【EXシナリオ】 第1話 それぞれの5年
■ローレライ家・アリシアの部屋
眩しい朝日で目を覚ました私は懐かしい夢を見ていたことを思い出す。
それは5年前の魔法学院の入学試験のことだった。
「もう5年たっちゃったのね……」
あのとき、もっとわがままを言っていればよかったと今となっては思う。
その理由は……。
「おはようございます。お嬢様、本日はフレデリック・アイゼン様の誕生日会への出席となっておりますので、ご準備のほうをお願いいたします」
私の起床を見送っていたメイドがベッドへ近づいて一礼と共に要件を告げた。
「ねぇ……体調不良とかで欠席とかにできないかしら?」
「それは難しいご相談ですね。ローレライ家とアイゼン家で盛り上がっているお話ではございます」
「私の家のほうが爵位は上なのよね?」
「ですが、魔力量はアイゼン家のフレデリック様のほうが高いので旦那様がこの縁談を逃すとは思えません」
無表情気味なメイドの回答に私はため息を漏らすしかなかった。
婚約者がジュリアンだったころはアイゼン家との縁談は私が望んでいたベストだったのに……どうしてこうなったのだろう。
「政略結婚ということであれば、私が我儘いいすぎるわけにもいかないわね」
ローレライ家は優秀な魔術師の家系であり、そのため魔力量の高い配偶者を取り入れて、繁栄をしてきたのである。
だから、もう結果としてはしょうがないのだ。
ジュリアンの魔力量は8といわれていて、赤ん坊レベルに低かったので、幼い私は引いてしまった。
そのため、この5年間後悔している。
「いつまでも暗い顔をしているわけにはいかないわね。準備するわ」
ベッドから起き上がった私は誕生日会への準備をはじめた。
「お誕生日おめでとう、ジュリアン」
今日の誕生会の主催と双子の兄である失った人へのお祝いをそっと口にする。
■アイゼン家中庭・パーティ会場
シェフがその場で作る様々な料理に楽団が奏でる音楽、10歳の御曹司を祝うパーティとしてはかなり豪華なものがパーティ会場に広がっている。
(これがオレの望んでいたものだ!)
主役であるオレ―フレデリック・アイゼン―は周囲を見回して満足して頷く。
オレの魔力量は10歳で100万を超えて、一流の魔術師として既に宮廷からも注目されていた。
今日の10歳記念のパーティもそれらの顔つなぎの意味が大きい。
「能力はあっても使いどころがないのが問題だ」
「フレデリック様が魔法を使うときは戦争ような大きな舞台がふさわしいかと思います」
「今年から参加できるようになる魔導大会に参加するのも良いかもしれませんわ」
オレの同級生である、カスパー・リヒテンベルクとセレナ・ヴェルサイユが同意を示す。
5年間でオレの実力にひれ伏した右腕と左腕ともいえる存在達だ。
「フレデリック様、今日はご招待いただきありがとうございます」
綺麗な声に振り向けば、恭しく礼をするアリシアの姿がそこにある。
この5年間で綺麗な少女になった。
これから先、ますます綺麗になるだろうと誰もが予想できる。
「アリシア嬢こそ、来ていただきありがとうございます」
礼を返すが、爵位が上でも魔力量という実力ではオレが上でありこの国は魔力量がすべてを決めるのでオレの気持ちはいい気分だ。
ただ、オレの態度が気に入らないのかセレナがアリシアを一瞬だけ睨んだ気がする。
「今は婚約者でありますから、お祝いするのは当然ですよ。我が家からは『 フレイム・ルビーの指輪』を贈らせていただきます。きっと、フレデリック様の役に立つことでしょう」
にこりと微笑むアリシアだが、その笑顔は本気の笑顔でないことは生まれてから10年の交流でわかっている。
あいつの……ジュリアンに向けていた笑顔と違うのだ。
(必ず、必ずアリシアの心もものにして見せる! 今もいないのにオレの邪魔をしやがって!)
心の中で悔しさにドロドロとしたものが膨れ上がるが表面に出すことなくオレはパーティを楽しむことにした。
宮廷魔術師からのスカウトの話もあるし、今日は楽しいことが多いのだから。
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