第39話:事情


 隊商の連中は10人ほど殺されて、残りも半分近くが怪我をしていたけど。回復役ヒーラーのシーダが回復魔法で、全員を治療して回る。


「皆さん、本当にありがとうございました。勿論、十分なお礼をさせて頂きますが。図々しいとは思いますが、他にもお願いしたいことがあるのです」


 ウサギの獣人ラナが申し訳なさそうに言う。


「積めるだけで構いませんので。近くの街まで貴方たちの馬車で、私たちの荷物を運んで頂きたいのと。それまでの護衛をお願いしたいのです。A級ハンターの貴方たちに相応しい追加報酬をお支払いしますので」


 隊商の被害は獣人だけじゃなくて。馬車を引いていた騎竜は皆殺されるか、どこかへ逃げてしまった。ラナたちの隊商は4台の馬車で構成されているから。徒歩ではとても荷物を運びきれない。


 護衛の方も人数が減ってしまったし。徒歩だと次に盗賊に襲われたら、逃げるのもままならないだろう。だけど俺には、少し気になることがある。


「その前に、一つ訊かせてくれないか。この辺りで、あの人数の盗賊に襲われることは、良くあることなのか?」

 

 50人規模の盗賊団が活動していたなら、噂くらいにはなっている筈だ。住処や食料だって必要な訳だから。目立たずに潜伏するのは難しいだろう。

 ラナたちが事前に知っていたなら、もっと護衛の人数を増やすとか。なんで対策を打たなかったのか?


「大規模な盗賊団が活動しているとは、聞いたことがありません。ですが犯罪都市ガルブレナまで、それほど距離がありませんので。ガルブレナのならず者に狙われたのかも知れません」


 ガゼルたちに聞いた話だと、ここからガルブレナまでは馬車で10日ほど掛かる距離だ。ちょっと距離が離れているし。ガルブレナのならず者に襲われたと思ったのには、何か心当たりがあるんじゃないのか?


 それに馬車の向きから、ラナたちの隊商は俺たちとは逆方向。ガルブレナがある方から来たみたいだしな。ここは一つ、カマを掛けてみるか。


「俺たちは、そのガルブレナに向かう途中だから。近くの街と言っても、ガルブレナの方に向かうことになるけど。構わないか?」


「それは……私たちは先を急ぎますので……」


 ラナの顔が青ざめる。盗賊に偶然襲われただけなら、自分たちが通って来た道を戻るのに、そこまで躊躇ちゅうちょしない筈だ。


「なあ。おまえたちにも事情があるんだろうけど。襲われる理由に心当たりがあるなら先に話せよ。隠し事をしたまま護衛を依頼するのは、どうかと思うからな」


 ここまで話して。俺の意図に気づいていないのは、レベッカとギースくらいで。ライラは初めから、ラナたちのことを疑っていた。


 ラナが訝しそうに俺を見る。どこまで知っているのか、探ろうとしている感じだ。

 そもそも俺1人だったら、ラナたちを助けなかったし。こいつらが何か企んでいようと、問題ないけど。クリフや『野獣の剣』のメンバーが一緒だから。余計なリスクを抱えたくないからな。


「おまえたちが本当のことを言わないなら、依頼を引き受けない。おまえたちも、そういうことで構わないな?」


「グレイが護衛をしないなら、私もグレイと行く。盗賊はもう倒したから、街まで行くだけなら問題はない。荷物は諦めて」


 レベッカは盗賊に襲われていたから助けたけど。ラナたちに義理ある訳じゃない。


「グレイとレベッカがそう言うなら。悪いが、荷物運びと護衛の話は無しだ。さっきのお礼って奴を払ってくれるか」


「ちょ、ちょっと待ってください!」


 ガゼルの言葉にラナが慌てる。


「解りました。私たちの事情を全部・・お話します」


「ラナお嬢様!」


「アンドリュー、良いんです。ガゼルさんたちが依頼を請けてくれなければ、私たちは確実に・・・殺されるでしょう。あの男・・・が手段を選ばないことが、今回のことで良く解りましたから」


 ラナは覚悟を決めた顔で説明する。ラナの父親はゴーダリア王国各地に支店を持つスプリタス商会の会長で。ラナは17歳にて父親に商人としての才覚を認められて。今回、大きな取引を任された。


 ラナたちは犯罪都市ガルブレナで、ある商品の取引を終えて。手に入れた商品を依頼主に届けに行くところで、盗賊の襲撃にあった。


「私たちを襲った盗賊は、犯罪都市ガルブレナで取引をした相手が送り込んで来たものだと私は思っています。私たちが取引した相手は、ガルブレナの犯罪組織の一つで。手に入れた商品は、その……盗品なんです」


 盗品だから、奪い返して別の奴に売っても。スプリタス商会は何も言えない。

 取引をして金を貰ってから、相手を殺して商品を奪い返すとか。それが犯罪都市ガルブレナのやり方ってことか?


 まあ、ラナたちも犯罪組織と取引して。盗品だと解った上で買ったんだから、同情する気はないけど。その商品に、それだけの価値があるってことだし。


「次も襲われると解っているのに。それを隠したまま、俺たちに護衛を依頼しようとしたのか?」


「はい……皆さん、大変申し訳ありません。ですが決して、皆さんを騙そうとしたのではなく。ガルブレナの犯罪組織と盗品の取引をしたことを、隠したかっただけなんです」


 ラナが深々と頭を下げる。だけど理由がどうでも、やったことは同じだろう。こいつらは信用できないし。見捨てても構わないと思うけど。


「まあ、事情は解ったよ。俺たちはガルブレナの方に向かうけど。それで良いなら、依頼を引き受けても構わないんじゃないか」


 ラナが驚いている。自分で頼んでおきながら、簡単に引き受けるとは思っていなかったんだろう。


「それで報酬の方は……」


「そこはガゼルたちに任せるけど。さっきラナが言ったA級ハンターに相応しい・・・・追加報酬って奴で、構わないんじゃないか?」


 ちょっと嫌な言い方だけど。ラナは俺たちを騙そうとした訳だし。確実に襲われることが解っているんだから、相応の報酬を払うべきだろう。

 ラナが提示した金額に、ガゼルたちが納得する。これで商談成立だな。


「ねえ、グレイ。なんで依頼を引き受ける気になったの?」


 クリフが小声で訊く。


「襲われることが解っているなら、対処の仕方はあるし。盗賊を仕留めた時点で、俺たちはガルブレナの連中との揉め事に、すでに関わっているからな」


 盗賊を皆殺しにしたから、俺たちがやったとバレないかも知れないけど。A級ハンターパーティー『野獣の剣』は有名だからな。このタイミングでガルブレナに行けば、俺たちが関わったことを疑われるだろう。


 まあ、俺たちはガルブレナに遊びに行く訳じゃないし。向こうが仕掛けて来るなら。ガルブレナの連中とやり合う練習台として、ちょうど良いだろう。

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