第58話 御前試合のはじまり
■王都 闘技場【グローリア・アリーナ】
なんだかんだで、御前試合の当日が訪れていた。
観覧するための入場口は長蛇の列が作られていて、この催しがとてつもなく楽しみなことを示している。
俺は裏手の選手入場口から入り、中を進んだ。
そんな俺の背後にリサが忍びよってきて、俺の目の前に紙を差し出す。
「ジュリ坊、はいにゃ」
「なんだ……オッズ表一覧?」
「ああ!? それじゃないにゃ! こっちこっちにゃ」
俺はリサから差し出された紙を一度読んだが、別のものだとすぐさま回収された。
この駄猫はまた賭けで儲けようとしているらしい。
大外れして、【ジュリ坊貯金】に手を付けないでほしいものだ。
「ええっと、参戦者情報か……フリードリヒにゼノヴィア、セリーヌが注目株のようだな。まぁ、それぞれ俺よりも有名だからしかたねぇな」
「ジュリ坊も強いって噂はあるけれども、5年前に一回盛り上がってから、それ以降はあまり聞かないってことでガセじゃないかって話になってたにゃ」
「なるほどなぁ……」
俺とリサは歩きながら控室に向かう。
リサは俺のセコンドとして入場を許可されていた。
ちなみにセコンドを決めるのはジャンケンを行い、レイナとエリカは負けて先ほど眺めた長蛇の列に並んでいる。
まぁ、動体視力のいい猫獣人相手にジャンケンで勝負を決めようとしたことが無謀なのだ。
もちろん、そうなるように誘導したリサの口八丁も原因ではある。
Aランク冒険者になってからの5年間で一番成長したのはリサなんじゃないだろうか?
「おうおう、女連れとはいい身分じゃねぇかよ」
「んだよ、俺以外にも女をセコンドで連れて来てるやついるだろ? 俺にだけ喧嘩を売るなよ、オッサン」
いきり散らかして絡んでくるオッサンに対して、俺は正論パンチをかました。
控室にクスクスという笑い声がいくつも沸き上がってくる。
目の前のおっさんのほうは顔を真っ赤にして湯気がでるほどに怒っていた。
「ジュリ坊、このおっちゃんはオッズが高い大穴にゃ」
「だろうなぁ……」
すぐに怒ったりするほどの精神では戦いに向かない。
冷静に対処できることが、戦士としての第一歩だとセリーヌと訓練をしながら教わった。
「ボウズは知らねぇだろうから教えてやろう、オレ様は王都のBランク冒険者で”ヴァルチャー”ガルド・グリフィスだ!」
ハゲタカの通り名を持っている通り、目の前のムキムキマッチョなおっさんの頭は綺麗に剥げている。
武器はもっていないようなので、モンク系のジョブかもしれなかった。
「わかったよ、ハゲ。俺はAランク冒険者のジュリアン・シュテルンだ」
「5年前10歳でAランクになったって噂があったジュリアンかぁ? 10歳でAランクなんてガセだろ? オレ様だって、まだBランクどまりなんだぞ!? ……って、オレ様の名前はハゲじゃねぇ!」
再び起こりだしたガルドのスキンヘッドが真っ赤になっていく。
ハゲタカというよりかは、タコのようだ。
「わかった、わかった。ガルドだな? 試合で当たった時はよろしく頼むぜ」
「オレ様が一撃で終わらせてやる!」
俺はもめ事を起こさないために、おとなしく聞きならガルドと握手を交わす。
ガルドと当たったら、ちょっとはいいところ見させてやらないといけないかな?
■王都 闘技場【グローリア・アリーナ】 試合会場
御前試合の開会の挨拶が、女王陛下よりされると会場が大きく盛り上がった。
そうしている中で、俺は第一試合ということで駆り出される。
貴賓席を見たら、女王陛下がうすく笑った。
気のせいかもしれないが、そうでなければトーナメント第一試合で俺が出ることは何か仕組まれているらしい。
「ハゲチャーはよろしくな。まさかフラグを回収して、やりあうなんてな」
試合開始前の舞台の上で俺は余裕をもって準備運動をする。
俺に対する歓声は知り合い二人だけで、あとはガルドに向けられていた。
「実にアウェーな感じだが、まぁグラディアのエキシビジョンも一緒だったしな」
「予告通り、一撃でおわらせいてやるぜ、ボウズ!」
「一撃ですめばいいな」
俺が盾と剣を構えると、ガルドも構えた。
『それでは、栄えある本年度、春の御前試合、第一試合開始です!』
司会者の合図と共に、ドォォンとドラっぽいものが鳴る。
ガルドが先に動いた。
予想通り、武器類はもっておらず素手で戦うインファイターのようである。
だが、セリーヌよりも、リサよりも接近する速度が遅かった。
「この一撃で終わりだぁぁぁぁぁ!」
「まぁ、飛んでおけよ! マグネティックホームランッ!」
俺は剣を両手で持ち、バットを振るように引いてから叩きつけた。
どんとムキムキマッチョな男の重さが腕に来るが、容赦なく魔法を込めて振りぬく。
できれば、闘技場の外にまで飛ばしたかったがそこまでは飛ばず、闘技場の雨避けの天井部分にあたって客席に落ちた。
『しょ、勝者! ジュリアン・シュテルゥゥゥン!』
司会者の声が響き、勝敗が決すると紙吹雪が試合会場に降り注ぐ。
敗者の呪詛が聞こえてきそうなほどに、大量の紙吹雪だった。
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