第二部 ジュリアン 15歳
第41話 いざ王都へ
■オーストリオン王国の街道
「お、王都クイーンズボードが見えてきたぞ」
鉱山都市イーヴェリヒトから馬車に揺られて10日間の旅も終わりが見えてきた。
海が見えない内陸の地から5日ほどたったあたりから海の近くを走っているためか、潮風が漂いはじめている。
俺の名前はジュリアン・シュテルン。
今年で15歳になる冒険者だ。
「海もだいぶ見飽きたところだったニャ」
「全くなのだ。モンスターと戦っていたから暇つぶしはなったのだな」
俺の正面に座っているのは袖の短いジャケットにハーフパンツを装備している猫獣人のリサと、ビキニアーマーをつけている褐色肌のアマゾネス、セリーヌだ。
脳筋ツインズとこの二人を俺は呼んでいる。
「新鮮な魚はイーヴェリヒトじゃ食えなかったからなぁ、モンスター魚でも十分美味かった」
俺は道中に立ち寄った街で食べた魚料理や、その街で受けたクエストの最中に倒した魚を調理して食べたことを思い出す。
「旅は美味しいものを食べられるのが一番ですわ」
「あんさんは食いすぎやと思うけど、なんで細いねん、どこに食べたものがはいってるんや」
もぐもぐと袋に入ったナッツを食べている皮鎧を着たエルフはエリカで、特殊な訛で喋るオーバーオールの小柄な幼女はドワーフのレイナだ。
二人はこのパーティでは上から数えたほうが早い大人組である。
見た目は正反対何だけどな……異世界はすごいぜ。
「胸にいってないのは確かなのだな」
「余計なことはおっしゃらないでくださいな!」
セリーヌの空気を読まない弄りにエリカが顔を真赤にして抵抗するのが俺等のパーティ【エターナルホープ】の日常風景である。
俺が10歳のときに結成した冒険パーティで1年と立たずにAランクまでいったイーヴェリヒトでは有名なパーティだ。
なんで、そんなに早く上がれたのかというと……異世界転生者であることが大きい。
「旦那方、デビューの群れが来てますぜ!」
「わかった、対処するからそのまま走っていてくれ」
俺は御者に告げると馬車ドアを開けて身を乗り出す。
流れる風に砂がまじり顔を叩くので、目を細めるが黒い鳥型モンスター――デビュー――が走ってきているのが見えた。
「レイナ、小型鉄球をたくさん作ってくれ」
「はいな!
馬車の中にいるレイナへ声をかけると、レイナはパチンコ玉サイズの鉄球を両手いっぱいに作りだす。
「名付けて、
レイナが馬車の外へ投げ捨てた鉄球たちに磁力を通して、飛ばす。
磁力が通り、加速した鉄球がものすごい勢いでデビューの群れに当たる。
「グギャァ!?」
突然の攻撃に驚きながらも、体中に鉄球をめり込ませた最前列が勢いよく倒れ、ドミノ倒しのように群れが崩壊していった。
俺が使えるのはこの磁力魔法だ。
磁力という概念がなかった異世界で、地球の工業高校で学んでいた俺の知識が生かされた結果である。
この磁力魔法を使いこなしてきたことで、俺はいろんな強敵を倒してきたのだ。
「しっかし、5年経ってから”あの約束”を持ち出して呼び出されるとは思わなかったぜ」
脅威が去ったことを確認した俺は馬車の中に戻り、懐からスクロールを取り出す。
それは幼馴染で元婚約者であるアリシア・ローレライからの手紙だ。
” ジュリアン・シュテルンへ。
お久しぶりね。
一緒にイフリートと戦ってから5年が経つなんて早いものね。
今日はあなたに5年前の約束を果たしてもらおうと手紙を書いているわ。
15歳の誕生日を迎えた私は王都で行われるデビュタントに参加するの。
その時のエスコート役をあなたに頼みたいのよ。
魔法学院の同級生だと、エスコートを頼んだらそのまま婚約まで進みそうだし、
何より久しぶりに、ジュリアンに会いたいと思ったのよ。
じゃあ、王都にあるローレライ邸で待っているわ。
あなたの冒険者パーティもつれて来て、王都が気に入れば活動拠点を移すのもありよ。
Sランクになるための依頼なんて、地方じゃなかなか見ないからね。
あなたの10年来のファン アリシア・ローレライより”
「10年来のファンやってー」
「隅に置けないですわねぇ」
「別にアリシアとはそんなんじゃねぇよ……」
レイナとエリカが茶化してくるが本当にそんなんではない。
俺の中でアリシアは少し誕生日が早かったからと妙にお姉さんぶるところのある幼馴染だ。
「旦那、王都の関所に入りますぜ」
「ああ、じゃあ全員降りる準備だ。せっかくの王都だし、楽しんで行こうぜ!」
「「「おー!」」」
頼りになる仲間とともに、俺の新しい冒険が始まる……。
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