンターになった。まあ、ライラの実力はA級ハンターの『野獣の剣』のメンバーたちよりも上で。本当に憲兵を辞めたのかは、怪しいところだけど。


 街の中の様子も、他の街と大差ない。強いて言えば、建物が密集していて。路地がどこも狭いところと。行き交う奴の大半が、ガラが悪いってところだ。


 『野獣の剣』のメンバーたちも犯罪都市ガルブレナに来たのは初めてで。ラナたちと酒場で話したときに聞いた情報だけが頼りだ。

 とりあえず、俺たちはラナが安全だと言っていた宿屋に部屋を取る。宿屋があるのは、比較的治安の良さそうな区画の見通しが良い場所だ。


「グレイ。犯罪都市ガルブレナに来たのは良いが、これからどうするつもりだ?」


 俺たちはガゼルの部屋に集まって話をする。7人が入るには狭いけど。他の奴に聞かれないためには、宿の部屋で話すのが一番だからな。


「俺は『ザクスバウルの毒蛇』の連中と話をつけに行くつもりだよ。ザックを殺さなかったから。俺たちが奴らの刺客を殺したことは、いずれ伝わるだろう。だから先手を打とうと思ってね」


 ラナたちが盗賊に襲われていたところを助けて。その後、護衛の依頼を請けてを刺客を殺したことを。俺は『ザクスバウルの毒蛇』の奴らに、そのまま伝えるつもりで。あとは向こうの出方次第だ。


「ねえ、グレイ。向こうが好戦的な態度に出たら、どうするつもりなの?」


 クリフが心配そうな顔をする。


「勿論、受けて立つよ。俺が犯罪都市ガルブレナに来た目的は、刺激のある生活をするためだからな。向こうが力で来るなら、力で対抗するだけの話だ。という訳で。俺に付き合い切れないなら、ここで降りて構わないからな」


「まあ、予想はしていたけどね。だけど、こんなことで降りるくらいなら。僕は最初からグレイについて来ないよ」


「私は強くなりたいから。グレイについて行く」


 クリフとレベッカが真っ直ぐに俺を見る。


「レベッカは、一度言い出したら聞かないからな。俺は諦めているよ」


「そうですね。私たちだけ降りる訳にはいきませんから」


「そういうことだ。グレイ、俺もおまえに付き合うぜ」


 ガゼルたちも覚悟は決まっているみたいだな。


「私はグレイの女だからな。聞くまでもなかろう」


 ライラは当然という感じで、俺にもたれ掛かる。


 こいつらが降りるなんて、俺も思っていなかったけど。


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