第33話:尾行 ※途中三人称視点※


 2日後の朝。俺はハンターズギルドで、クリフとレベッカたちに合流した。


「グレイ。昨日は見掛けなかったけど。一昨日から、狐女とずっと一緒だったの?」


 レベッカが、ちょっと拗ねた感じで言う。


「ずっと一緒だった訳じゃないけど。まあ、そんな感じだな」


 別に隠すようなことじゃないから、素直に答える。

 俺は移動中に必要になりそうなモノを買いに行ったけど。ライラは休み取ったらしく。買物以外の時間は、ずっと2人で過ごした。


「むう……グレイは私たちと一緒にご飯を食べていたのに。あの女は勝手に入って来て、ちょっとムカつく」


 レベッカは俺を取られたことに、文句を言いたいみたいだけど。俺とライラが何をしていたとか。そういうこと・・・・・・は詮索しない。

 レベッカが俺に求めているのは、そういうことじゃないからな。


「ライラは俺と一緒に行く訳じゃないから。この街の最後の時間を、一緒に過ごしたんだよ」


「グレイ。おまえはいつから、ライラ・オルカスと……」


 ガゼルたちが驚いているけど。


「まあ、良いじゃないか。俺のプライベートの話だからな」


 この手の話を、俺は他の奴に言うつもりはない。


「僕にはそういう・・・・経験がないし。グレイの個人的なことを、とやかく言うつもりはないけど」


 クリフが呆れた顔で言う。


「グレイのことだから、それでも問題ないと思うけど。いつか女の人に、背中から差されないように気をつけてね」


※ ※ ※ ※


※三人称視点※


「そうか。グレイが迷宮都市トレドを出て行ったか……ならば、仕方あるまい。グレイのことはしばらく泳がせておくとするか」


 片膝を突いて頭を下げたまま報告するライラの言葉に。迷宮都市トレドの支配者であるシャルロワ・エスカトレーゼは、意味深な笑みを浮かべる。


 城塞の広間はシャルロワ自身とグレイが破壊してしまったから。ライラから報告を受けているのは、シャルロワの私室。

 この部屋に入ることを許しているのは、シャルロワが厳選した数人の侍女の他はライラだけだ。


「シャルロワ閣下、よろしいのですか? グレイという存在はゴーダリア王国にとって、余りにも危険過ぎます。放置すれば、どのようなことになるか……」


 グレイの力が脅威であることは、シャルロワも重々承知している。しかしグレイのことを、他のフェンリルに伝えるつもりはなかった。


 グレイのことを話せば、余計な詮索をされるだろう。まさかグレイの力を恐れて、放置したなどと知られる訳にはいかない。


 グレイがシャルロワのことを喋る可能性もあるが。知らぬ存ぜぬで通せば良い。

 少し調べれば、グレイがシャルロワと接触したことを知られるだろうが。グレイと戦ったのは、密室と化した広間であり。広間を破壊したのはシャルロワ自身ということにしたのだから。グレイの力を知らなかったと言えば、それで済む筈だ。


「ならばライラ。貴様が迷宮都市トレドを出て、グレイの監視を続けるか?」


 ライラが自分に忠誠を誓っていることを、シャルロワは疑っている訳ではない。

 しかしグレイのことを語るライラの態度が変わったことに、シャルロワは気づいていた。


「シャルロワ閣下のご命令であれば」


 ライラは下を向いているから、表情は見えないが。


(ライラも所詮は女か……グレイの奴に懐柔されおって)


 シャルロワは自分以外、誰も信頼していない。

 ライラのことも、自分を決して裏切らないと判断しているだけで。シャルロワにとっては、駒の一つに過ぎなかった。


 だから当然、ライラのことも監視しており。ライラの部下である憲兵の1人から、彼女が昨日の夜に何をしていたか。全て報告を受けている。


(だがグレイの首に鈴を付けるという意味では、ライラが適任か。ライラの性格を考えれば、私を裏切る可能は低い。仮に裏切ったとしても、切り捨てれば良いだけの話だ)


 個体数が少ないフェンリルは獣人を兵士として使っているが。戦力として期待している訳ではない。戦場で捨て駒にするためだ。


 混じりモノであるライラは、他の獣人と比べれば強力な駒だが。人外の存在の基準で考えれば、獣人との強さの違いなど誤差に過ぎない。


「よかろう。ライラ、貴様はグレイの監視を続けろ。だが私の命令で動いていることを他言することは許さぬ。私は貴様を本日付でクビにした。貴様の部下たちにも、そう伝えておけ」


 シャルロワの部下であるライラが、グレイと行動を共にしていることを、他のフェンリルに知られれば。グレイが何か仕出かしたときに、シャルロワが疑われる可能性がおる。

 だからライラをいつでも切り捨てられるように、シャルロワは先手を打ったのだが。


「シャルロワ閣下、承知致しました。これより私はライラ・オルカス個人として、グレイを追います」


 ライラは不服がないらしく。最後に深々と一礼して、シャルロワの部屋を出て行く。


「本当にライラは私を裏切らぬのか……疑わしく思えて来たな……」


 1人になったシャルロワは思わず呟いた。


※ ※ ※ ※


 迷宮都市トレドを出発してから、3日経った。


今回も俺たちは騎竜と呼ばれる2足歩行の蜥蜴の魔物が引く馬車で移動している。迷宮都市トレドにいる間、騎竜と馬車は宿屋に預けていた。


 まあ、俺は自分で移動した方が速いけど。別に急ぐ旅じゃないし。俺は刺激を求めているだけで。特に目的がある訳じゃないからな。


 旅の途中。夜は馬車を止めて、車体をベッドの代わりにする。

 俺たちは6人だから、見張りは3交代でするけど。馬車で移動するから、昼間も交代で眠ることができる。馬車が揺れて乗り心地は良くないけど。もう慣れたから、結構快適な旅だ。


 夕暮れになって。俺たちは馬車を止めて、野営の準備を始める。

 すると俺たちから1kmほど離れた場所で、騎竜を降りる奴がいる。


 そいつも野営の準備を始めるみたいだけど。


今日も・・・ずっとついて来たし。尾行にしては、あからさま過ぎるよね。

いったい、どういうつもりなんだろう?」


 クリフがそいつを見ながら、訝しそうな顔をする。


「グレイ。そろそろ私が文句を言いに行く」


 レベッカが睨んでいる。だけどレベッカに行かせると、話がややこしくなりそうだからな。


「いや。俺が話をして来るよ」


 俺が近づいて行っても。そいつは何食わぬ顔で。


「それで。ライラ、おまえはどこまで、ついて来るつもりなんだ?」


 憲兵の黒い制服は着ていないけど。ライラがついて来るようになったのは、俺たちが城塞都市トレドを出た初日からだ。


 混じりモノのライラなら、自分で歩いた方が速いだろう。だけど騎竜に乗って、俺たちから一定の距離を空けてついて来る。


 騎竜で走っても、馬車よりも速い筈なのに。俺たちにスピードを合わせて。尾行していることを隠すつもりもないみたいだな。


「ついて来るだと? グレイ、おまえは何を勘違いしている? 私はおまえたちと、たまたま同じ方向に向かっているだけだ」


 何を白々しいことを。どうせシャルロワの指示で、俺を監視しているんだろう。


「じゃあ。偶然ってことで構わないから。同じ方向に向かうなら、一緒に行動しないか?」


 どうせついて来るなら、一緒に行動した方がマシだからな。


「そ、そうか……グレイ、おまえがそう言うなら」


 白々しいことを言いながら、ライラの顔が何故か赤い。いや、そんな顔をされると。俺の方が恥ずかしいんだけど。

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