第42話 淑女協定の終わり
■王都クイーンズボート ローレライ公爵邸
俺達が馬車で入ったそこは、別世界だった。
10年前に魔法都市ルミナエアのアリシアの屋敷で誕生日会をしたんだが、その屋敷よりも広い。
庭に噴水があり、薔薇園や温室なんかも見える。
「これでも宮廷じゃないんだよなぁ……」
「金目のものがいっぱいありそうな場所にゃ」
「盗んでも、俺は助けないぞ。絶対にだ」
「ジュリ坊のいーけーずー」
背後からリサが抱き着いてきて、たわわな胸を背中に押し付けてきた。
昔は頭に胸が当たっていたんだが、俺も背が伸びて成長したってことだろう。
「そのジュリ坊ってのもやめてくれよ。俺15だぞ? 王国の法律じゃ、結婚もできる年齢になったんだぞ?」
「ジュリ坊はジュリ坊にゃよー、ウリウリ~」
「リサはジュリアンにべったりでずるいのだ! 私もウリウリするのだ!」
「セレーヌは手加減できないから、やらせねぇよ!」
俺達が騒いでいると、アリシアが姿を見せた。
長かったプラチナブロンドの髪をショートにまとめて、動きやすいドレス姿である。
胸は昔からあまり成長していないが、美人にはなったな。
口にだしたら、怒られるのでいわないけどっ!
「アリシア、綺麗になったな……ああ、もうちょっとちゃんとしたほうがいいか?」
「あなたと私の仲だもの、遠慮はいいわよ。今からじゃ、肩凝るでしょ?」
「助かる。礼儀作法ができないメンツの相手ばかりしているとな……」
「誰のことかにゃー?」
「誰のことなのだー?」
仲良く首をかしげる二人を俺はじとーとした目で見るが、気づかないようだ。
あえて無視している……んな訳ないか。
「ジュリアン、長旅で疲れたでしょ? 先にお風呂入ってきて着替えてね。お父様も含めて話をするのにちょっと匂うのは困るわ」
「へいへい、そうさせてもらいますよ。こいつらは?」
「彼女たちは私と一緒に大きなお風呂へいくのよ。ほら、いったいった」
アリシアにケツを叩かれた俺はその場を離れて、一人用の小さなバスルームへと案内された。
■ローレライ邸 屋外大浴場
綺麗な庭を眺められる大浴場に案内された女性陣は体を洗ってから湯舟につかる。
アリシアが
「さて、【淑女協定】についての話です」
「そうなりますわよね。確か5年前のお話では、アリシアさんの誕生日をもって協定に関する〈契約魔法〉が解除される運びだったはずですわね」
アリシアがお風呂に入っている4人に向かって、話はじめるとエリカが内容を確認してくる。
淑女協定と呼ばれているものは、5年前の女子会の際に、セリーヌが体で迫るなどといったことから、ジュリアンが15歳になるまでは手を出さないという話になったのだ。
それの解除はアリシアが15歳になった時となっている。
「長かったのだ。今日から解放ということであれば、私が一番ノリでいただくのだ! この5年間でジュリアンは強く、立派になったからよいこが産めるのだ」
「ぎゃーぎゃー騒ぐなや、ほんま契約魔法うちら全員やなくて、コイツだけでよかったんやないの?」
「それじゃあ、私が困る、し……」
「さりげなーく、今回のエスコートを餌にイイ感じになろうとしてるニャね。昔の女は黙っているニャ」
「辛辣!? リサさんてジュリアンを子供みたいに可愛がっていたから、関係ないと思っていたのに……」
「リサはジュリアンにスラムから救われて、下の妹弟たちを働き手に出させてくれたからジュリアンに恩義を感じているんですのよ」
「エリカー! それは秘密ニャ!」
女3人寄ればかしましいと言われているが、5人集まれば騒がしかった。
珍しく顔を真っ赤にしてエリカをポカポカしているリサを眺める皆の視線は温かい。
「おほん、というわけですので。淑女協定の解除はデビュタントの後とさせていただきます」
「異議なしや」
「むー、まだお預けなのだ……どこかで発散するしかないのだ」
「な、な、な、破廉恥ですわ!」
「むぅ? 私は野良試合かモンスター狩りをするつもりだったのだ。どこが破廉恥なのだ?」
自分の言った言葉が何を勘違いさせたのかわからないセリーヌが首をかしげていると、エリカがゆでだこのようになってぶくぶくと湯舟に沈んだ。
「エリカはむっつりやもんな。仕方ないやんな。ウチはわかっとるさかい、安心しぃや」
「では、本日はここで解散ですね。デビュタントとその後まで1~2週間くらいになりますが、屋敷でゆっくり過ごしてください」
ジュリアンにかかわる淑女たちの打ち合わせは無事終わった。
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