第7話:最強の竜人


「エリアザードだと……じゃあ、俺とおまえは親戚ってことだな」


 白い髪と髭の竜人は、確かにそう言った。

 こいつもエリアザード家の竜人なのか。エリアザード家の竜人に、ロクなイメージはないけど。


「一応、訊くけど。あんたは俺を殺すつもりなのか?」


「おい、勘違いするな。俺はとうにエリアザード家と縁を切っている。腑抜けになったエリアザード家の奴らに興味はねえぜ」


 こいつの態度から、エリアザード家を嫌っているみたいだな。


「だったら、俺たちに用はないだろう。もう行くからな」


「おい、ちょっと待てって。若え奴はせっかちだな。俺はエリアザード家に興味はねえが、おまえには興味があるんだよ」


 男が獰猛な笑みを浮かべる。なんだよ。やっぱり、俺と戦うつもりなのか?


「俺はジャスティアだ。おまえもエリアザード家の竜人なら、俺の名前くらい知っているだろう?」


 ジャスティア・エリアザード。250年ほど前に、史上最強の竜騎士と言われながら、エリアザード家を捨てた奴の名前だ。


「『竜化』できないから家を追い出されたってことは、おまえはまだ10代のガキってことか?」


 人の姿の竜人は、見た目じゃ年齢が解りづらいから。ジャスティアは俺がもっと年上だと思っていたのか。


「確かに、おまえは強えが……全部、我流だろう? 戦闘技術が全然足りてねえぜ」


 俺と戦ったこともないのに、なんでそんなことが解るんだ? こいつは俺が魔物と戦うところを、見ていたってことか?


 確かに俺にも自覚がある。俺はエリアザード家で、冷遇されていたから。剣も魔法も真面まともに習っていない。

 実戦経験も相手はほとんど魔物だったから、力押しで勝てた。戦闘技術が足りないのは、仕方ないだろう。


「そう言えば、おまえの名前を訊いていなかったな。こっちが名乗ったんだから、おまえも名乗れよ」


「俺はグレイオンだ」


 もうエリアザード家の竜人じゃないから、俺は只のグレイオンだ。


「なあ、グレイオン。おまえはもっと強くなりたくねえか? 俺がおまえに戦闘技術を教えてやる。おまえが技術を覚えれば、今よりも格段に強くなるぜ」


「何で、あんたはそんなことをするんだよ? 俺とあんたは元エリアザード家というだけで、他には何の関係もないだろう」


「確かに関係ねえが、俺はおまえに興味があるって言っただろう。俺は強え奴が好きなんだよ」


 強い奴が好きって……こいつは戦闘狂みたいだな。

 だけど俺は1人で生きるために、強くなっただけで。強くなりたい訳じゃない。


「なんだよ、反応が薄いな。まさか、強くなることに興味がねえって訳じゃねえだろう?」


「俺はこれ以上、強くなりたいと思わないよ。生きていくためには、今の強さで十分だろう」


 別に己惚れている訳じゃないけど。辺境の奥地の魔物を1人で倒せる奴は、そうはいないだろう。

 それに本音を言えば、知らないオッサンに、教えて貰うつもりがないだけで。俺は自分の方法とペースで、これからも鍛練は続けるつもりだ。


「グレイオン、おまえは甘いぜ。この『人外の大陸』には強え奴がたくさんいる。これから自分の力だけで生きて行くつもりなら、強くなれるときに強くなっておくべきだぜ」


 俺が全然興味がない顔をしていると、ジャスティアは不満そうに言う。


「ホント。最近の若い奴は、何を考えているか解らねえな。じゃあ、こうしねえか? とりあえず1週間だけ、俺に付き合えよ。それでも興味が沸かねえなら、おまえの好きにして構わねえぜ」


「俺もあんたが何を考えているか解らないよ。俺を強くして、どうするつもりだ? 強くなったら用済みだって、俺があんたを殺すかも知れないだろう」


「おまえが、俺を殺すだって? 俺より強い奴に殺されるなら本望だがな。れるせるものなら、殺ってみろよ」


 ジャスティアが獰猛な笑みを浮かべる。

 完全に戦闘狂の台詞だな。絶対に俺に勝てると思っているところがムカつくし。俺はそういうノリに、ついて行けないんだよ。


 だけどジャスティアは諦めそうにないし。このままじゃ、埒が明かないからな。


「本当に1週間だけだからな」


 俺は押し切られる形で、ジャスティアについて行くことにした訳だけど。


「グレイオン。話が纏まったみたいだけど……この人について行くの?」


 クリフが不安そうな顔をする。そう言えば途中から、クリフのことを完全に忘れていたな。


「なあ、ジャスティア。こいつも一緒で構わないよな?」


「ああ。おまえの使用人なら、置いて行けとは言わねえぜ。部屋はたくさんある・・・・・・・・・・から、問題ねえだろう」


 クリフは使用人だけど。そんなことを言って、置いて行けと言われたら面倒なことになるから、黙っておくことにする。

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