第6話:遭遇


 辺境地帯に来てから2週間が過ぎた。


 俺は辺境地帯の奥に進みなら、魔物狩りを続けている。


「おまえの戦い方はワンパターンなんだよ。そんなんじゃ、俺に狩られるだけの獲物だからな」


 今、俺が戦っているのは、体長50m級の巨大な蜘蛛アリアドネ。

 アリアドネが吐いた糸を躱すと。剣に魔力を纏わせ、魔力の刃でアリアドネの巨体を真っ二つにする。


 ドラゴンブレスを使えば、もっと簡単に倒せるけど。火力で強引に倒すのは、脳筋っぽくて好きじゃないし。


 ドラゴンブレスは威力があり過ぎて、相手を消滅させてしまうから。素材として売るなら、剣で仕留める方が都合が良い。


 俺は戦う直前まで、魔力を隠しているから。魔物に警戒されないけど。一度戦闘を始めると、周囲の魔物たちが俺の魔力に気づいて。逃げ出してしまう。


 だから俺は戦闘の後。再び魔物を探して、移動することになる。


 クリフのことも問題ない。俺は生まれつき、何故か魔力が見えるからだ。

 1人で生きるために、普段から感覚を研ぎ澄ましていたら。広範囲の魔力を感知できるようになったし。魔力の色で、相手を識別できるようになった。


 だから魔物がクリフに近づいても、俺の方が先に気づいて対処することができる。


「グレイオンが一緒だと、ここが辺境地帯だとはとても思えないよ。巨大な魔物には、全然慣れないけどね」


 クリフと一緒にメシを食べる。俺たちが食べているのは、エリアザード辺境伯領にある街の屋台で買った串焼きにパン。

 俺は家を追い出されることが解っていたから、『収納庫ストレージ』の中に食べ物を大量にストックしている。


 『収納庫ストレージ』の中の物は、入れた瞬間に時間が止まるから。取り出した料理は温かいし。パンは焼きたてのままだ。


 あとは2週間経っているのに、俺とクリフの服も身体も汚れていない。俺が毎日『浄化ピュリファイ』を使っているからだ。

 『浄化』は汚れを落とす魔法で、身体ば風呂に入ったような状態になるし。服は選択したてのようになる。


「だけどパンと料理は、そろそろストックが無くなるからな。魔物の肉を食べることになるぞ」


 さすがにクリフが一緒に来ることは想定していなかったら。1ヶ月分用意していた食料を、ほとんど食べ尽くしてしまった。


「そうか、僕が一緒に来たから……グレイオン。迷惑ばかり掛けてごめん」


 クリフが申し訳なさそうな顔をする。


「いや、気にするなよ。こうなることを予想していたのに、俺がクリフを巻き込んだのは事実だからな。気にするくらいなら、魔物の肉で美味いメシを作ってくれよ。俺は料理が苦手だからな」


「うん。それくらいは、当然やらせて貰うよ。僕も料理は得意な方じゃないけど。簡単なものなら作れるからさ」


「だったら俺が後片付けをするか」


「いやいや。グレイオンには魔物から守って貰っているし。雑用は全部僕がやるよ」


「あのなあ、クリフ。おまえは、もう使用人じゃないだろう。俺は好きで魔物を狩っていて。結果として、おまえを守ることになるだけだ。自分のことくらい自分でやるから。メシを作って貰う代わりに、後片付けをするのは当然だ」


「グレイオン……何か誤魔化された気がするけど。ありがとう」


 クリフが涙ぐんでいる。こいつは本当にお人好しで良い奴だな。


「随分と威勢が良い奴がいると思ったが……1人は人間で。おまえは、竜人のガキか?」


 そいつは突然現れた。白い髪と髭の男。だけど老人という感じじゃない。

 無駄な肉を削ぎ落したような身体。隠していても解るほど、圧倒的で濃密な魔力。バリバリの現役って感じだな。


 クリフが反応して動こうとするけど。俺が視線で止める。


「あんたも竜人みたいだけど。俺たちに何か用があるのか?」


 人の姿のときは、竜人も人間と変わらない。だけど魔力が見える俺には区別がつく。


 この男も俺が竜人だと見抜いたのは、俺と同じことができるってことか?


 突然、男が面白がるように笑う。


「おまえ、俺の魔力に気づいてない馬鹿じゃねえよな? その上で、俺にその態度を取るか……良い度胸しているじゃねえか」


 全身から放つ殺意と威圧。こいつは辺境地帯の魔物よりも、ずっと強い。


 クリフが青い顔で震えている。


「あんたが強いことは解っているよ。戦うなら相手になるけど。俺は無暗やたらと喧嘩を売るような脳筋じゃないからな」


「良く言うぜ。こんな辺境地帯の奥地で、魔物狩りしているような奴が。おまえは立派な戦闘狂じゃねえか」


 相手は戦う気満々だし。嘘をついても仕方ないだろう。


「ここに来たのには、理由があるんだよ。俺は『竜化』できないって理由で、父親に家を追い出されて、辺境に連れて来られた。一緒にいる人間は俺の使用人だった奴だ。

 俺が生きていることがバレたら面倒なことになるから、もうカイスエント帝国には戻れないし。俺たちは辺境地帯を抜けて、別の国に行く途中なんだよ」


「『竜化』できないから、おまえを追い出したって? そいつは、どこの馬鹿野郎だ。おまえくらい強い奴は、竜人の中にも滅多にいねえだろう」


「ガリオン・エリアザード。それが俺を追い出した父親だった奴・・・・・・の名前だよ」


 家を追い出されて、殺されそうになったんだから。ガリオンはもう俺の父親じゃない。


「エリアザードだと……じゃあ、俺とおまえは親戚ってことだな」


 白い髪と髭の男は、確かにそう言った。

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