第10話 永遠の希望を胸に……

■激流の中


 俺は水中に引きずり込まれ、激流の中にいた。

 気づいたときには水中深くまで引きずりこまれており、上を見ると水面が揺らいでいる。

 水中で動こうとするが、縛られているようで動けず、息を止めるのもつらくなってきた。


(俺はここで死ぬのか?)


 そんな気持ちが沸き上がってくる。

 アイアンゴーレムに対して調子に乗っていたが、今の俺は10歳の体であり弱いことを改めて感じた。

 学校の実験中に死んだと思ったら異世界に来て、5歳の時に貴族の家から追放された俺の人生はここまでなのか?


――嫌だ!――


 夢を持ってないまま死ぬなんて嫌だ。

 前世だって童貞のままだったし、異世界に来たんだからハーレムだって目指したい。

 俺つえーだってやりたい。


――そうだ、俺は! もっと、この世界を楽しみたい!――


 俺の心の奥に眠っていた本音が溢れてきた。

 それとともに、魔力の高まりを感じる。


 俺が8と言われた理由……それは……。


(仮説だが、ほぼ確定だろう。俺の本当の魔力は無限大だ! ありったけの魔力を使って磁力範囲を拡大! ぶっ倒れようが関係ない! 死ぬよりましだ!)


――俺は生きる!――


 薄れゆく意識の中で水の底に鉄鉱石の反応をとらえた。

 俺を食い殺そうと、巨大な魚が迫ってくる。

 

〈磁力魔法:斥力〉マグネス:リパルション


 水の底の鉄鉱石と俺のブーツの間に斥力を発生させた。

 ギュンと体が水中を突き進み、水面へと向かう。

 水による縛り付けも振りほどき、水面から飛び出した俺は岸へと転がった。


「ゲホッ、グホッ……カハッ!」


 地面に転がった痛みを感じるとともに飲み込んでいた水を吐き出す。

 濡れた服が肌に張り付けて気持ち悪いが、戦闘が終わったわけではないので油断はできなかった。


「ジュリ坊はゆっくり休むにゃ、あとはおねーさんたちに任せるにゃ」


 リサが俺の背中をさすりながら言うと、エリカとレイナが頷く。


「頼ん…だ」


 その一言だけをつぶやくと俺は意識を失った。


■地底湖エリア 川岸

「敵は邪悪なる水の精霊ルサールカですわね。物理攻撃はたいして効果がないですわ」

「あちしかっこよく決めたのに出番ないのにゃ!?」

 

 わたくしの言葉にリサさんはガーンとわかりやすいリアクションをしています。

 活躍したいと思うのはわたくしも、おそらくレイナさんも一緒でしょう。


 ジュリアンは子供ながらに達観していて、自分がみんなを引っ張らないとと気を張っていました。

 冒険者としての経験は確かにないですが、一番の年上であるわたくしをもっと頼っていただきたいものですわ。

  

「クォォォォッ!」


 水の精霊ルサールカが水で女性のような形をとり、髪の毛を触手のように伸ばして倒れているジュリアンさんを狙っていきます。


「ウンディーネ! 精霊の格の違いを見せるときですわ!」


〈精霊魔法:水の刃〉エレメス:ウォーターエッジ


 同じ水の精霊でも上位となるウンディーネを呼び出し、水の刃で触手を切っていきますわ。

 切られたことで勢いがなくなったところをジュリアンさんをリサさんが抱きかかえて川から離れていきました。

 ジュリアンさんが狙いであるならば、正解ですわ。


「姿を見せたのであれば、これが効くはずや、そーれっ!」


 何かの瓶をレイナさんがルサールカに向かって投げつけました。

 ルサールカは振り払おうと髪の毛で瓶を割るとジャイアントスラッグの粘液が溢れ、ルサールカの液体でできたからだを固めていきます。

 こんなことが起きるなんて初めて知りました。

 錬金術とは奥深いものですわ。


「固まったから物理攻撃もいけるはずや! やっちまいなー!」

「あちしに任せるにゃ、見せ場はもらったにゃ!」

 

 レイナさんの声にジュリアンさんを置いて戻ってきたリサさんが地面をけって飛び上がり、猫獣人特有の素早い身のこなしでルサールカに迫りました。


〈技能:風刃斬〉スキル:ウィンドカッター


 短剣を風のように振るい、1秒間に5回の連続攻撃を行う攻撃スキルが放たれます。

 攻撃を受けたルサールカが斬り裂かれて霧散しました。


「無事、戦闘終了のようですわね……皆様、お疲れ様でしたわ」

「おつおつや、このメンバー相性ええのかもな」

「ジュリ坊がつないだ縁だけじゃないかもにゃ……今日はお試しで潜ってみたけど、正式にパーティ登録するのかにゃ?」

「それについてはジュリアンが起きてからやね」

「ともかく、このままでは危ないですし、一度撤退ですわ」

 

 ゆっくりと無事を労うことを後回しにダンジョンからの撤退を行うことになりましたわ。

 まだ時間はありますもの、ゆっくり回りましょう。


■アダマンタイト鉱山跡地


「ん……」

「気づきましたのね?」

 

 俺がゆっくり目を開けると銀色の髪の毛の中にとがった耳が生えていた。

 そこで俺はエリカにおんぶされていることに気づく。

 濡れている服がいつの間にか乾いているのは懐に入っていたサラマンダーのおかげらしい。


「エリカ……ありがとう」


 どっと疲れてきたのか、それだけしか今は言えなかった。

 それでもうれしそうにエリカの耳がピコピコと動く。


「ジュリ坊、気が付いたならパーティについてどうするにゃ? お試しで組んだから登録まではしてないと思ったはずにゃ」


 先行しているリサがくるりと振り返りながら俺に訪ねてきた。

 冒険者ギルドでパーティの登録を行わずにダンジョンへもぐりに来たのである。

 ダンジョンとメンバーの様子見を兼ねてのことだった。


「戻ったら登録するよ……パーティ名は『エターナルホープ』だ」

「『永遠の希望』という意味ですわね。わたくしたちが希望になるような活躍をしていくのでしょうか?」

「俺がさ……貴族の中では属性魔法の使えない落ちこぼれなんだけど、活躍できるぞってのを示したいというのも……ある」

 

 最後のほうは照れ臭くなって、俺はエリカの背中に顔をうずめた。


「ええやん、ええやん。ジュリアンと出会ってみてきているけど、落ちこぼれなんかやないで。ほんまジュリアンの魔法は面白いやつや」

 

 レイナが回収してきた素材を自分の体よりも大きなリュックに入れてにっこりと笑う。

 みんなが俺を認めてくれていてうれしかった。


「今後とも、よろしく……お願いします」


 かっこよく決めたかったが、急に恥ずかしくなって俺はしおれながらつぶやく。

 そういえば、気を失って運ばれてランク上がった初依頼に続き、初ダンジョンでもおんぶされて帰るなんて、かなりかっこ悪いな、俺……。


 もっと、もっと頑張ろうと心に誓うのだった。

 


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