第11話:旅立ち


 結局。俺は1週間経った後も、ジャスティアと鍛錬を続けることにした。


 ジャスティアが手の内を全然晒していないことは解っていたし。ジャスティアから学べることが多いことが実感できたからな。


 クリフには、俺の都合に付き合わることになるけど。


「僕には別に宛がある訳じゃないし。ジャスティアさんもシェリルさんも良い人だから。グレイオンがここにいたいなら、僕は全然構わないよ」


 最初の頃は、ジャスティアが『竜化』して全力で戦っても、勝てるようにまでと思っていたけど。実際に『竜化』したジャスティアと戦ってみて、その先があることを知った。

 ジャスティアが理想とする戦闘技術の究極――そこに終わりはない。


 ジャスティアは人を教えるのが上手くて。理論的だから解りやすいし。一つのハードルを越えれば、次のハードルを用意してくれる。

 俺は別に戦闘狂じゃないけど。自分が確実に強くなっていくことが、正直に言えば楽しくなった。


 鍛錬の合間に、俺はジャスティアから戦術や戦略についても学んだ。

 ジャスティアは個としての強さだけじゃなくて。指揮官としても優秀だったそうで。ジャスティアが語る戦術や戦略は理に適っていて、実に合理的だった。


 そして気がついてみると。俺はジャスティアの城塞で、1年以上過ごしていた。


※ ※ ※ ※


「グレイオン。もう俺がおまえに教えることは何もねえぜ。これからは実戦の中で、自分の技術を磨いて行くんだな」


「まだ俺がジャスティアから学ぶことは、たくさんあると思うけど。クリフをずっと待たせているし。そろそろ当初の目的地だった他の国に行くのも悪くないと思ってね」


 ジャスティアとシェリルとクリフと4人で、酒を飲みながら夕飯を食べる。俺とクリフは明日、ここを出て行くつもりだ。


「グレイオン、何度も言うようだけど。僕のことを気にしているなら、その必要はないからね。僕はこの城塞での生活が気に入っているんだ。だからジャスティアさんとシェリルさんが迷惑じゃなければ、もっと居ても構わないよ」


 クリフは人の良い奴だからな。こいつが誰に気を遣っている・・・・・・・・・か解っている。


「そうですよ。ずっとここに居れば良いじゃないですか。他の国にだって、たまに買い物に行っているんですから。問題ないありませんよね?」


 めずらしく酒に酔ったシェリルが拗ねた顔をする。俺の実力を知ってから、シェリルは俺を子ども扱いしないで。1人の男として扱ってくれるようになった。


 俺はこの城塞で、ジャスティアとシェリルの世話になっているから。たまに街まで行って。魔石や魔物の素材を売って、買い物をして来る。


 初めは居候させて貰っている礼として、金を渡そうとしたけど。ジャスティアが受け取ってくれないから。酒や食材を渡すことにした。


「シェリル、そういう問題じゃねえんだ。男には旅立つときがあるってことだぜ。この辺境地帯は、グレイオンにとっては狭過ぎるんだよ」


 確かに、辺境地帯の魔物は粗方狩ってしまったし。俺が本気で相手をするような魔物は、この辺りにはもういないからな。


「だがな、グレイオン。たまには帰って来い。シェリルが寂しがるからよ。特に夜になるとな」


 ジャスティアがニヤニヤする。こう言う顔をすると、ジャスティアも只のスケベジジイだな。


「もう……ジャスティア様。下品なことを言わないでください!」


 シェリルが真っ赤になる。まあ、俺とシェリルがそういう関係・・・・・・になったのは事実だけど。シェリルは良い女だし、俺も健全な男だからな。


 初めはジャスティアとシェリルは2人で住んでいるから、2人がそういう関係・・・・・・だと思っていたけど。

 どうやらジャスティアは、そういうこと・・・・・・に興味がないらしい。もう年だから、戦闘以外のことは枯れているのか? 


「おい、グレイオン。今、何か失礼なことを考えていただろう?」


「いや、そんなことはないよ。それよりも、シェリル。もし何かあったら『念話』で連絡してくれ。直ぐに駆けつけるからさ」


 『念話』は登録した相手に思念を伝える魔法で。俺やシェリルの魔力なら『人外の大陸』のどこにいても、相手に思念を伝えることができる。


グレイ・・・。何かあったときじゃなくちゃ、ダメですか?」


 シェリルは俺のことを『グレイ』と呼ぶようになった。シェリルが勝手につけた愛称だけど。これから俺は自分でも、グレイと名乗ることにする。


 グレイオンって名前はめずらしいから。名前から俺が生きていることがエリアザード家の連中にバレると、面倒臭いことになるかも知れないからだ。


「別にいつでも構わないけど。時と場所によっては、直ぐに来れるか解らないからな」


「シェリル、あんまり我がままを言うんじゃねえぜ。グレイオンが困っているだろう」


「ジャスティア様、それは解っていますが……」


「まあ、シェリルの気持ちも解らなくはねえが。今夜はゆっくり2人で過ごして。グレイオンにたっぷり可愛がって貰えよ」


「ですから、ジャスティア様。そのような下品な発言は……」


「シェリル、済まねえな。俺は腹が膨れて来たし、酒も回ったようだ。そろそろ、自分の部屋に引き上げるぜ」


「ぼ、僕も眠くなったし……シェリルさん、グレイオン。先に失礼させて貰うよ」


 ジャスティアとクリフが余計な気を利かて、直ぐにいなくなる。


 2人だけになった部屋で。シェリルは俺に身を寄せて、じっと見つめる。


「グレイ……本気にならないって・・・・・・・・・約束・・したのに。面倒な女だと思うかも知れませんが。私はずっと貴方のことを……」


 決して本気にならない。俺とシェリルが、そういう関係・・・・・・になったときに、シェリルが言ったことだけど。


「俺は面倒だなんて思わないよ」


 シェリルの唇を塞いで押し倒す。甘い吐息を感じながら、ゆっくりと服を脱がせる。


 俺はここを出て行くから、適当なことを言うつもりはないけど。

 今、この瞬間。シェリルを大切に想っている気持ちは本物だからな。

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