第7話 二人目の仲間は腹ぺこエルフ

■エメラルド草原・野営地


 ジュウジュウとフライパンの上で肉の焼ける音が夜の草原に響く。

 味付けは塩コショウとチョットしたハーブだけというシンプルなものだ。


「ああ、醤油が欲しい……」

「ショーユってなんなん?」


 俺のぼそりとした呟きにテントの設営が終わったレイナがくりくりッとした瞳で見つめてくる。


「あー、何だろう。大豆という豆を使った液体の調味料かな? 東の国にはあるみたいなんだ、知り合いが知っていたからさ」

「へー、東方と物流はここはないからなぁ、でもシュテルン商会の坊ちゃんならしってるか……美味しくなるん?」


 納得したレイナはできあがったホーンラビットのソテーを固いパンと共に食べ始めた。

 ウマウマと満足そうにレイナが笑顔を浮かべていると、ザワザワと草むらが揺れる音がきこえる。


「何か来ている」


 俺はフライパンを火から離しておいて、盾と剣を構えた。

 ザワザワという音が大きくなると、そこには背が高い緑色のマントを付けた銀髪の女性が姿を見せる。


「あ、怪しいものではありませんわ! その……美味しそうなにおいがしたものでして」

 長い銀髪の髪から覗くとがった耳。

 陶器のような白い肌。

 そして、弓矢を背負ったスレンダーな体をしたエルフだった。


 エルフの女性のお腹がクキュゥとなった。


「お腹が減っているのですか?」

 

 お腹の音に頬を赤く染めたエルフのお姉さんはコクリと頷く。

 うん、カワイイ。

 俺としては出会ってきた女性の中で一番のストライクだった。


「ホーンラビットの肉はまだありますので、良かったらどうぞ」

「本当ですの? 助かりましたわ、名乗り遅れて申し訳ありませんわ。エルフの弓使いエリカですわ」

「俺は人の戦士のジュリアン、こっちはドワーフの錬金術師でレイナだ」

 

 自己紹介をすますと、ホーンラビットのソテーを前にわぁいと子供っぽく喜んだエリカはものすごい勢いで食べていく。

 どれだけお腹が減っていたんだろうか心配になるくらいだ。


 

「エリカはどうしてこのエメラルド草原に?」

「薬師でもありますので、その材料を個人的に集めに来ていましたの。採取に集中しすぎて、気が付いたらお昼から何も食べていない状態でしたの」


 今日狩ったホーンラビットの肉をほぼほぼ食べつくしたエリカと夜の見張りついでに俺は話をする。

 エリカはどうやらドジっ子+腹ペコらしかった。

 お嬢様口調とのギャップがエリカをより魅力的にしている。


「エリカは弓以外にどんなことができるの?」

「そうですわね、いわゆる精霊魔法というのが使えますわ。貴方たち人種が使う四属性魔法は元素魔法という分類になりますが、それとは別種ですわね」

「精霊魔法と元素魔法か……精霊魔法は精霊と契約をして力を使う感じなのか?」

「そうですわ。例えば……我の呼びかけに答えたまえ、光の精霊:ウィル・オ・ウィプス!」

 エリカがそういって手をかざすとその上に光るマリモみたいなものが浮かんだ。

「わたくしが契約している精霊は光、闇、火、水、風、木、地の7つですわ。これはわたくしの住んでいるエルフの里でも上位の数なのですわ」


 エリカはふよふよと浮かび漂う、ウィル・オ・ウィプスを見つめながらフンスと慎ましい胸を張る。


「そっか、エリカみたいな人がパーティにいてくれたらイーヴェリヒトのダンジョンとか行くのが楽そうなんだよな」

「あら、ジュリアンはパーティメンバーを探していますの?」

「うん、先日Dランクになったばかりだからパーティリーダーになりたてで、今メンバー募集中」

 

 焚火に木を投げこみながら俺は答えた。

 エリカの精霊は純粋な魔法使いよりも汎用性が高そうである。

 できれば、メンバーに加わってくれると嬉しいが、ドストライクな綺麗なエルフのお姉さんをナンパできるほど俺は人間できちゃいない。

 前世+今世合わせて30年に満たない人生経験=童貞年齢でもあるので、なおさらだ。


「わたくし、エルフの里から出てきたばかりで、まだ冒険者にもなっていませんの。イーヴェリヒトで冒険者登録をしようと思っていたところですから、ジュリアンがよければ一緒にパーティ組みましょう。ルミネも懐いているようだから、悪い人には見えませんし」

 

 ウフフフとエリカが笑う。

 彼女の言う通り、俺の周りをウィル・オ・ウィプスがふよふよと漂いまとわりついていた。

 聞けば精霊は魔力を代償に契約者から吸い取っているので、強い魔力の人間を好むらしい。


(その話が本当であるならば、俺の予想は正しいか……ここの文化にアラビア数字はあってもはないということだな)

 

 5年前に魔力量がザコレベルといわれた俺だったが、磁力魔法を使いこなしているうちに魔力量の表示がバグっていたことに確証を得ていた。

 もちろん、このことをアイゼン家に言ったりするつもりはない。

 追放された貴族の家に戻るよりも、今、イーヴェリヒトで冒険者しているほうが楽しいのだ。


「おーい、エリカ、ジュリアン交代やでー」

「わかりましたわ。私も泊めていただき感謝いたしますわ」

「俺もか? でも、レイナだけだと不安なんだが」

 

 仮眠から起きてきたレイナがエリカと交代をしていく。

 俺はレイナ一人だけにするのが不安だったが、すぐにそれが杞憂なことを理解した。


〈錬金術:クレイゴーレム召喚〉


 呪文を唱えて、レイナが地面に手を当てると、地面からズモモと土人形が生えてくる。

 10分後、1mくらいの土人形がガッツポーズをした。

 おいおい、●人28号かよ。

 錬金術はこんなこともできるのかと驚くとともに、アイアンゴーレムが作れるのであれば俺の磁力魔法との相互作用が多そうだと考えた。


「ゴーレム召喚できるなんて、教えてくれよ」

「1日の使用制限があんねん。大きさによっては時間がかかるしなぁ。コイツも見張りにつけるから、おこちゃまはゆっくり寝るんやで」

「子供扱いするなー!」

 

 見た目は子供だけど中身は大人なんだ。

 子供扱いは本当に勘弁してほしい。

 

 

 

 

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