第29話:迷宮都市の支配者


 迷宮都市ドータの城の中は、獣人の兵士たちで溢れていた。


 俺が住んでいたエリアザード辺境伯領の城塞には、侍女や使用人など。竜人の身の回りの世話をする少数の人間がいるだけだった。

 だけどゴーダリア王国を支配するフェンリルは、竜人よりも個体数が少ないから。獣人を兵士として使っている。


 城の中はフェンリルが本来の姿である巨体で動き回れるように。部屋や廊下や扉まで、何もかもが巨大サイズで造られていた。

 さすがに獣人の力だと巨大な扉を開けるのは厳しいのか。巨大な扉の脇に、獣人用の普通サイズの扉がある。


 人間の姿の俺が城にいるのが、めずらしいのか。いや、それ以上に、ライラに鞭で縛られたまま連行されているからだろう。獣人の兵士たちが無遠慮な目で、ジロジロ見ている。だけど今さら気にすることじゃないからな。


 ライラに連れられて、俺は巨大な両開きの扉の前に立つ。

 ライラが扉の前の兵士に何か言うと。兵士は獣人用の扉から、慌てて中に駆け込んで行く。


 しばらく待っていると。巨大な両開きの扉が内側から開く。

 10人以上の獣人の兵士が、巨大な歯車を回している。どうやら機械式で、扉を開けたようだな。


「グレイ。ついて来い!」


 ライラに鞭を捕まれた状態で、引っ張られる。


 中は巨大な広間で。扉から奥に向かって赤い絨毯が敷かれている。

 絨毯の左右に立ち並ぶ獣人の兵士たち。これは領主の居城って言うよりも、王宮って感じだな。


 部屋の奥には、豪華な長椅子が置かれていて。その上に、ドレス姿の女が片肘をついて寝そべっている。


 三角耳と銀色の髪。碧色の瞳。九本ある髪と同じ色の尻尾。獣人の姿に化けているけど、こいつが迷宮都市ドータを支配するフェンリルだな。


「シャルロワ閣下。只今、戻りました。伝令で報告しましたが、こやつが例の混じりモノです」


 ライラに引きずられて、シャルロワの前に出る。


「ほう……貴様がグレイという混じりモノか? 貴様の背後で何者で、何を企んでおるか。全部洗いざらい吐いて貰うぞ。吐かなければ、どうなるか……貴様とて、解っておるであろう?」


 シャルロアは、どこまで不遜な態度だ。俺が混じりモノだとしても、微塵でも自分を傷つけられるとは思っていないんだろう。


 個体数が少ないフェンリルという種族は、人外の存在の中でも特に強い。

 カイスエント帝国の竜人でも、成体のフェンリルと1対1で互角に戦える奴は限られるからな。


 だけど洗いざらい吐けと言われても。俺はカイスエント帝国に戻れないから、ゴーダリア王国に来ただけで。どこかの国の諜報員だなんて、こいつらの勝手な思い込みだからな。


「全部正直に話すから、人払いをして貰えないか? 下手に訊かれると不味いこともあるだろう」


 勿論、適当なことを言っただけだ。


「貴様……シャルロワ閣下に対して、その利き方。無礼であろう!」


「ライラ、構わぬ。こやつが喋るなら、私は細かいことは気にせぬ」


 シャルロワの言葉に、ライラが指示をして人払いをする。広間に残ったのは、シャルロワとライラの2人だけだ。


「これで問題ないな? では、グレイとやら。洗いざらい話して貰うぞ」


「ああ、解ったよ。ライラにも話したけど。俺は竜の姿になれない出来損ないの竜人で。家を追い出されたから、ゴーダリア王国に来ただけだ。

 螺旋迷宮を壊したことは謝るけど。あれはもっと下の階層があると思って、隠し扉を探していたら壊してしまっただけで。別に他意はないんだよ」


「何だと、貴様……この期に及んで、まだシラを切るつもりか?」


 ライラが殺意を向けて来る。


「だから最初から言っているだろう。俺は全部正直に話しているし。嘘はついていないからな」


 ライラが鞭に魔力を注いで、俺の身体をキツく締めつける。だけど、そんなことをしても俺には効かないからな。


「なるほどのう……貴様の気位だけは認めてやろう。だが私の前でいつまで、その態度を貫けるか……見モノだのう」


 シャルロワの全身から膨大な魔力が噴き出す。シャルロアは獣人の姿に化けているだけだから、能力はフェンリルのままだ。


 人外の存在の中でも特に強いフェンリルの魔力は、ライラと比べてても明らかに圧倒的だけど。


「魔力が強い奴はカイエエント帝国の竜人にも、たくさんいるからな。そんなモノを見せられても、俺は何とも思わないよ」


「まだ竜人のフリをするつもりか……良かろう」


 シャルロアは起き上がると、俺の方に向かって来る。


「貴様から情報を聞き出す必要があるから、死なない程度に痛めるつもりだが。手元が狂って死んでしまったなら、仕方あるまい!」

 

 シャルロアは魔力を鞭のように伸ばして、俺に打ち付ける。まるで自分の尻尾のように9本の鞭による同時攻撃。

 それだけで俺を縛っていたライラの金属の鞭は、粉々に砕け散るけど。


「だから、シャルロワ。おまえくらい魔力が強い奴は、俺にとっては別にめずらしくないんだって」


 俺は服すら無傷だった。

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