第5話:竜人の使用人クリフ ※クリフ視点※
僕はクリフ・カート。竜人の貴族エリアザード辺境伯家に仕える使用人だ。
僕には父親がいなくて。母親はエリアザード家の使用人として、住み込みで働いていた。
僕は子供の頃から母親の手伝いをしていたから。母親が身の回りの世話をしていたエリアザード家の四男、グレイオンとは自然と知り合いになった。
だけど僕が10歳のとき。母親が病気で倒れて、そのまま亡くなった。
当時の僕は子供だったから、母親の事情は良く解らないけど。僕には親戚と呼べる人がいないくて。母を亡くした僕は、天涯孤独になった。
エリアザード家に、死んだ使用人の子供を養う義理がある筈もなく。僕が追い出されるところを、救ってくれたのがグレイオンだった。
これは後になってから、他の使用人に聞いた話だけど。
「俺の世話をする使用人を雇う? 使用人なら、ここにいるでしょう」
エリアザード辺境伯が新しい使用人を雇おうとしたとき。グレイオンがそう言って。僕は母親の代わりに、使用人として雇われることになったらしい。
使用人になってからも。10歳の子供に過ぎず、仕事のできない僕は、周りの使用人たちに虐められた。
「なあ、おまえたち。俺の使用人に何をするつもりだよ?」
グレイオンは、そんな僕を見掛ける度に助けてくれた。
「グレイオン様……ありがとうございます……」
僕がお礼を言っても。
「何を勘違いしているんだよ? おまえが虐められて逃げ出したら、俺が自分で面倒な雑用をすることになるから。俺の都合で勝手にやっただけだ」
グレイオンは決して、恩着せがましいことを言わない。
それに使用人としての仕事だって。グレイオンは子供の頃から、僕が自分で仕事を見つけないといけないくらい、全然手が掛からなかった。
だからと言って、僕は仕事をサボるつもりはないから。手が空いているときは、グレイオンが住んでいる城の離れの掃除や、庭の草むしりしたり。
他の使用人たちの仕事を率先して手伝ったら。皆も次第に僕のことを認めてくれるようになって。虐められることがなくなったのも、グレイオンのお陰だと思う。
だから僕はグレイオンには、本当に感謝しているけど。一つだけ困ったのは、たまにグレイオンの鍛錬に付き合うことだ。
グレイオンも僕が弱いことは解っているから。当然、手加減してくれて。せいぜい
そんなグレイオンが、エリアザード家を追い出されることになった。
理由は解っている。グレイオンは竜人なのに、竜の姿になることができないから。
そんなことで家を追い出されるなんて。無茶苦茶理不尽だと思う。
だけど使用人の僕がとう思おうと、何をしようと。エリアザード辺境伯の決定が覆される筈もなく。
グレイオンも追い出されることが解っていたから。1人で生きて行くための準備をずっと進めて来た。
僕がグレイオンが戦うところを見たのは、二人の兄との模擬戦というか。嫌がらせをされているところくらいだけど。素人の僕でも、グレイオンが強いことは何となく解る。
だからグレイオンなら、1人でも生きて行けると思うけど。
「グレイオン様が出て行くなら、僕も一緒に行くよ」
僕がグレイオンについて行くことを決めたのは、一人で生きていく寂しさを知っているからだ。
グレイオンが助けてくれなかったら、今の僕はないから。今度は僕がグレイオンを助ける番だ。
そう思っていたんだけど――
何故か、僕はグレイオンと一緒に辺境地帯に連れて来られて。
僕たちを連れて来た竜人の騎士は、巨体な化物に食い殺された。
だけど僕とグレイオンは、まだ生きている。グレイオンが巨大な化物を瞬殺したからだ。
え……グレイオンって、こんなに強かったの?
「クリフ。死にたくなかったら、俺の傍から離れるなよ。辺境地帯にはヨルムンガンドみたいな化物が、たくさんいるからな」
「グ、グレイオン! ちょっと、待ってよ!」
いったい何が起きたのか。全然、理解できないけど。
僕はグレイオンについて行くしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます