第12話:ハンターズギルド


 俺とクリフは辺境地帯を抜けて。竜人の国カイスエント帝国の隣国、聖獣の国ゴーダリア王国に辿り着いた。


 ゴーダリア王国はフェンリルが支配する国で。人口の大半は獣人だ。


 ゴーダリア王国の一番西にあるキャトルの街。ここにはジャスティアの城塞にいるときに、何度も来ているから。少しは顔なじみの奴らがいる。


「へー……ここがゴーダリア王国の街なんだね。エリアザード辺境伯領の街と、そんなに変わらない感じだけど」


 反応を見れば解るように、クリフは初めてキャトルの街に来た。

 魔物の魔石や素材を売って、買い物をするために来たときは、1人で移動した方が速いから。クリフには悪いけど、一緒に連れて来なかったからな。


「クリフ。とりあえず、金を作るために。ハンターズギルドに行くからな」


 ハンターズギルドとは、魔物狩りを仕事にするハンターと呼ばれる者たちを束ねる組織で。仕事の斡旋と、魔石や魔物の素材の買取りを行っている。


「魔物の素材の買取りを頼むよ」


「グレイさん、いらっしゃい。グレイさんが持ち込む素材は良いモノばかりだから、大歓迎ですよ」


 美人というよりも可愛い感じの受付係が、笑顔で応える。

 俺はこれからグレイと名乗ることにしたから。ハンターズギルドにも、グレイという名前で登録した。


 ちなみに俺が売った魔石と素材は、辺境地帯の魔物のモノじゃない。

 そんなモノを売れば騒ぎになるって、シェリルに言われたから。昔、狩ったまま『収納庫ストレージ』に死蔵しているモノを売っている。


 街で生きて行くには金が必要だけど。ジャスティアのところにいるときは、酒と食材を買うくらいしか金を使わなかったから。そんなに金は必要なかった。

 だから辺境に行く前に倒した魔物の魔石と素材が、まだたくさん残っている。


「クリフ。おまえもハンターとして登録しておけよ。ハンターの登録証は一応身分を証明してくれるから。持っていると便利だぞ」


「そうなんだ。だけど僕はゴーダリア王国のお金を、まだ持っていないからね」


 カイスエント帝国とゴーダリア王国では、流通している貨幣が違う。

 カイスエント銀貨とゴーダリア銀貨では価値が違うし。カイスエント銀貨をゴーダリア王国で使うことはできないから。両替商で手数料を払って交換する必要がある。


「魔物の素材を売って金が入ったし。それくらい俺が払うよ」


「ダメだよ、グレイ。お金のことはキッチリしないと」


 クリフは真面目だからな。とりあえず俺がクリフに貸すという形で、ハンターの登録料を払うことになった。

 ちなみにクリフが俺をグレイと呼ぶのは、事前に打合せしたからだ。


 ハンターに登録すると言っても、やることは簡単で。用紙に名前を書いて、名前が刻まれたプレートを貰うだけだ。このプレートがハンターの登録証になる。


 俺たちがハンターズギルドに来たのは夕方で。ハンターズギルドに併設された酒場は、仕事を終えたハンターで席が半分以上埋まっている。


「よう、グレイ。1ヶ月ぶりか?」


 獣人じゃなくて、人間の男が話し掛けて来る。

 無精髭の20代後半。こいつはカイラム・ローラン。知り合いのC級ハンターだ。


 ハンターは功績によって等級が上がる。一番下がF級で、一番上がS級の7段階。カイラムは、ちょうど真ん中の等級ってことだ。


 ちなみに俺は月に1回程度、魔石と魔物の素材を買い取って貰うために来ていただけだから。等級はF級のままだ。


「カイラム。あんたは相変わらず、仕事もしないで飲んでいるのか?」


「馬鹿言うなよ。今日の仕事はキッチリこなしたぜ。それよりもグレイが他の奴と一緒だなんて、めずらしいな」


「僕はクリフと言います。グレイの友だちで。さっきハンターになったばかりです。右も左も解りませんが。どうぞ、よろしくお願いします」


 クリフが俺の友だちと言ったのは、これも事前に打合せしたからだ。余計なことを言うと、説明するのが面倒だからな。


「おう。俺はC級ハンターのカイラムだ。グレイとは知り合いってところだ。よろしく頼むぜ」


 クリフの丁寧な挨拶に、カイラムが戸惑っている。

 魔物を狩るハンターなんて仕事をしてるい連中は、言葉よりも先に暴力って連中が多いからな。


「マスター、俺とクリフの酒と料理を適当に頼むよ」


「グレイ。ここの支払いも、後で払うからね」


「ああ。解っているって」


 ホント、クリフは真面目だよな。


 俺とクリフはカイラムがいるテーブル席に座る。

 カイラムと初めて会ったのも、この酒場で。俺を人間と勘違いしたカイラムの方はから声を掛けて来た。


 竜人が人の姿をしているときは、見た目で人間と区別がつかないし。竜人がゴーダリア王国のハンターズギルドに登録する筈がないから。俺はそのまま人間で通している。


 ゴーダリア王国はカイスエント帝国と隣接しているから、それなりの数の人間がいる。だけど2つの国が交流しているのは、両国を繋ぐ街道がある南部だ。


 キャトルの街がある北部は、辺境地帯が2つの国を隔てていて。交流がないから、この辺りに人間の数は少ない。だからカイラムも数少ない人間のハンターだと思って、俺に声を掛けたんだろう。


――――――――――――――――――――

ちなみに、この世界の獣人は頭の上の耳と尻尾が生えている以外は、ほとんど人間と変わらない姿をしています。爬虫類系の獣人もいますが、例えば蛇の獣人は目が蛇で、舌が長いだけなど。やはり見た目は人間と大きな差はありません。

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