第41話:攻撃魔法
「こ、このお肉……物凄く味しいですね!」
前言撤回。結局、興味津々のラナの押しに負けて。俺はメシを食べさせることになった。
「ラナお嬢様、どうされたのですか?」
「アンドリュー! これ、グレイさんが作った料理なんですが。貴方も一口食べて見なさい!」
おい。なんで、ラナが勝手に進めているんだよ。スプリタス商会の連中の分まで、メシを作るつもりはないからな。
「ラナ、図々しいにも程がある。これ以上、グレイが作るご飯を奪うなら。ラナは私たちの敵!」
レベッカが本気で敵意を向ける。ギースとシーダも呆れた顔をしている。さすがに調子に乗り過ぎだろう。
「大変失礼しました。ですがグレイさんの料理が、あまりにも美味しいモノで!」
ラナは殊勝な顔をしているけど。俺たちが護衛を引き受けることになった途端、平然と飯を
まあ、ラナはガルブレナで、犯罪組織の連中と盗品の取引をして来た訳だし。この性格が17歳で父親に商人として認められた理由か。
夕飯の後。俺たちはスプリタス商会の護衛と組んで、3交代で夜の見張りをする。
「なあ、グレイ。今日は少し冷えるな。もっと近くに寄っても構わないか?」
「そうだな、ライラ。ほら、もっとこっちに来いよ」
スプリタス商会の護衛たちの視線なんて気にしないで。俺とライラは相変わらずだ。
俺は魔力が感知できるから。襲撃があれば、一番最初に気づくからな。
「いつ襲撃があるか解らないのに。グレイさんは良い度胸していますね」
ラナがジト目で見ている。まだ眠れないのか。馬車の外で焚火に当たっている。
「盗賊に襲われたばかりなのに。ラナこそ肝が据わっているよな」
「だが子供はもう寝る時間だ。ここからは大人の時間だからな」
ライラはラナに見せつけるように、俺に抱きつく。キスをするくらいは構わないだろう。
「ちょっと……グレイさんたちは仕事中ですよね? さすがにどうかと思いますよ!」
ラナが真っ赤になる。
「私とグレイなら、仕事はキッチリ果たすさ」
ライラはわざとやっているんだろう。抱きついたまま、俺から離れようしない。
居たたまれなくなったのか。ラナは逃げるように、馬車の中に入って行く。
そのまま何事もなく、見張りの交代の時間が来て。俺とライラは馬車の中で眠ることにする。
「グレイ。今日も隣りを借りるぞ」
「ああ。人数が増えて、少し狭いからな。もっと近くに来いよ」
俺とライラは抱き合いながら眠りにつく。結局、その日の夜に襲撃はなかった。
翌朝。俺たちが目を覚ますと、隈のできたラナにジト目で見られる。別にキス以上のことはしていないから、睨まれる理由はないけど。
朝食を食べて、移動を始める。夕飯で味を占めたラナの分の朝飯も作ることになったけど。手間は変わらないし。それくらいは構わないだろう。
スプリタス商会の連中の速度に合わせて歩くと。一番近くの街に辿り着くまでに、3日は掛かるそうだから。その間に襲撃される確率は高いだろう。
「ねえ。グレイ、鍛錬に付き合って」
暇を持て余したレベッカがやって来る。今は護衛をしている最中だから、一応ラナに断ってから鍛錬を始める。ラナは何を今さらって顔をしたけど。
レベッカは一気に加速して、俺との距離を詰める。毎日俺と鍛錬を続けているから、レベッカの動きは確実に良くなっている。
だけど、まだまだだな。俺は容赦なく、レベッカを身体ごと弾き飛ばす。
「これくらい全然効かない。今日は絶対、グレイに一撃を入れる!」
レベッカの激しい戦いぶりに、スプリタス商会の護衛たちが驚いているけど。俺たちはお構いなしに鍛錬を続ける。
レベッカの後はクリフ、ギース、ガゼル、シーダと順番に鍛錬の相手をした。
「貴方たちは、いつもこんな感じで。激しい鍛錬をしているんですか? さすがに護衛の仕事に支障が出ますよね」
ラナの言葉に、レベッカが何を言っているんだという顔をする。
「これくらい全然平気。怪我をしても、グレイとシーダが魔法で回復させてくれるし」
怪我は魔法で回復できるけど。ラナが言いたいのは疲労の方だろう。だけどレベッカは体力があり余っているし。他のみんなも1ヶ月以上鍛錬を続けているから、すっかり慣れたモノだ。
この日も魔物に遭遇することはあったけど。襲撃者が現れることはなかった。
そして次の日の昼過ぎ。俺たちが街を目指して、街道を進んでいると。前方から騎竜に乗る一団が、土煙を上げながらこっちに向かって来る。
数は30人くらい。布で顔を隠しているし、あからさまに怪しいな。
「レベッカ。いつもみたいに、1人で飛び出すなよ」
「うん、解っている。今日は護衛だから」
ガゼルの指示に、レベッカが素直に応える。俺たちは手筈通りに、ガゼル、レベッカ、ギース、クリフの4人が前方で陣形を組む。
俺とライラが遊撃で、シーダは後方支援だ。
覆面の集団は、接敵する前にクロスボウを放つ。これで向こうが攻撃する気満々なのは確定だな。
ガゼルたち4人がクロスボウの矢を躱して、戦闘開始だ。
俺は魔力が感知できるから。魔力の大きさで、相手の大よその強さが解る。勿論、戦闘技術も重要だから。魔力の大きさだけで、強さが決まる訳じゃないけど。
覆面の集団は、この前戦った盗賊たちよりも明らかに強い。それでも『野獣の剣』のメンバーたちが後れを取る相手じゃないけど。
ラナたちスプリタス商会の連中を守る必要があるからな。先に数を減らしておくか。
こいつらが相手なら、ドラゴンブレスを使うまでもないだろう。俺は大抵の魔法が使えるからな。
空に手を掲げると、空中に巨大な渦巻く火焔が出現する。範囲攻撃魔法の『
俺は魔術書を読んで、独学で魔法を憶えたから。他の奴が『火焔球』を放つところを、見たことがないんだよ。
渦巻く火焔は空気の壁を突き破るように、高速でガゼルたちの頭上を越えて行くと。覆面の集団に直撃して、轟音とともに爆発する。
渦巻く火が直撃した10人ほどが消し炭と化して。残りも爆風で身体が吹き飛んで、焼け焦げた肉片と血が周辺を赤く染める。
立っている奴は1人もいない。さすがにやり過ぎたか。
「おい、グレイ。危ねえじゃねえか! 下手したら、俺たちまで巻き込まれるところだっただろう。おまえが魔法を使うなら、先に言えよ!」
ギースが文句を言う。俺が毎日鍛錬に付き合っている『野獣の剣』のメンバーとクリフは、これくらいで驚くことはない。
「グレイ。伏兵を捕らえたが、始末はどうする?」
ライラはいつの間にか、金属の鞭で黒ずくめの男を捕らえている。こいつが街道を外れて潜伏していたことには、俺も気づいていたけど。
「せっかく捕らえたんだから、口を割らせてみるか。ラナ、おまえたちが知っている奴か確認してくれ」
「……は、はい!」
ラナが顔を引きつらせて。スプリタス商会の連中も唖然としているけど。
俺は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます