第31話:次にやること


「なあ。おまえたちから見ると、クリフの実力はどうだよ? 連携は上手く取れているのか?」


 シャルロワの城に行った日の夜。俺とクリフは、いつものようにレベッカたちと夕飯を食べている。


「クリフは強い。私が保証する。力だけじゃなくて、精神的な意味でも」


 レベッカが胸を張る。だけど何で、こいつが偉そうに言うんだよ。


「連携の方も、昨日初めてパーティーを組んだとは思えないな。クリフは周りを良く見ているし。俺たちの動きに合わせて動くから、こっちも指示が出し易い」


「レベッカやギースと違って、私のカバーもしてくれますし。ガゼルも動き易いと思いますよ」


「何だよ、その言い方! それじゃ、まるで俺がレベッカみたいに勝手に突っ込んで行くみたいじゃねえか! まあ、クリフの実力は俺も認めるが。クリフなら直ぐにA級ハンターになれるんじゃねえか」


「いやいや。皆さん、それは言い過ぎですって。僕なんて、まだ駆け出しのハンターですから」


 レベッカたちは、お世辞を言うような奴じゃないし。クリフの実力を本当に認めているんだろう。


 まあ、当然だろう。クリフは元々、真面目で努力家だし。ジャスティアに戦闘技術を教えて貰ったんだからな。


 俺たちがジャスティアの城塞にいた1年間。クリフはジャスティアが時間があるときに、手合わせをして貰っていた。ジャスティアも何だかんだと言って、真面目なクリフが気に入ったんだろう。


 クリフはレベッカたちと魔物を倒して、素材や魔石を結構手に入れたみたいだし。気にしていた当面の生活費も、稼ぐことができただろう。


「クリフ。『野獣の剣』のメンバー全員が、おまえの実力を認めているみたいだし。いっそのこと、おまえも『野獣の剣』に入れて貰ったどうだよ?」


 クリフは俺のことを心配して、ついて来たみたいだけど。俺は1人で生きて行けるから。いつまでもクリフが俺と一緒にいる理由はない。


「グレイ。それ、本気で言っているの? レベッカさんたちに認めて貰ったことは、僕だって嬉しいけど。僕はハンターになりたくて、君について来た訳じゃないから」


 クリフが真剣な顔で言う。どういう理由かは解らないけど。こいつが本気で俺のことを心配しているのは解る。


「いや、それもアリって話で。クリフが決めることだから、おまえの好きにしろよ」


「うん。僕はグレイについて行くって決めているから


「まあ、クリフがその気になったら。俺たち『野獣の剣』は、いつでも君を歓迎するからな」


 ガゼルが綺麗に話を纏める。


「ねえ、グレイ。ハンターズギルドに行ったら、グレイが憲兵の狐女に簀巻すまきにされて。城に連行されたって噂で持ちきりだけど。これって、どういうこと?」


 俺はシャルロワの城であったことを、レベッカたちに話していなかったけど。


 ライラに鞭で縛られた状態で、街中を城まで引っ張られて行ったから。目撃者は相当いた筈で、噂になるのは当然だろう。


「ライラ――あの憲兵の指揮官と、一悶着あってね。だけど誤解が解けた・・・・・・から、何の問題もないよ。もう俺が憲兵や城の連中と関わることは無いだろう」


「ライラって……グレイが、憲兵の狐女を呼び捨てにしている。絶対に何かあった」


 レベッカがジト目で俺を見る。


「だから一悶着あったって言っただろう。大したことじゃないけど」


「むう……グレイは絶対に何か隠している」


 戦闘好きのレベッカは、俺とライラが戦ったと思っているみたいだな。


 確かにライラとも戦ったけど。迷宮都市トレドの支配者で、フェンリルのシャルロワと戦ったことまでは、さすがに想像していないだろう。


「僕はグレイが何をしたのか、何となく想像つくよ」


 クリフが遠い目をする。エリアザード辺境伯領から俺について来たクリフには、俺がやりそうなことが解るんだろう。


「グレイのことだから。大人しくしているとは、思っていなかったが。どうせ、また何かやらかしたんだろうぜ!」


 虎の獣人ギースが呆れた顔をする。こいつに飽きられるほど、俺はダメな奴じゃないと思うけど。


「まあ、グレイが問題ないって言うなら。本当に問題が解決したんだろう。俺はグレイを信じるぜ」


「そうですね。グレイが解放されたことが、その証拠でしょう」


 鹿の獣人ガゼルの言葉に、蛇の獣人シーダが頷く。


 これで一件落着なんて、そんな甘いことは考えていないけど。


 俺の力をシャルロワに理解させて。俺が金を持っていることを、あえて・・・教えたから。

 シャルロワが俺を見逃すつもりがなくても。俺を泳がせた方が得だと考えた筈だ。


「それで。グレイはこれから、どうするつもりなんだ? 『螺旋迷宮』の深層部がダンジョンの回復力で自然治癒するまで、待っているのか?」


「いや。『螺旋迷宮』はラスボスまで倒したから。深淵部がないダンジョンに、もう用はないな」


 俺にとっては、『螺旋迷宮』は物足りない。だけどクリフや『野獣の剣』のメンバーには適正レベルのダンジョンのようだ。だからクリフが『野獣の剣』に入って、ここに残るのもアリだと思ったんだけど。


「だったらグレイは、どこに行くの? 私はグレイが行くところについて行く」


「僕だって、グレイが行くなら一緒に行くよ」


 レベッカとクリフがじっと俺を見る。こいつら、意外と気が合うんじゃないか。


 別のダンジョンに行くって手もあるけど。ダンジョンを攻略することが俺の目的じゃない。

 退屈な生活は御免だから。刺激を求めるには、ダンジョンを攻略するのが手っ取り早いと思ったけど。今の俺にとってダンジョンの深淵部も、そこまで刺激的な場所じゃない。


「犯罪都市ガルブレナって。ゴーダリア王国の中で、ほとんど治外法権みたいな場所なんだよな? 俺はそこに行ってみようと思っている」


 レベッカたちと一緒に行動するようになって。ゴーダリア王国について、俺も多少は詳しくなった。そんな中で俺が興味を懐いたのが、犯罪都市ガルブレナだ。


「おいおい。犯罪都市ガルブレナって……グレイ。おまえは本気で言っているのか? あそこはダンジョン以上の魔窟だぜ」


 ギースが嫌そうな顔をする。ガゼルとシーダも顔を引きつらせる。


「魔窟でも何でも良い。私はグレイについて行くだけ」


 レベッカは相変わらずで。俺について来る気満々だ。


「僕だって勿論、グレイについて行くけど……犯罪都市ガルブレナって、そんなにヤバい所なんですか?」


 クリフは怖気づいたって感じじゃないけど。レベッカみたいに、戦うことしか考えていない訳じゃないから。ギースたちの反応が気になるようだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る