第9話 ダンジョンで男女4人何も起きないはずもなく……
■アダマンタイト鉱山跡地・鉱山階層
イーヴェリヒトのダンジョンはかつてアダマンタイトが出てきたとされる鉱山の跡地にできていた。
ファンタジー系の創作モノではミスリルと同じくらい有名な金属で、希少価値が高くSランク冒険者をアダマンタイト級などと呼ぶ場合もある。
ただ、跡地とあるくらいなので、ダンジョンの浅い階層ではアダマンタイトは出てきていなかった。
「アダマンタイトを見つけられたら大金持ちやね」
「一攫千金は夢があるのにゃ」
「たくさんのお金でたくさんのご飯を頂きたいものですわ」
うちのパーティの女性陣はお金が大好きらしい。
俺も嫌いではないが、ノリとしてはこんなものなんだろうか?
「今日は無理せずいけるところまで行って、戻ってこよう。できることなら10階層目を目標だね」
危なっかしいので俺は女性陣に注意を促してから、ダンジョンへ足を踏み入れた。
冒険者ギルドのエミリアさんからもらった地図は鉱山地帯の階層とその次の地底湖エリアまでの合計10階層分である。
もっと深いところまでギルドでは地図を持っているが、無茶をしないようにと持たされていなかった。
どれだけ無茶をするように見られているのだろうか……。
「まずは、軽く進んでいこう。エリカは明かりを頼んだ」
「かしこまりましたわ。光の精霊よ、ここに!」
エリカが手をかざすとウィル・オ・ウィプスが姿を現し周囲を照らした。
松明よりも明るく、熱くないし、手をふさがないのがいい。
「隊列は俺とリサが前衛で、エリカとレイナは後衛で。レイナはゴーレムを作って後ろからの襲撃警戒を中心に行ってほしい」
俺はリーダーらしく指示をだして、メンバーと共に鉱山地帯を進んだ。
崩れたトロッコなどが通路にあり、巨大な蝙蝠がでてくるのをエリカが弓で対処していく。
リサが早い段階で敵を察知してくれるのでかなり楽勝だった。
「リサが敵をすぐに見つけてくれるから、戦闘が楽でいいよ」
「本当にサクサク進められて助かっていますわ」
「それほどでも……あるのにゃ」
褒められ慣れてないかと思いきや、調子に乗ってキリリと決め顔をするリサにみんながほっこりする。
なんとなしに流れで集めたメンバーではあったが、パーティを組んでダンジョンアタックすることで信頼感や連帯感のようなものが生まれているようだった。
(やっぱり、冒険者はダンジョンに潜ってなんぼなのかな?)
街中で出される依頼も報酬がもらえるいいものだが、ソロでもできるものが多いし、毎日高額報酬の依頼があるわけでもない。
そうした場合、ダンジョンに潜ってモンスターを倒して素材を確保して査定してもらう方が効率がいいのは確かだ。
ドンドンと地下に進んでいくと、5階層目の奥で巨大な人の姿を見かける。
門番のように地下へ進む階段の前に立ちふさがっていたのはアイアンゴーレムだった。
「アイアンゴーレムはふつうであれば苦労する相手だろうが、俺にとっては実験対象だ。ちょっとだけ、一人でやらせてくれ」
仲間にそういって、俺は剣と盾を構えてゆっくりと間合いを詰めた。
磁力魔法の効果範囲にアイアンゴーレムをとられたことを感じる。
加速、引力などができるが、なかなか使うことがなく試せていない魔法をここでは試したかった。
呪文を唱えると、アイアンゴーレムの腕がビキビキと悲鳴を上げながら引きちぎれた。
やはり、磁力は引力だけでなく、反発する斥力も使えるようである。
引力と斥力を使いこなすだけでもアイアンゴーレムはザコだ。
「そして、この引きちぎれた腕を……ロケットパァァンチ!」
引きちぎれた腕を加速させて飛ばし、アイアンゴーレムの頭部にぶつけて砕いた。
「よっし! 大成功!」
予想通りの動きになったことに俺はぴょんぴょん飛び跳ねるように喜んだ。
前世は工業高校の学生であったので、仮説と検証を行える実験大好き人間なのである。
