第33話 本気の兄弟喧嘩

■焔の神殿 ダンジョン部 焔の祭壇

 

 ダンジョンの最深部である、焔の祭壇に俺達はたどり着いた。

 目の前には巨大な胎児のポーズをとっている人型の像。

 その像には何かの金属製の鎖が幾重にも縛り付けられており、封印されていることがすぐにわかった。

 巨大な像の足元のに近づく、魔法学院のローブの人影を見た俺は大声で叫ぶ。


「フレデリック! やめるんだ! やるなら、俺と直接戦え!」


 俺の直感が封印を解いてはいけないと訴えていた。

 アニメや漫画でよく見るシーンすぎて、実感がわかない。

 だが、目の前の行動を放っておけばどうなるのかは予想できた。


「クソ兄貴か……足止めもできないなんて、あいつらも使えないな」


 一度振り向き、俺を見て鼻で笑ったあと、フレデリックは像に近づくのをやめない。

 俺はフレデリックの言葉にカチンときた。

 セレナももう一人の男も、フレデリックを信じてここまでついてきた奴らだ。

 フレデリックがスタンピードを起こした犯人だと知っていてもついて来てくれた大切な存在ではないのか?

 俺は今、隣にいるエリカをはじめ、レイナ、リサ、セレーヌと支えてくれる仲間がいたから強くなれた。

 どんな敵を前にしても諦めることなく戦えた。

 あいつらはフレデリックにとって、そうじゃなかったのか?

 異世界に来て、本気の怒り抱いたことのない俺の中の怒りが、マグマのように熱を持って吹き出した。


「ざっけんな! 貴族様ってのはみんなそうなのか知らないけどなぁ、人は道具じゃないんだよ!」

「貴族というのが何たるかを学ばなかったクソ兄貴にはわからないことだな! 使えるものは何でも使えるのが貴族の特権なんだ! 婚約者だろうとな!」

「てめぇ! アリシアにも何かしたっていうのか!」

「ああ、少し利用させてもらった……この【炎魔神の心臓】を手に入れるためにな!」


 フレデリックが懐からまがまがしい石のようなものを取り出し、掲げる。

 【炎魔神の心臓】が光だし、ゴゴゴゴと部屋全体が揺れ巨大な像を縛る鎖にひびが入っていくのが見えた。


「エリカ! 奴の手からあのアイテムを奪うぞ!」

「わかりましたわ!」


 俺は投げナイフをフレデリックに向けて投げ、磁力で加速させる。

 

  〈磁力魔法:加速〉マグネス:アクセラ


 銃弾のような速度で飛んで行ったナイフ達はフレデリックに触れることなくした。

 高熱状のバリアでも貼っているのか……今ので、俺の攻撃の大半が役立ずになる証明がなされる。

 火系の敵とは相性が悪い……。


「クソ兄貴の魔法なんか古戦場で見ていたからな、対策はとっているさ。だが、俺はただ兄貴を倒すだけじゃ、納得できないところまで来てるんだよ!」


〈灼熱魔法:爆炎〉バーニング:エクスプロージョン


 フレデリックのかざした手から光が一瞬走ったかと思うと、俺の足元に高熱原体が生まれた。

 俺はすぐにその場から離れるように自分のブーツを加速させる。


〈磁力魔法:加速〉マグネス:アクセラ


「私を無視しないでくださいませ!」


〈精霊魔法:水流弾〉エレメス:アクアバレット


 エリカがウンディーネに命令をしてフレデリックに水の弾丸と飛ばした。

 だが、フレデリックの目の前で水は蒸発していく。

 あいつの魔力量は100万といっていたが、その力を惜しみなく使っているからこそできる芸当だ。


「俺ら二人でも、キツイなんてな……ハァ……ハァ……」

 

 熱がこもっている中のためか、消耗魔力が激しかった。

 コントロールもしづらいし、疲労もその分大きい。

 長期戦は明らかに不利だ。

 フレデリックの手に持つ【炎魔神の心臓】の輝きが増し、封印しているはずの鎖にひびが多数入っていった。

 砕けるまで時間がなさそうだ。

 

「エリカ、ウンディーネに魔力を全力で渡してでかいのを頼む! 俺はあの鎖を磁力魔法でとどめてみる!」


〈磁力魔法:引力〉マグネス:グラビティ


 ひびが入り砕けそうになる鎖たちを俺は磁石同士のくっつきあう力でもって抑え込む。

 ゴリゴリと魔力が削られていくのがわかり、気を失わないよう集中するのが精いっぱいだ。


「エリカ! は……はや、く!」

「クソ兄貴が! 往生際が悪いぞ!」

「往生際が悪いのはあなたの方ですわ。ジュリアンさんはあなたが幸せになるのを願っているのに、どうしてこんなことを!」

「俺の幸せを願うのであれば、消えてくれよ! クソ兄貴!」


 フレデリックは【炎魔神の心臓】へ魔力供給を行って封印の解除を早めようとする。

 エリカは言葉での応酬は意味がないと悟って、ウンディーネに自分の魔力を渡した最大級の力の行使を行った。


「ウンディーネ! 私の魔力を持って、道を切り開いて!」


〈精霊魔法:海洋波〉エレメス:タイダルウェイブ


 炎の祭壇のある空間全てを包み込むような大きな津波が起きる。

 フレデリックも、ジュリアンも、エリカも、イフリートも全てが波に飲み込まれた……。

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