第32話 想いぶつかり

■焔の神殿 ダンジョン部 鍛冶神の試練の間

 敵の姿が見えない中、風の刃がいくつも飛んできて俺達全員を襲った。

 どこから飛んでくるか、わからない攻撃に俺達は互いに背を向けて集まる。

 背後を狙われないようにすることで精いっぱいだ。


「姿が見えないのは何かの魔法なのか? 位置がわかれば……そうだ!」


 俺は位置を探る方法を思いだして、目を閉じ集中する。


〈磁力魔法:磁界探知〉マグネス:マグネディテクト

 

 ごっそりと魔力を失う感覚を得ながらも、見えない敵が持つ小さな金属を磁力で捕らえた。

 人間であれば、誰しも持っている鉄成分……血である。


「あいつら、魔法で隠れていたな……地味だが、こんな攻撃は想定外だろ!」


 磁力魔法:血流操作マグネス:ブラッドコントロール

 

 二人の血の流れを一瞬、止めて魔法への集中力を途切れさせた。

 金属さえあれば、俺の磁力魔法は活躍できる。

 どんな小さな金属でも、今の俺なら操れるのだ。


 幻影魔法で隠れていた二人が姿を見せる。


「よし、このまま止めを!」

「いや、ジュリ坊とエリカは先にいくにゃ!」


 リサが戦いを続けようとした俺の背中を押して、フレデリックが進んだ先を手に持ったナイフでしめした。

 俺が戸惑っていると、エリカがついてきて俺の背中を押し続ける。


「優先順位を勘違いしないでくださいな、フレデリックを止めることが最優先ですわ」

「そうだったな……いくぞ、エリカ!」


 俺とエリカだけなのは火魔法を使うフレデリックへの対策重視だ。

 エリカがいなくなったことで、ダンジョンの熱さをもろに受けるが、それでも俺達を送ろうとしてくれる仲間に感謝しかない。

 その想いをいい結果で答えるために俺はエリカの手を掴んで、全力で走りだした。


  〈磁力魔法:加速〉マグネス:アクセラ


◇ ◇ ◇


「さて、あちしたちも決着をつけていくにゃ」


 ジュリ坊とエリカの背中を見送ったあちしは両手のナイフを構えたにゃ。

 こんなダンジョンで直接お金にならないことで真剣になっていることを昔のあちしに伝えたらどう反応するのかにゃ?

 数か月前に裏路地でジュリ坊に出会ってから毎日が楽しかったにゃ。

 美味しいご飯も食べられて、お金ももらえて、妹たちと一緒に暮らせて……。

 幸せな時間が続くほどに、ジュリ坊を失っちゃいけないという気持ちになってきたにゃ。

 恋とか愛とかはよくわかんにゃいけど、妹たちと同じくらい大切な存在になってきたのは事実。


「エンチャントがなくても、対人ならばいけるにゃ!」

「うむ、その通りなのだ」


 セリーヌがあちしと共にふらついている二人に迫るにゃ、殺さなくても気絶させて縛り上げられればジュリ坊を追いかけられるのにゃ。

 しっかし、セリーヌの胸はあちしより大きくて、弾んでいるので目が向くのにゃ。

 ジュリ坊も前はあちしの胸を見ていたけど、今ではセリーヌのほうが多くて、こう……モヤモヤするにゃ!


「セレナ、危ない!」


 あちしたちの攻撃はそれぞれを狙っていたんにゃけど、男の方が女を庇ったにゃ。

 男の肩口がナイフで斬れて、血がにじみ出たにゃ。

 そこへ、セリーヌの拳が叩き込まれて男はセレナを抱きしめながら地面に転がったにゃ。

 こいつ、貴族の癖に根性あるのにゃ。

 貴族なんて、あちしたち平民を蔑んで、弄って遊ぶいけ好かない奴らにゃのに……。


「カスパー、あなたは無茶をしすぎですわ。ここはわたくしに任せて、フレデリック様の援護に……」

「……かよ」

「え?」

「女を見捨てて、いけるかよ! このカスパー・リヒテンベルク。淑女を見捨てるほど落ちぶれた貴族ではない!」

 

 傷つきながらも立ち上がるカスパーにセリーヌは上機嫌になったにゃ。


「男はそうでなくてはならないのだ。では、その勇気を称して、一撃で決めてやるのだ」


 セリーヌが一歩進み、グッと腕に力を込めたにゃ。


〈強化降霊:大猩猩〉シャーマニックブースト:ゴリラ


 セリーヌの纏った闘気にカスパーは足を震わせながら、魔法を唱えてるにゃ。

 この間にセレナの方を何とかしたいと思うのにゃけども、見守る方がいいのにゃ。


〈風魔法:風力弾〉ヴェントス:エアバレット


 ゆっくりと歩を進めるカスパーがセリーヌに向けて、風をまとめて固めた魔法を放つが、セリーヌは気にせず進んだにゃ。

 全身で魔法を受け止めてから、セリーヌはカスパーのお腹に向けて鋭い拳を放ったにゃ。

 拳を受けた衝撃でくの字に折れ曲がったカスパーは口から唾を吐いてから気を失ったにゃ。

 

「まずは一人確保なのだ……お前はどうするのだ?」

「わたくしだって、貴族としての誇りがっ!」

「はいは~い、そんなこと言わないで眠っておくんやで~」

 

 セレナが何か言おうとしたときに、静かだったレイナが出てきてセレナにポーションを飲ませたにゃ。

 あまり見ない色のポーションだったから、回復系ポーションでないのは確かにゃ。

 驚いた顔でポーションを飲まされたセレナはビクンとはねたかと思うとすぅすぅと寝息を立てて眠ったのにゃ。


「睡眠薬ポーションも作っていたのにゃね」

「まぁ、いろんなケースに対応するためやなぁ……スタンピードの時はあまり役に立てへんかったから」

 

 レイナははにかんだ笑顔をして、答えたにゃ。

 彼女もきっと、ジュリ坊のことを考えているに違いにゃい。

 女の勘なのにゃ!


「この二人は一応縛っておいて、連れていくにゃ?」

「ここにおいていって、モンスターに襲われたら大変なのだ」


 二人を両手で担ぎ上げたセリーヌはジュリ坊たちが向かった方に顔を向けたにゃ。

 

「追いかけるのだ」

「「了解」」


 ジュリ坊、無事でいるんにゃよ?

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