第59話 準々決勝の結末
■王都 闘技場【グローリア・アリーナ】 選手控室
順調に勝ち進んだので、俺は今日最後の試合である準々決勝戦の準備をしていく。
日も沈みかけているので、早く済ませて夕飯を食べに行きたいところだ。
魚料理はおいしいけれど、生を扱っている店にはまだ出会えてないので、開拓していきたい。
「次はゼノヴィアか……」
次の対戦相手をトーナメント表から見て確認すると、ため息をついた。
直接対決することになるとは思わなかったが、これも運という奴だろう。
無意識に足が震えているので、体は緊張しているようだ。
「ジュリアンは妹とだな。妹は私と違って純粋なパワーファイターだから気を付けるのだ」
「え、セリーヌもパワーファイターじゃないか……」
「私は頭脳戦系なのだぞ? スキルを使いこなしているのだ」
えっへんと胸を張り、ぶるるんと巨大な果実が俺の目の前で揺れていた。
周囲の男達もセリーヌの姿に注目せずにはいられないようだ、視線がセリーヌの胸、そしてなんでこいつがという感じで俺に集中してくる。
「はいはい、そうだな……なんにせよ、あの体格でごっつい武器を振り回すタイプなんだろ? 見た感じ防具も鉄系じゃないし武器が戦斧だったから、それくらいか……何とかするか!」
俺は相手の情報を今一度頭に叩き込み直して、立ち上がる。
ちょうどいいタイミングだったのか、案内人が入場するよう声をかけてきた。
「こちとらドラゴンやイフリートとも戦ってきたんだ。アマゾネスの一人くらい、俺一人で何とかしてやらぁ!」
気合いを入れ直した俺は試合会場へと足を進める。
気づけば体の震えはもう止まっていた。
■王都 闘技場【グローリア・アリーナ】 試合会場
夕暮れに赤く染まる試合会場の中央へ足を進めると俺に対して歓声が聞こえるようになった。
試合をいくつか終えたことで人気がちょっとは出たようである。
ちょっとばかし嬉しいのは秘密だ。
「逃げずによく来たな、姉上のように我を下せるとは思わないことだ!」
「そういうの負けフラグっていうんだぞ」
俺は試合開始前から意気揚々と指をさしてきた身長2mでガタイのいい女にツッコミを入れる。
胸もでかいし尻もでかい、読んでいた漫画のキャラクターが気に入りそうなスタイルをしている女だ。
「我をそんな舐めるように見るとは……貴様、そうやって姉上も視姦したのだなっ!?」
顔を赤くして吠え始めるゼノヴィアを見て、初対面の時の威厳がなくなっているなぁと俺は思い始めている。
『両者、準備整いましたね! 試合開始です!』
司会がやり取りを続けては不味いと思ったのか、試合をはじめてくれた。
ゴォォォンというドラの音が響き、俺から先に動く。
鉄製ブーツに磁力をまとわせて一気に加速させる磁力魔法の基本技だ。
瞬時に間合いを詰めたことにゼノヴィアは気づいているのかいないのか、直立不動で立っている。
「そうらよっ!」
俺は自分の加速した勢いをそのままにシールドでの体当たりをかました。
いわゆるシールドバッシュという奴である。
だが、ゼノヴィアは動かなかった。
「アタッカーに見えて、タンクかよっ。くそ、予想が外れた」
受け止められた俺はゼノヴィアに羽交い絞めにされた。
ギリギリと締め付けられて、持っていた盾や剣が地面に転がる。
「ギブアップするならば今のうちだぞ? でないと骨が砕けるかもしれん」
万力の様な締め付けが俺の腕を締め付け、呼吸すらできないほどに腹を圧迫してきた。
「だれが……するか、よっ!」
俺は次の魔法を唱え、俺の周囲の磁界を動かす地面に落ちたはずの剣と盾が浮かび上がり、ゼノヴィアの顔めがけて飛ぶ。
だが、すっと顔を傾けることで避けられた。
「その程度か? 姉上に勝ったのもマグレか、こんな男にどうして姉上は……男娼くらいにしかなりそうもないのに」
俺の方を忌々しいとばかりにゼノヴィアが睨んだ時、ゼノヴィアの目に強い太陽の光が入る。
飛ばしていた剣と盾が太陽光を反射したのだ。
「宮本武蔵に感謝だ! ぬおっりゃっ!」
目がくらみ、ふらつくゼノヴィアの顎を蹴り上げて離れたのちに、心臓を掴むジェスチャーを行う。
心臓に流れる血の勢いを遅らせて、瞬時に心停止状態へとさせた。
一歩間違えば殺人技にもなるんだが、まともに殴りあっても効きそうにないので仕方ない。
『勝者! ジュリアァァァン! シュテルゥゥゥゥン!』
司会者の声が大きく響き、俺は客席に向かって手を振りながら試合会場を後にするのだった。
■酒場兼宿屋【夜の宿木亭】
翌朝、俺は頭痛を感じて目が覚めた。
見知らぬ部屋に大きなベッドの上である。
「いててて……準々決勝で打ち上げと言って飲みすぎたか? 初めて二日酔いを味わっている気分だ」
俺は一度目の人生でも味わってなかった頭痛を感じながらベッドから降りた。
全裸だった。
よく見れば、部屋の床には俺の服とサラシとビキニアーマーが転がっている。
ギギギギと錆びたロボットのように振り返ると、大きなベッドの上には褐色の美女が二人すやすやと気持ちよさそうに寝息を立てていた。
「え、は、えぇぇ!? 俺の初体験、ええぇ!?」
この朝のことは一生忘れられないはずだ。
マンガみたいな過ちを起こしたなんて、過去の俺に行っても信じてくれはしないだろう。
今、それだけは確実に言えると俺は思うのだった。
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