「なんや、ウチは今、ジュリアンの年相応な姿をみてる気がするわ」
「奇遇ですわね、わたくしもですわ」
「あちしもそうにゃ、ジュリ坊は10歳にしては達観しすぎているのにゃ」
アイアンゴーレムを一人で倒して喜ぶ姿を見ていた三人の声に俺はハッとなった。
急に恥ずかしくなり、顔が熱を持つ。
「な、何見てるんだよ! ほ、ほら、コアを回収して次いくよ、次!」
ゴーレムのコアは高額で売れるらしい。
頭部だけを一撃で破壊したので、胴体にあるコアは綺麗なままのはずだ。
「はいな、ウチに任せとき」
ゴーレムを解体して、使えそうなものをちゃっかり回収しているのはレイナらしい。
気を取り直して、地底湖エリアに向けて俺たちは階段を下りた。
■アダマンタイト鉱山跡地・地底湖階層
「スゴイ……」
階段を降りると、切り立った崖のような場所であり、目の前には大きな湖が眼下に広がっている。
濁流が川となり、滝となって地底湖へ落ちていた。
異世界らしい雄大な景色に俺は言葉少なくなってる。
「ジュリ坊。敵の気配はないけど、とどまっていても時間がもったいないにゃ」
リサに突っ込まれた俺は隊列を組みなおして崖から地底湖の方へ降りていった。
鍾乳洞のような湿った空気が生態系を変え、モンスターも鉱山跡地とは違ったものになってくる。
最たるものがジャイアントスラッグだ。
「ナメクジでか!」
3mは越える大きさがゆっくり動いてくる。
「動きは遅いですが、油断なさらないでくださいまし。接近戦は酸性の溶解液の餌食になりますわ。サラマンダー、出番ですわ!」
エルフのエリカがジャイアントスラッグの特性を伝えると火の精霊サラマンダーを召喚して、火炎を飛ばしてジャイアントスラッグを焼いていった。
エリカは冒険者に憧れて、エルフの里をでたらしく文献を読み漁って知識を付けてきていたそうである。
腹ペコ以外でエリカの特徴を知れたのはよかった。
「遠距離攻撃ならいいんだな? じゃあ、これをやってみるか……投げつけただけだと、溶かされるから……」
俺は磁界をイメージして、それらを束にしてまとめ上げる。
その効果を宿すのは左手に装備してある盾だ。
ふわりと盾が浮き見えない糸のようなもので、ガントレットとつながれている。
「超〇磁ヨーヨー!」
左手をジャイアントスラッグに向けて振ると、盾が飛翔してジャイアントスラッグを打ち据えたかと思えば、俺の方へ戻ってきた。
「ぐぐぐ、これ、魔力の消耗量がすげぇ……」
俺はごっそり減っていく魔力を感じたので、魔法を解除して盾を装備しなおす。
魔力量は気にしなくてもいいが、一気に消耗しすぎると前のように鼻血が出て倒れかねない。
「よーよーなんて、聞きなれないものやけど……スゴイ技やね」
倒れたジャイアントスラッグから錬金術の素材にもなる粘液を小瓶に回収しながらレイナが俺に話しかけてきた。
まぁ、ヨーヨーなんてこの世界にはないだろうから仕方ないが、あんまり使いすぎると異世界転生のことがばれそうなので黙っておこうと俺は思う。
「ジャイアントスラッグも俺たちであれば十分倒せる相手だな、もう少し奥まですすもうか」
「敵の気配はないにゃ、安全に行けるとおもうにゃよ」
「いえ、精霊が嫌な予感がするといっていますわ。一旦休憩をとることをお勧めしますわ」
リサの進言にエリカが難色をしめした。
エリカの精霊は優秀なので、それを信じることにする。
「あっちで水を汲んでこよう。飲み水も補充しとかないと不安だからな」
地底湖へ向かって流れる川に近づき、水筒を傾けた。
そのとき、水中から水が触手のように伸びてきて、俺をつかんで川の中へ引きずりこむ。
「「「ジュリアン!」」」
背後から俺の名前を呼ぶ3人の声が聞こえた気がした。
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