第4話:その頃、二人の兄とイリアは ※三人の視点※


※スレイン・エリアザード視点※


 部屋の窓から、グレイオンを乗せた馬車が走り去るの眺めて。俺は安堵の息を漏らす。

 何故か、使用人の1人が一緒に馬車に乗り込んだが。まあ、些細なことだ。これで、あの薄気味の悪い腹違いの弟を始末できる!


 竜の姿になれない出来損ないの癖に……あいつは、いったい何者なんだ?


 俺やオルランド兄さんが幾ら殴っても、グレイオンが少しもダメージを受けていないことに。俺はしばらく前から気づいていた。


 人の姿で殴ったときなら、まだ解らなくはない。魔力で身体を覆えば、ダメージを軽減できるからだ。忌々しいことにグレイオンは、魔力だけは子供の頃から強いからな。


 だがグレイオンが10歳になった頃から。俺が『竜化』して殴っても、グレイオンは派手に飛ばされるだけで。服は汚れているが、ダメージを一切負わなくなった。


 どんなに殴っても、グレイオンは平然としている。俺は秘かに恐怖を覚えていた。


 何度、事故に見せかけて殺そうとしたことか。だが、どれだけ本気で殺そうとしても、グレイオンを殺すことはできなかった。


「父上。グレイオンのような出来損ないが存在すること自体、エリアザード家の恥になります。ならば、初めからいなかったことにすれば……」


 俺はグレイオンを辺境地帯に捨てるように、父上に進言した。いくらグレイオンでも、強大な魔物が巣食う辺境地帯に放置してしまえば……


 グレイオンを辺境地帯に連れて行くのは、竜騎士団の中隊長の1人であるドミニク・バルカン。中隊長クラスの竜騎士なら、グレイオンを逃がすこともないだろう。


 これで俺の人生は安泰だ! 俺は三男だから、家督を継ぐ可能性はない。

 次兄のオルランド兄さんも優秀だが。それ以上に、年の離れた長兄は父上に匹敵する天賦の才能の持ち主で。すでに戦場で戦果を上げている。


 それでも俺はエリアザード家を支える竜騎士として。戦場で活躍すれば、父上も認めてくれるだろう。

 あわよくば、竜騎士団長のイアン・コーネリアスの娘であるイリアを嫁にすれば。次の竜騎士団長も夢ではない!


 イリアはグレイオンの御手付きで、男勝りの生意気な奴だが。顔と身体は良いし。この際、我慢してやろう。




※オルランド・エリアザード視点※


 愚弟であるスレインも、グレイオンの強さに気づいていたようだが。

 グレイオンをエリアザード家から追い出すなどと……父上もスレインの奴も、何を考えている?


 グレイオンはエリアザード家にとって、有力な戦力になる。しかし竜の姿になれないグレイオンが、家督を継ぐ可能性はゼロだ。


 つまり俺たち兄弟にとって、グレイオンは都合の良い駒だ。

 父上にとっても、グレイオンは側室の子供なのだから。適当なことを言って、自分の子と認めずに。使い潰すこともできただろう。


 だと言うのに、スレインはグレイオンを捨てろと父上に進言して。父上はそれを受け入れた。


 父上がグレイオンを切り捨てた理由は解る。プライドの塊のような父上にとって、出来損ないのグレイオンが、エリアザード家に存在すること自体が許せなかったのだろう。


 そして愚弟であるスレインが、秘かにグレイオンを恐れていたことは知っている。ここまでは理解できるが……

 長兄が黙認した理由は……まさか長兄も、グレイオンを恐れていたのか?


 確かに、グレイオンには得体の知れないモノを感じる。しかし、恐れるほどのことはないだろう。

 何故ならば、 グレイオンはスレインを殺すだけの力があるのに。自分を殺そうとしたスレインを殺さなかったからだ。


 そんな甘い奴に、どれほどの力があろうと。恐れる必要など、あるものか。


 俺はグレイオンを利用するつもりだった。だが捨ててしまった以上は仕方ない。

 グレイオンなどいなくとも、エリアザード家は安泰だからな。


 スレインの奴は、家督争いを諦めているようだが。俺は諦めるつもりはない。

 確かに長兄には、父上に匹敵する天賦の才能がある。だが同時に弱点もある……天賦の才能がある故の驕りと言う弱点が。


 力で長兄に勝てるとは思わないが、やり方は幾らでもある……俺はしたたかに、機会チャンスを待つつもりだ。




※イリア・コーネリアス視点※


 竜騎士団長である父から聞いているけど。エリアザード家の連中は、グレイオンを辺境地帯に捨てて。最初からいなかったモノにしようとしている。


 だけど、そんなことが本当に上手く行くと思っているの? エリアザード家の連中も甘いわね。グレイオンの力を見くびっているわ。


 グレイオンは、ほんの片鱗しか見せていないけど。時折、見せる濃密な魔力は異質で。他に比べられるモノなんてないわ。


 こんなことを言うと、怒られるかも知れないけど。父に鍛えられた私には解る。グレイオンの強さは、私の父と比べても圧倒的だわ。


 グレイオンは少し前まで、ダンジョンにばかり行っていたけど。

 ダンジョンの攻略を終えたらしく。近頃は何日も遠征に出ることが増えた。


 エリアザード家の連中は、グレイオンに関心がないから。何をしているのかと訊くこともなかったけど。


 グレイオンのことだから。こうなる・・・・ことが解っていて。準備をしていたに決まっているじゃない。


 だから私はグレイオンを少しも心配していないわ。むしろグレイオンを捨てたエリアザード家の将来の方が心配よ。


 グレイオンが辺境地帯で生き残って。敵として立ち塞がる可能性に、エリアザード家の連中は気づいていないみたいだから。


 どういう訳か。使用人のクリフが、グレイオンについて行ったみたいだけど。

 クリフは昔から、お人好しの変な奴で。グレイオンと一緒にいたら、命が幾つあっても足りないのに。ついて行くなんて、ホント、馬鹿だと思う。私なら絶対にしないわよ。


 だけどグレイオンは、意外と面倒見が良いし。クリフも案外しぶといから。もしかしたら、クリフも生き残れるかもね。


 そんなことよりも。グレイオンがエリアザード家からいなくなって。私も身の振り方を考えないとね。


 馬鹿なスレインが、何を考えているか。私には想像がつくから。絶対に隙を見せないように。私は竜騎士団長の娘として、自分の道を進むだけだわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る