第13話:挨拶


「なあ。グレイは今回も直ぐに帰るのか?」


 人間のC級ハンター、カイラムが訊く。

 これまで俺は魔石や魔物の素材を売って、買い物を済ませると。その日のうちにジャスティアの城塞に戻っていた。


「いや。少なくとも、何日かはキャトルの街にいるつもりだよ」


 これから俺とクリフは、しばらくゴーダリア王国で過ごすつもりだ。


 だけどこの国のことを、俺たちは大して知らない。俺はエリアザード辺境伯領の城塞にある書庫で、本で読んだ知識はあるけど。カビ臭い知識だけで生きた情報を知らないと、足元を掬われるだろう。


 クリフも俺と同じようなモノというか、俺よりも酷い。

 俺の使用人になったときに、書庫の本を自由に読んで構わないと伝えて。真面目なクリフは、自分が理解できない魔法関係以外の大半を読破したけど。


 クリフは俺と一緒に辺境地帯に行くまで。エリアザード辺境伯領の街から、出たことがないし。ジャスティアの城砦にいるときも、ほとんど城砦の中にいたからな。


 だから俺とクリフは、この街で情報収集をするつもりだ。


「なあ、カイラム。ゴーダリア王国を支配しているのはフェンリルって話だけど。キャトルの街にも、フェンリルはいるんだよな?」


「なんだよ、藪から棒に。確か、グレイはカイスエント帝国出身だったな。だったらゴーダリア王国に詳しくないのも仕方ないが。この国を支配しているのはフェンリル様だからな。キャトルの街の太守も、当然フェンリル様だぜ」


 カイラムは人間だけど。親がゴーダリア王国に移住した移民の子供だ。

 ゴーダリア王国の南部は街道で、カイスエント帝国と繋がっているから。カイラムの親のような移民も多い。


 俺は何か目的があって、コーダリア王国に来た訳じゃない。

 俺は自分が生きていることがエリアザード家の連中にバレると、面倒なことになりそうだから。とりあえず、他の国に来ただけの話で。クリフは俺が心配で、ついて来ただけだ。


 だけど他の国に来て、平穏無事に暮らそうとか。俺はそんなことを考えていない。

 退屈な人生を送りたいと思うほど、年を食っていないからな。


 そうは言っても。支配者に関わると面倒なことは、カイスエント帝国で経験済みだから。俺はできるだけフェンリルと関わらないように。それでいて刺激がある生活を送りたいと思っている。


 勿論。クリフにも何がしたいか、訊いてみたけど。


『僕は辺境地帯に言った時点で……死んだようなモノだからね。50m級の魔物に襲われるとか。グレイとジャスティアさんの手合わせを見たら……生きているだけで、幸せだって感じるよ』


 クリフは遠い目で言ったけど。つまり俺に任せるってことだな。


「とりあえず、俺たちはダンジョンに行くつもりだ。コーダリア王国にもダンジョンはあるんだろう?」


「そうだな。キャトルの街から一番近いのは、迷宮都市トレドにある『螺旋迷宮』じゃないか?」


 エリアザード辺境伯領にあるダンジョンの名前を、俺は知らない。

 竜人はダンジョンに興味がないから、誰も名前で呼ばないけど。あのダンジョンにも、たぶん名前があるんだろう。


 ちなみにカイラムはキャトルの街周辺の魔物を狩るハンターで。ダンジョンに行った経験は、ほとんどないらしい。


「カイラムは見掛ける度に、酒を飲んでいるし。おまえって、仕事をしないボッチなんだな」


「そんなことはねえって。ダンジョンに潜るにはパーティーを組む必要があるが。この辺りで、人間の俺がパーティーを組むのは難しいんだよ」


 カイラムはそんなことを言っていたけど。確かにコーダリア王国の人口の大半は獣人で、人間は数%で。しかも、わざわざコーダリア王国に来てハンターになる人間はさらに少ない。


 人間は身体能力で獣人に劣るから。あえてパーティーに入れようとする獣人は滅多にいないらしい。魔術士なら需要はあるそうだけど。カイラムは近接戦闘タイプだからな。


「まあ、獣人は実力主義だからな。たとえF級ハンターでも、グレイとクリフに獣人が認めるだけの実力があれば。獣人のハンターとパーティーを組めるんじゃないか」


 俺はクリフ以外の奴とパーティーを組むつもりはないけど。ゴーダリア王国で関わりがあるのはカイラムの他は、ハンターズギルドの職員と、買物した店の店員くらいだ。生きた情報を集めるためには、ハンターたちと関わるのも悪くないだろう。


「俺は他のハンターたちに挨拶して来るよ」


「お、おい、グレイ……」


 おもむろに席を立つと、カイラムが戸惑っている。


「まあ、カイラムさん。グレイがやることですから」


 クリフは慣れたモノって感じだけど。

どこか諦めたような、遠い目をしているのが気になる。まあ、俺に全部任せるってことだろう。


 俺は周りのハンターたちに聞こえるように言う。


「なあ、ちょっと良いか? 俺はグレイ、F級ハンターだ。何日かキャトルの街にいることになったから。先輩のハンターに挨拶しておこうと思ってね。今日はここにいる全員に酒を奢らせ貰うよ」


 獣人のハンターたちが歓声を上げる。

 人間との関わり方は、エリアザード辺境伯領の街に行ったときに憶えた。


 獣人も大差ないだろうと思ったけど。反応は悪くないな。


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