第14話:A級ハンター
「俺はグレイ、F級ハンターだ。何日かキャトルの街にいることになったから。先輩のハンターに挨拶しておこうと思ってね。今日はここにいる全員に酒を奢らせ貰うよ」
獣人のハンターたちが歓声を上げる。
「おまえ、人間の癖に話が解る奴だぜ。だが俺は
犬の獣人が、意地悪く笑う。飲み代を全部払うと言った憶えはないけど。まあ、構わないか。
「ああ、問題ないよ。ここはハンターズギルドだからな。金が足りなくなったら、魔石や魔物の素材を売れば良いだけの話だろう」
「へー……あんた、随分と太っ腹なんだね」
次に声を掛けて来たのは猫の獣人の女。
「だけど魔石や素材を売るって言っても。そんなモノ、どこにあるんだい? もしかして、あんたはマジックバッグを持っているのかい?」
ちなみにマジックバッグとは『
「まあ、そんなところだよ。だから金の心配は要らないからな」
獣人のハンターたちは上機嫌で、ジョッキの酒を飲み干して。次々と酒を注文する。
「おまえ、グレイって言ったな。メシも全部、おまえの奢りなんだよな?」
熊の獣人がニヤニヤ笑う。こいつ、どこまで
「おい、グスタフ。さすがに図々し過ぎるぜ」
「そうだ。相手はF級ハンターだぜ。おまえは、どこまで意地汚いんだよ」
周りのハンターたちに白い目で見られて、熊の獣人グスタフがバツの悪い顔をする。
「じょ、冗談に決まっているだろう! なあ、グレイ?」
「グスタフ、気にするなよ。俺も冗談だってことくらい、解っているからさ」
俺のフォローに、グスタフは気を良くしたのか。
「おまえ、なかなか
「何だよ、グスタフ。結局、おまえはグレイに集るつもりじゃねえか!」
「違うって! グレイの分は俺が奢るって言っているんだよ!」
獣人のハンターたちは盛り上がって。一気に酒を飲んだせいで、酔いつぶれた奴もいるけど。俺は獣人たちと喋りながら、それなりに楽しく飲み食いして過ごている。
「グレイ。おまえ、酒が強いんだな。全然酔ってねえじゃねえか」
熊の獣人グスタフが、真っ赤な顔で言う。こいつも相当飲んでいるからな。
「俺は体質的に酒に強いんだよ。そっちの酒は全然減ってないな。どんどん飲んでくれよ」
俺は昔から何故か身体が丈夫で。酒にも酔ったことがない。
「それにしてもグレイは、随分と羽振りが良いんだね。マジックバックを持っているって話だし。何か商売でもやっているのかい?」
俺の隣で飲んでいるのは、さっき話し掛けて来た猫の獣人ミランダ。
「別に商売をやっている訳じゃないよ。俺の等級が上がらないのは、ギルドの依頼を請けないからで。それなりに魔物は倒しているからな」
ハンターの等級は功績によって決まる。ハンターズギルドの依頼を請けないと、功績を上げる方法がないから。俺はずっとF級のままだ。
「へー……そうなんだ。確かにグレイは、弱そうには見えないからね。夜の方も……ねえ、どうだい。今夜、あたしと試してみるかい?」
ミランダが舌なめずりする。
ミランダは20代半ばで。しなやかな身体に、出るところは出ている。煽情的なタイプの美人だ。
ちなみにクリフとカイラムは完全に蚊帳の外で。遠巻きに俺を見ながら、2人で酒を飲んでいる。
カイラムはボッチみたいだし。クリフも騒がしいのは苦手だからな。
このタイミングで。4人のハンターがギルドに入って来る。
「何だ? 随分と楽しそうだな。俺も混ぜてくれよ!」
真っ先に入って来たのは、2本の角を生やした鹿の獣人。
年齢は20代後半ってところで。短く切った髪と、鍛え上げられた身体。
人懐っこい笑みを浮かべているけど。他の獣人たちとは全然雰囲気が違う。こいつは、結構強いな。
「おい、ガゼルじゃねえか!」
「おまえたちは、遠征から帰ってきたんだな!」
「成果はどうだったんだよ?」
周りのハンターたちが注目して。次々とガゼルに話し掛ける。
「そんなの決まっているだろう。依頼は完璧にこなしたぜ。だから、おまえらに奢ってやろうと思ったんだが。もうすっかり、出来上がっている奴もいるな」
「ここにいるグレイが、挨拶代わりだって。皆に奢っているんだ。こいつは人間の癖に、結構話が解る奴だぜ!」
グスタフの言葉に、ガゼルが値踏みするように俺を見る。
「へー……金持ちのボンボンって感じでもなさそうだな。グレイ、俺はA級ハンターのガゼルだ。キャトルの街にようこそ。歓迎するぜ!」
「ありがとう、ガゼル。よろしく頼むよ」
「ああ、よろしくな。俺は素直な奴は嫌いじゃないぜ」
ガゼルは気の良さそうな奴で。他のハンターたちも、一緒に飲んでみれば。癖がある奴もいるけど、気の置けない奴ばかりだ。
「ガゼル。誰と話しているの?」
ガゼルと一緒に入って来た他の3人のハンターが、こっちにやって来る。
蛇の獣人の女と、虎の獣人の男。そしてガゼルに話し掛けたのは、狼の獣人の女だ。
この3人もガゼル並みに強い。特に――
「レベッカ。おまえは本当に周りの話を聞いていないな。こいつはグレイ。この街に来たばかりのハンターで、皆に挨拶代わりに酒を奢っているそうだ」
「ふーん……」
レベッカはマジマジと俺を見る。ベリーショートの銀色の髪。大きな黄色い目。頭の上に三角の耳という可愛らしい見た目だ。
「この子……たぶん、ガゼルより強いよ」
適当に言っている感じじゃないな。
今、俺は魔力を完全に隠しているけど。近くにいれば、解る奴には解るか。
だけど『この子』って……レベッカは俺と大して年が変わらないように見えるけど。
「こいつがガゼルより強って……おい、レベッカ。いったい、何の冗談だ?」
反応したのは虎の獣人。熊の獣人グスタフほどデカくじゃないけど。190cm近い長身で、分厚くてゴツイ身体をしている。
「おい、ギース。止せって。相手はF級ハンターだぜ」
ガゼルが止めるけど。
「そのF級ハンターが、ガゼルより強いんだろう? 本当かどうか、俺が試してやるぜ!」
虎の獣人ギースが俺を睨みつける。なんか、面倒臭いことになったな。
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