第8話 最後の仲間は……
■イーヴェリヒト 商店街
冒険者ギルドでエリカの冒険者登録と依頼の報告を終え、俺たちは商店街で買い出しを行っていた。
ホーンラビットの角や毛皮も買い取ってもらったので、そこそこの収入になっている。
「次はダンジョンに行きたいから、松明はたくさんあったほうがいいのかな?」
「あかりでしたら光の精霊に頼めばいいので、大量に買い込む必要はありませんわね」
パーティメンバーに加わったエリカとレイナを連れて街中を歩くのはデートっぽくていい。
イーヴェリヒトの商店街はどの時間でも人が多く、にぎわっている。
屋台では肉を串に指して焼いているため、いい匂いがしてそちらへエリカがふらふらっと動き出した。
エリカで綺麗でお嬢様っぽいがかなりの大食漢である。
「エリカ、屋台のものばかり食べているとあっという間にさっきの報酬なくなるよ」
路銀はそこそこはあるが、かといって贅沢を無制限にできるわけでもない。
「ダンジョンで一攫千金して、いろんな料理を食べてみたいですわぁ……はむはむ」
いつの間にか買った串焼きを食べながら、エリカは自分の夢を語りだした。
「夢かぁ……レイナはどんな夢がある?」
「ウチ? ウチの夢は錬金術の工房をおっきくすることやなぁ……錬金術師として大成したいねん」
レイナにも夢があったが、俺はどうなんだろう、異世界に転生して10年。
5年前、大した魔法が使えないといわれて貴族界を追放された。
冒険者になるために頑張ってみたものの、それはなんとなく冒険者になってみたいと思っただけである。
これからランクをとりあえず上げようと思っているけど、夢とはいえるものでもなかった。
俺の夢は……なんだろう……。
「おっと、ごめん!」
ぼうっと考えていると人とぶつかったが、その人影はどこかに消えていた。
「ぼーっとしてたら、あかんで?」
レイナに言われて、袖を引っ張られると懐が軽いことに気付く。
さっきのぶつかったときに掏られたようだ。
だが、問題ない俺の財布には鉄板を入れているのだから……。
財布の鉄板を意識してとらえると、ぐっと手元に引っ張った。
「にゃぁぁ!?」
財布が勢いよく俺の手に戻ってくるときに少女の声が雑踏の中から聞こえてくる。
俺たちが、その声の方へ駆けていくと倒れた猫耳少女の周りはたくさんの財布が転がっていた。
「やばい、逃げるのにゃ!」
驚いて倒れていた猫耳少女は起き上がると転がっている財布をそのままに裏路地の方へ駆けだす。
ここまで来たら逃がすわけにはいかない。
「いくぞ、俺たちでとらえないとまた被害がでる!」
「わかりましたわ」
「ウチはここで、衛兵に事情説明しとくな~」
俺とエリカは猫耳少女を追いかけ、レイナと別れた。
■レーヴェリヒト 路地裏
「やばい、やばいにゃ!」
あちしは急いで路地裏をかけていく。
スリに成功して気をよくしていたら、急に財布が引っ張られてこけてしまった。
初めての失敗で、このままでは衛兵につかまり投獄されてしまう。
「そうなったら、妹たちが困るのにゃ」
自分が育ったスラム街は盗みや殺しが日常で起きていた。
その中であちしは盗みの才能に目覚めて、スリや商店からの盗みを行いスラムの血のつながっていない兄弟、姉妹にわけている。
ここで衛兵につかまったりしたら、その子たちは明日のご飯すらありつけないのだ。
「後ろから足音が二つ……しつこいにゃ、けど猫獣人を舐めるにゃ!」
壁をけって家の屋根まで上がり、追っ手を引きはがそうとした。
「捕まえたぁぁっ!」
「ふにゃぁぁ!」
そう簡単に上ってこれないだろうと思っていた屋根まで、少年が勢いよく飛んできてあちしを後ろから抱き着いてきた。
その時、おっぱいを鷲掴みされて、あちしは大きく叫んでから屋根の上に二人して転がる。
◇
「ヘンタイにつかまったのにゃ」
「不可抗力だって……」
屋根の上から路地裏に降りると、猫耳少女から冷たい視線を浴びせられる。
猫耳少女の手は鉄の棒を変形させて作った簡易手錠で塞いでいた。
「あらあら、そういうことがジュリアンはお好きなのですか?」
「そんなことはない!」
ニヤニヤと俺を見てくるエリカに反発してから、少女を尋問する。
「どうして財布を盗んでいたりしたんだ? あと名前を教えてくれ」
「あちしはリアにゃ。盗みはそうしなきゃ生きていけないからにゃ……だから、見逃してほしいのにゃ。スラム街の妹たちのご飯がなくなるのにゃ!」
へにょと耳と尻尾をへこませながらもリアは俺に懇願してくる。
「事情があるのか……じゃあ、代わりに体で払ってもらおうかな」
「にゃにゃにゃ!? やっぱり、ヘンタイにゃ!」
俺が何気なく言った言葉にリアは自分の体を守るように身を丸めて、尻尾と耳の毛を立てて、フーと威嚇しだした。
今のは俺の言い方が悪い……確かに薄い本のような発言である。
いや、そういいたくなるほどスラムで育ったという割にはリアの肉付きがいいのだが……いやいや、話を戻すのが先だ。
「いやいや、違う。そうじゃない、リアの身のこなしや獣人特有の危機察知能力を見込んで冒険者の仲間になってもらえないかなと」
「冒険者かにゃ? 衛兵に突き出されないならやってもいいにゃ」
「なら、決まりだな。妹分や弟分がいるなら使用人として俺が父さんに頼んで雇ってもらうよう頼んでみることもするよ」
俺はリアを仲間に入れるための交渉を続けている。
シュテルン商会の屋敷は広いし、俺がパーティメンバーと一緒に過ごすにしても部屋は余っているくらいだ。
俺が冒険者になってパーティメンバーを集められるDランクになったときに、住み込みで受け入れてくれるといっていたし、使用人を増やそうと考えていると話していたのを思い出したので、無碍にはされないだろう。
「どうだ? 悪い話じゃないだろ?」
「キミはあちしより年下に見えるけど、中身が大人なのにゃねぇ……あちしと妹たちがご飯食べれて安全になるなら申し出を受け入れるにゃ」
リアは俺を上から下まで見てから、仲間になることを了承してくれた。
俺とリアは握手を交わすと再び冒険者ギルドに向かう。
これで最低限のダンジョン攻略メンバーがそろった。
「明日からはダンジョンアタックだ!」
流れのままに俺以外が女性のメンバーになったが、気にしないことにする。
異世界でハーレムなんて、当たり前だろ?
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