第47話 アイゼン家の現状
■クイーンズボード 貴族街
朝早くから昼間まで酒を飲み、いい気分になって貴族街を歩く。
ローレライ邸へと足を向けていると、見知った人物に俺は出会った。
ここにいるとは思わず、また懐かしい存在……母のカトリーヌ・アイゼンである。
「母さん……そうか、ここがアイゼン家の王都での邸宅だったのか……」
屋敷の入口をみると売家の看板が下りるところだった。
母親は看板をかけた管財人に頭を下げると俺の方へ近づいてくる。
服装はだいぶ落ち着いたものになっているが、10年たっても美しさは変わらなかった。
「久しぶりね、ジュリアン。あなたとは合わないでおきたかったのだけれど……見つかってしまったわね」
疲れた顔で薄く微笑み、カトリーヌは俺に軽くハグをする。
俺もハグを返したが、10年ぶりにあった母は折れそうなほどに細くなっていた。
離れた俺達は歩きながら話を続ける。
「さっきのは管財人ってことは……家は大変なのか?」
「あなたに隠しても仕方ないわね。ええ、そうよ。フレデリックが今はアーク・ルーイン島に収容されていて、魔法学園も退学。宮廷魔導士の話もなくなりアイゼン家は大変な状況よ。あの人は自暴自棄になってしまっているので私がいろいろ動いているわ」
「アーク・ルーイン島、この国最大の凶悪魔法犯罪者のための収容施設か……イーヴェリヒトのダンジョン問題の次に炎魔神の事件もあったから仕方ないか……」
「ええ、それでも生きているのならば救いがあるわ。アイゼン家としては断絶になるでしょうね」
「断絶まではやりすぎなんじゃないか?」
「アイゼン家は王族の遠縁なのよ。火魔法の使い手が多くでてきたのはそれもあってのことよ。今回のことで遠縁であることを隠すために断絶までもっていくでしょう。処刑まではされないでしょうけど……」
母の淡々としたものいいが全てを受け入れた様子に俺は言葉を失う。
貴族について考えさせられることあった後で、こんな話を聞いたら酔いも冷めたしまった。
「母さんはこれからどうするんだ?」
「私は実家の方へ戻ることになるわ。あの人も好きにしろといってくださったしね」
「親父がか……母さん、貴族ってなんだ? なっていいことがあるとは思えないし、責任だけあって大変じゃないか?」
俺は母に今朝から感じていたことを率直に尋ねる。
元が平民だった俺に、貴族の価値観や重要性というのはわからなかった。
嫌な貴族にあったばかりだから、特にそう思う。
「”|貴族たるもの、身分にふさわしい振る舞いをしなければならぬ《ノブレスオブリージュ》”のことね。身分があがれば責任を持つのは当然よ。領地を守り、民を守り、雇用を生み出していくのが貴族なのだから」
「人々を守るってことだけなら冒険者だっていっしょじゃないか?」
「冒険者も、貴族もやることは変わらないかもしれない……けれど、魔法を使える貴族だからこそ、その力を無闇に使ってはいけないのよ。あなたはわかっているようね」
微笑みを浮かべる母がさしているのはフレデリックのことだろう。
「貴族として、爵位を受け取ることは人々に対して、自らの血をかけて盾や剣となることを示すことなのよ。あなたも冒険者としての生き方だけでなく、貴族としての生き方を今回のデビュタントで感じてくれたらうれしいわ」
「ありがとう、母さん」
俺達は馬車の停留所までやってきていた。
ここから馬車に乗り、母は地方の実家へ帰るのだろう。
「しばらくはお別れね。冒険者として活動していくなら、たくさんの世界を見て回りなさい。学校にいって学ぶよりも、もっともっと大切なことを学べるはずよ」
「わかった。ありがとう、母さん。あと少ないけど、これ路銀として持って行ってくれ。親孝行たいしてできていなかったからさ」
腰のあたりに縛りつけてある革袋の一つを取り出して母さんに渡した。
ずっしりと重い革袋に母さんは驚く。
「こんなにいいの?」
「ああ、これでもAランク冒険者だぜ?」
「ありがとう、うれしいわ」
涙を指で拭った母は今日一番の微笑みを浮かべて、別れを告げた。
俺はアイゼンの王都屋敷の方を見る。
ちょうど、パーティのホームを探していたところだったのだ。
「これも親孝行の一つになるかな……」
酔いの覚めた俺はローレライ邸よりも先に商業エリアで預けている資金の引き出しと、屋敷の買い付けに動くことを決める。
「”|貴族たるもの、身分にふさわしい振る舞いをしなければならぬ《ノブレスオブリージュ》”か、貴族でなかったとしても資金のあるものとして身分にふさわしい振る舞いをするのが当然だな」
さっきまで重かった足取りが軽くなっていた。
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