第49話 王都の食堂にて

■シーフードパブ『ザ・コースト・パイアー』

 

 商業エリアの中核の賑わっている大通りに商業ギルド職員からオススメされた店はあった。

 シーフードパブであり、昼間から夜にかけて賑わう店のようで、外からでも中の歓談の声が聞こえてくる。

 テラス席からは港が見え、気持ちい潮風を浴びられることだろう。


「いい店じゃないか」

「せやね~。ジュリアンはお金を使う予定があるし、ここはウチに支払いまかしとき!」


 俺はレイナと一緒に店に入ったが、そこには見知った顔が冒険者や船乗り相手に腕相撲をして盛り上がっていた。


「ふははは! 私の勝ちなのだ!」

「はいはーい、次の挑戦者はいるかにゃー? 今なら、ひぃふぅみぃ……5万ゴールドが手にはいるにゃよー」

「聞き手ではない左手でやっているのだから、チャンスはあるのだぞ? それに私もそろそろ疲れてきたのだ」


 ガッツポーズを決めて、ぶるんとビキニアーマーから零れそうな巨大な胸を揺らすセリーヌに船乗りたちを煽って掛け金を受け取っているリサだ。

 脳筋コンビではあるものの、金のことになると意外と知恵が回る二人である。


「なにやってんだよ、あいつら……」

「セリーヌのあの姿をみて一晩どうだという話になり、それから腕相撲で勝ったらということになりまして、今の状態ですわ」


 俺の隣に来たエリカが概要を説明してくれた。

 売られた喧嘩をうまい具合に買ったというわけか……この発想はセリーヌよりもリサだろう。

 5年の間に俺の今の父であるヴィルヘルムに頼んで、商売のことをちゃんと学びだしたのだ。

 世話してきた子達が巣立ったことで、自分のことを見直してきたんだろうか?


「みんな、この5年で変わったなぁ」

「5年ですぐに成長できるのが短命種の特徴ですわね。わたくしのような長命種には5年は短すぎますわ」


 クスクスと笑うエリカはであった頃のように綺麗なままだ。

 あの頃はあまりの綺麗さにはじめは敬語つかっていたなぁ……。


「せっかく、ジュリアンと二人きりで食事の予定やったのに」

「そういうことでしたら、お店は有名店ではなく穴場を聞くべきですわよ。まだまだ経験が足りませんわね」

「う、うるさいわ!」


 ボソっと呟いたレイナにエリカが突っ込みをいれていく、いつもの光景になごむが腹も減っているので早く飯にしたい。


「どうでもいいが、テーブルについて注文しようぜ。腹減ってきた」

「せやな」 

「わたくし達のテーブルは広めに取ってありますので、大丈夫ですわよ。ここに来るような予想はしていましたし」


 エリカに案内されて、一階の窓辺が近いテーブル席にたどり着いた。

 テーブルの上には食べ終えられた皿が山になっており、ロブスターの殻と目が合う。


「ん? さっきの話だとあの二人はあんまり食べてなさそうなんだが……」

「ナ、ナンノコトデショウ」


 俺の突っ込みにエリカが目をそらして片言になった。

 こいつは見た目に反して腹ペコ大食漢なので、頼まれた料理はエリカのお腹の中なのだろう。


「まぁ、いいや。注文し直そう、今日はレイナが奢ってくれるそうだし」

「あらあら、まぁまぁ! それなら遠慮なく頼ませていただきますわ。シーフードサラダとシーフードパイがオススメですわ」

「ちょ、ジュリアン! それはあかん!?」


 俺は席に着きながらウェイトレスを呼んでオススメの料理と酒を頼む。

 明日はデビュタント当日だから、軽く一杯飲むだけでいいだろう。

 騒いでいるレイナは無視した。

 待っていると、すぐに料理が届き、それに合わせてリサとセリーヌもテーブルにやってくる。

 リサも、セリーヌもホクホクの笑顔なので、しっかり金を稼いだんだろう。


「それじゃあ、俺達、エターナルホープの王都での活躍に乾杯!」

「「カンパーイ!」」


 コップをぶつけて酒を煽る。

 この世界でよくあるぬるいエールがのどにしみた。


「で、ジュリ坊は今日はどうしてたのかにゃ? 朝から外にでていったみたいにゃけど」

「そうだな、かいつまんで話すと……」


 俺は朝からあったことをみんなに説明する。

 王女は赤ずきんの女の子とだけにしておいて、親父の家が売られてしまったこと、それを買い取ろうと思っていることを伝えた。

 反対意見がでるかもしれないが、その時はその時だ。

 仲間の意見を無視して自分を通していたら、俺が嫌いなイメージの貴族そのものになっちまう。


「そうですわね。まずは筋を通すところからですわね。明日のデビュタントでちゃんと王族から許可をいただいて、お金を払って家を手に入れましょう。お金ならば、わたくしも出しますわ」

「あちしもジュリ坊貯金を崩して渡すにゃ」

「ジュリ坊貯金ってなんやねん」

「ジュリ坊が困ったときに恩返しのため貯めていたお金にゃ。あちしはまだ、恩を返したと思ってないのにゃ」

「わははは、私も闘技場での稼ぎがあるのだ。全然使っていないので、奴隷として主人に上げるのだ」

「みんな……ありがとう……」


 パーティメンバーのやさしさに、俺の目からは涙があふれて、言葉が出なくなった。

 こんな思いになったことは前世ではない。

 異世界に来て良かったと思うと共に、俺を生んでくれた母や父のために何かをしてあげたいと改めて思った。

 その後、感動してついつい飲みすぎてしまったんだが、その話はまたいずれ……。

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