第43話 デビュタント

■ローレライ邸 応接室


 シャンデリアの下がっている部屋に入る。

 きょろきょろと眺めたくはなるが、田舎臭いので俺は我慢した。


「やぁ、ジュリアン君。久しぶりだね」

「10年以上ぶりでしょうか、お久しぶりです。ローレライ公爵様」


 俺はお辞儀する時に右足を引く動作をして挨拶をする。

 貴族に対しての正式な挨拶で、イーヴェリヒトを発つ前にミツキからしっかり指導を受けていた。


「立派になったものだね、今ではAランク冒険者だったかな?」

「お嬢様のお力添えもありまして、イフリートを退治できましたからですね」


 目の前にいる恰幅のいい男は王国の魔導具を開発、管理する立場にあるロバート・ローレライ公爵である。

 アリシアの父親だが、似ていない。

 母親の血筋が濃いのだろうと俺は思っていた。

 ただ、以前にあった時よりも顔には疲労の色が濃く、ようやく持ち直したがフレデリックが起こした騒動が大変だったことを物語っている。


「そうだね……あれから5年たったおかげで、なんとか当家も持ち直せたよ」


 貴族でありながらも、俺に対しては比較的気軽な口調で話してくれるのは以前からの繋がりからだろう。

 血のつながった弟——フレデリック——の起こした魔導具盗難事件があったにも関わらずに優しく接してくれるのはありがたかった。


「それで、お嬢様のデビュタントのエスコートを私に頼まれたということですが、よろしいのでしょうか? 格としてふさわしいかいささか不安に思います」

「ジュリ坊が変なしゃべりしてるにゃ」

「しー、ですわ。レイナも笑いをこらえないでくださいまし」


 俺が丁寧な口調で公爵と話をしていると、風呂から上がってきた女性陣がヒソヒソと喋り始めている。

 似合わないのはわかっているので、ちょっと黙っていて欲しい。


「公爵家とはいえ、先ほども言った通り5年前のことが尾を引いていてね。なかなか受け入れてくれなかったのだよ。なので、娘の進言もあったので君を呼ばせてもらったという訳だ」

「かしこまりました。そういうことでありましたら、精一杯務めさせていただきます。明後日の夜でお間違えないですか?」

「ああ、王宮で行われるので馬車で行ってほしい。今同行しているお嬢さん方にはデビュタントの参加はできないので、この家で待ってもらうことになるよ。もちろん、街の方へ出て行って観光を楽しんでくれてもいいさ」

「それならば、美味しいご飯のあるところへ行きたいところですわね」

「ウチは鍛冶屋街あたりを見てみたいなぁ」

「あちしはゴロゴロするかにゃ」

「私も基本ゴロゴロしておくのだ」


 公爵の提案に各々が意見を出し合って、今後の計画を立てている。

 俺も混ざって王都を楽しみたいんだが、アリシアのエスコートが最優先だからしかたないな。


「ああ、今年のデビュタントは女王様以外にも第二王女のレティシア様もご参加なされるようだ。王宮の警備はかなり厳重になるので安心して二人で参加してきなさい」

(アニメや漫画の展開だと、大体何かあるパターンだよな。情報収集しておくか……)

「かしこまりました。では、今夜はゆっくり休ませてもらい、明日以降は王都の観光と儀礼用の衣服を整えておきます」

「そうだね。難しい話はこれくらいにして、食堂で会食といこうか。ジュリアン君も飲める年だから、酒の味を知っておくいい機会だよ」

「お父様! 無理に飲ませないでくださいよ」


 アリシアに注意されると肩をすくめる公爵は愛嬌があった。


(俺の親父とは違うな……アイゼン家については……今は聞かない方がいいか、こっちも併せて街で調べるとしよう)


 心のメモに調査項目を残した俺は、会食を楽しむべく一緒に食堂へ向かうのだった。

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