第30話:実力行使
9本の鞭のように伸ばした魔力で、シャルロワは俺を打ちつける。だけど俺は服すらだ。
シャルロワとライラが信じられないモノを見たという顔をする。
「馬鹿な……これは、どういうことだ? 何か仕掛けがあるのか? 幻術? 結界? だが私のに通用する魔法など、たかが混じりモノ風情が……あり得ぬわ!」
「だから混じりモノじゃないって言っているだろう。俺は竜の姿になれない出来損ないの竜人なんだよ」
「仮に貴様が言うことが本当だとしてもだ……『竜化』していない竜人が、私の魔力を受けて無傷などと……あり得る筈がないわ!」
シャルロワはムキになって、魔力の鞭で俺を滅多打ちにする。 だけど幾ら打ちつけても、俺の身体を覆う魔力が全部防いで。俺は服すら無傷で、一歩も動いていない。
「俺は昔から身体が丈夫だし。他の竜人に比べて、魔力が強いからな」
「そういうレベルではないわ! 貴様……舐め腐りおって! 良かろう……私の本当の力を見せてやるわ!」
シャルロワの身体が巨大化する。全身に銀色の毛が生えて、身体を覆って。鋭い牙と爪が伸びる。
体長15mクラスで、9本の尻尾が生えた巨大な狼。これがフェンリルであるシャルロワ本来の姿か。
「シャルロワ閣下、お止めください! シャルロワ様が、そのお姿で力を振るえば、この城を破壊してしまいます!」
「ライラ、黙れ! 巻き込まれて死にたくなければ、貴様は下がっおれ!」
シャルロアは全身から膨大な魔力を放って襲い掛かって来る。フェンリルは巨大な獣としての身体能力以上に、強大な魔力を操る。まさに人外の存在だ。
本気になったシャルロワはパワーもスピードも跳ね上がって。俺を滅多打ちにする。
シャルロワが一撃を放つ度に、床が砕けてクレーターのように陥没する。
さらには氷のブレス。絶対零度の魔力の放射。ブレスは魔力による攻撃だから、竜だけの特権じゃない。
シャルロワが本来の姿で暴れまくったことで。巨体な広間が崩壊して、全て氷漬けになった。
「さすがに……私はやり過ぎたようだな。頭に血が上って、グレイという輩を殺してしまっては、情報を訊きようがないわ」
「いや。俺は生きているけど」
俺は陥没した床の中から出る。
「自分の城塞で、ここまで暴れるとは思わなかったけど。人払いをして正解だったな」
今でも俺は服すら無傷だ。城塞の床より、俺の方が丈夫ってことだな。
「な……貴様は、どうして……」
「おまえより、俺の方が強いってだけの話だよ。まだ続けるなら、こっちも反撃するけど?」
女を殴りたくないから、確認する。
「貴様の方が私よりも強いだと? そんな馬鹿なことが、あり得る筈が……」
「じゃあ、見せてやるよ」
俺が床を殴りつけると。広間の床全体が崩壊して。
シャルロワが作ったクレーターと、氷漬けになったモノ全てを飲み込んで。数10mの深さの巨大な穴ができる。
「螺旋迷宮の最下層の床や天井を殴ったときは、そこまで崩壊すると思わなかったけど。これでも外の奴らを巻き込まないように、俺は力をセーブしているからな」
今、俺はライラを抱き抱えて。空中に立っている。
いきなり床が崩壊して、ライラが逃げ場を失ったから。崩壊に巻き込まれる前に拾ったんだよ。ライラは呆然自失って感じで、大人しくなっているけど。
シャルロワの方は崩壊に巻き込まれて、瓦礫塗れでクレーターの中に落ちている。だけどフェンリルだから大丈夫だろう。
「外の者たちだと……そう言えば、これだけの騒ぎが起きているというのに。何故、兵士たちは誰も駆けつけて来ないのだ?」
シャルロワが思い出したように言う。ほら、大丈夫だっただろう。
「俺がこの広間を包むように結界を発動しているからだ。俺が結界を解くまで、誰も入って来れなし。ここで起きていることは、外には聞こえていない。振動も伝わっていないからな」
俺は大抵の魔法が使えるから。他の奴に邪魔されないように、結界を張ったんだけど。今の状況を考えれば正解だな。
俺は結界を地面を貫くように直方体状に展開しているから。結界の外側にはダメージが通っていない。だから床が崩壊したのは広間の中だけで、外は無事だろう。
「なあ、シャルロワ。おまえも俺の力を理解したと思うけど。まだ続けるのか?」
「グ、グレイ、貴様……だが、我が城を破壊した貴様を……このまま、おめおめと逃がすなど……」
「初めに床を壊したのは、おまえだろう。それとも床じゃなくて、おまえを殴った方が良かったのか? 俺は無理矢理連れて来られて、殴り殺されるところだったんだ。反撃する権利はあるよな」
「そ、そうは言っても……獣人たちに、何と説明をすれば……」
シャルロアも俺に勝てないことが、解っているみたいだな。だったら交渉の余地がある。
「じゃあ、俺に提案があるんだけど。床を破壊したのは、全部シャルロワってことにして。俺を尋問したけど、結局誤解で。俺は只の人間だったってことにしろよ。そうすれば広間の修理代くらい、俺が出してやるから」
「はあ? 床を私が壊したことと、貴様が人間だと言い張ることは可能だろう。だが広間の修理代を貴様が払うだと……どれほどの金が必要か、解っておるのか?」
「一応、俺も元だけどカイスエント帝国の貴族だったし。城を造るのに、どれくらいの金が掛かるのか。解っているつもりだよ」
俺は『
これは螺旋迷宮と、エリアザード辺境伯領にあるダンジョンの魔物から回収した魔石だ。全部深層部の魔物の物だから、これだけあれば広間を造り直しても余裕で足りる筈だ。螺旋迷宮を崩壊させた迷惑料も込みってことで。
他にも俺の『
「これだけの魔石を……貴様を殺そうとした私に、渡すと言うのか?」
「ああ。これ以上、俺のことを詮索しないって条件付きだけど。俺は家を追い出されて、自由に生きたいだけなんだよ。おまえたちの方から関わって来ないなら、俺は何にもしないし。螺旋迷宮の床を崩壊させるような真似は、もう二度としないからな」
「……よかろう。取引成立だ」
シャルロワは再び獣人の姿に化ける。
俺が結界を解除して、広間の両開きの扉を開けると。広間の惨状を見た獣人の兵士たちが騒ぎ出すけど。
「皆の者、静まれ! これは私がやったことだ。何の問題もない!」
シャルロワの一喝で、獣人の兵士たちは静かになる。
その後。シャルロアは約束通りに、俺のことを只の人間だと説明して。全て誤解だと解って、俺は無罪放免ということなったんだけど。
「ところで、グレイ。貴様はいつまで、ライラを抱き抱えておるのだ?」
俺は今、ライラをお姫様抱っこしている。
「ああ、そう言えばそうだったな。降ろすタイミングがなかったのもあるけど。抱き心地が良くて、忘れていたよ」
「な……グ、クレイ。き、貴様は何を言って……」
真っ赤になったライラを床に降ろす。ちょっと残念そうな顔をしているように見えるのは、俺の気のせいか?
「じゃあ、シャルロワ。約束を守れよ」
「ああ。貴様は
これで一件落着――なんて、甘いことは考えていないけど。
とりあえず。今日のところは、問題が片付いたな。
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