第48話 ジュリアンの苦難
■商業ギルド
商業ギルドに来た俺は預けていた金について調べてもらいつつも、王都の屋敷の買い取りについて話をしていた。
「管財人に買い取られた家を買いたい場合ってどうしたらいいんだ?」
「そちらは商業エリアよりも王宮側でしょうか? それとも港側でしょうか?」
「貴族街だから、王宮側になるかな……」
「それでしたら、管理をしているのは王家となりますので、王家の方と相談する必要がございますね。謁見の申請をしなければいけないでしょうから、一か月ほど先になるかもしれません。それに貴族の邸宅ですと、相応の爵位も必要になりますね」
「そう、か……」
すぐさま買えると思っていたが、俺の考えが甘かったようだ。
貴族街にあるから高いだけかと思ったが、いろいろややこしいらしい。
「なんや、ジュリアンが商業ギルドに来てるなんて珍しいなぁ」
オーバーオールに耐火ジャケットを羽織り、頭にはゴーグルをのせている幼女が俺に声をかけてくる。
パーティメンバーのレイナだ。赤黒い肌に黄色の瞳がよく映えていた。
「レイナの方こそ、どうしたんだ?」
「ウチはこっちに工房の支店を作るって話になってなぁ、その手続きや。王都での生活が長くなるなら、腕が鈍らんように店を持てとおとーちゃんに言われたんや」
「確かに、パーティのホームを買おうって話にはなってたし。腰を落ち着けるなら、レイナは店があったほうがいいか」
「せやせや、ジュリアンと一緒に冒険も好きやけど……ウチは錬金術によるモノづくりも好きやねん」
にいっと笑ったレイナに俺の心は癒される。
可愛い女の子の笑顔にはすさんだ心を軽くする成分があるんじゃないだろうか……。
「で、ごまかしはええから、ジュリアンはなんでここにおるん?」
「ごまかされないかぁ……」
「ごまかされんなぁ……」
俺らは顔を見合わせてクスッと笑った。
レイナとは男友達を話しているような気楽がある。
そういう部分が魅力でもあった。
「パーティホームについての話でな、めぼしい家があるんだが、貴族の屋敷だから手続きが面倒でなぁ……」
「アリシアの嬢ちゃんからきいとるけどジュリアンも騎士爵とかでもええから貴族になったらええやん」
「あっさり言ってくれるなぁ……」
「せやかて、ジュリアンがここで貴族になってもなーんもかわらんよ。やりたいことの手段に貴族となることがあるなら、なればええやん」
バシバシとお尻を叩いてレイナは笑う。
話していると細かい悩みなんてどうでもないかのように思えてくるから不思議だった。
「わかった。デビュタントの時に女王様とも謁見するだろうから、その時までに考えまとめとく」
「それがええで、ウチも店の手続きしてくるさかい。一緒に店の候補の下見につきおうてくれへん?」
「俺でいいなら付き合うぜ?」
レイナの申し出に俺はさっき世話になったお礼とばかりに答える。
小さくガッツポーズをしたように見えたが、気のせいか?
俺はギルドの待合場所でレイナの手続きを待つことにした。
◇ ◇ ◇
■商業エリア
店の建物を案内してくれる商業ギルドの男性職員の後ろをレイナとジュリアンはついていっていた。
(これは二人きりのデートやね。手を出すのはご法度ゆー契約やけど、手を出さなければ問題ないことは5年間で確認済みや)
レイナにとって、ジュリアンと二人きりでなんかすることはずいぶん久しぶりである。
いや、正確にはエターナルホープ女性陣全員がそう思っているのだ。
その上で、レイナは一人工房で離れて住んでいるので他の3人比べてチャンスが少ない。
工房での仕事は好きなレイナだったが、その分ジュリアンと会うのは依頼の時くらいなのが問題だった。
(悔しい思いをしてたのが、よーやっと払えたとこやね。このまま夕飯も二人きりで……ふふふふ)
「こちらが、候補の一つとなりますがいかがでしょうか?」
若い男のギルド職員がひとつの家の前に止まった。
港湾エリアの方に近く、広い道と繋がっているので、商売するにはいい場所である。
「うーん、貴族街からは遠いんやよねぇ……」
「工房で商売するなら、売り上げ優先じゃねぇのか?」
だが、レイナが気にしているのは商売よりもジュリアンとの距離感だ。
一つ屋根の下で暮らしつつ、仕事をして養うくらいの気概が必要だとレイナは感じている。
手に職をちゃんと持っているのはパーティメンバーではレイナだけなのだ。
「まぁ、ホーム予定の場所からならここは道一本で来られるから、余計な心配はいらないぞ」
「せ、せやなぁ~。それなら一発で決めるのもありやね」
(時間を潰してジュリアンと話をするのがいいか、早めに切り上げて酒場でいっぱいひっかけるのがいいか、悩みどころやね)
しばらく悩んだ結果、この場所で決めて二人は商業ギルド職員オススメの酒場に向かうのだった。
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