第5.5話 ジュリアンの秘密
私たちがイーヴェリヒトのシュタイン家についたのは夜も更けてからでした。
ジュリアン君はまだ目が覚めないままで、ミツキさんの案内のままに二階のジュリアン君の部屋へ連れていき、ベッドへ寝かせます。
起こさないように部屋を後にしてから、私たち”鋼の守護者”のメンバーとミツキさん、ヴィルヘルムさんは一回の応接間に集まり報告と相談を行うことにしました。
「豪華な料理が無駄になってしまったようで申し訳ない……」
「そんなに謙遜しないでくれ、ジュリアンが無事に帰ってきてくれただけで十分さ」
ヴィルヘルムさんは頭を下げるアーヴィンさんに紅茶を進めながら答えます。
二人は付き合いが長いこともあって、親しげな口調なのが印象的でした。
私も紅茶を一口付けて、ほぅと一息つく。
私が気が付いたときには山賊との戦闘は終わっていて、鼻血を出してぐったりしているジュリアン君にフィンがポーションを飲ませて回復させていました。
「詳しい状況は聞かせてもらったのですが……見ていないので信じられませんね」
「あたしは見たわよ。魔力の流れも感じたから、普通の魔法じゃないわね」
私の疑問にリリアンさんがクッキーをかじりながら答えました。
「詠唱はマグネスといっていたから、四属性じゃない別系統の魔法よ。私も知らない魔法ね。私の師匠でもある魔法都市の賢者様とかなら知っているかもしれないけど」
「鉄製品を動かしたり、腕を操ったりしていたな。おかげでグスタフ相手に生きていたわけだが……ギルドにはそのまま報告はできなかったよ」
ジュリアン君の使った魔法を見ていたリリアンとアーヴィンが見たものを思い返していましたが、その顔は何とも言えない苦々しいものでした。
「実はな……ワイは黙っていたんやけど5年前にも、ジュリアンの魔法をみたんや」
「もしかして、あのワイルドボアのときのことですか?」
ミツキさんがぽつりとつぶやいたフィルさんに顔を向ける。
「あんときは、5歳の子がそんなことできるわけないと可能性を否定していたけどな。今日のを見るとあの頃から使えていて、鍛えていたんやと思う」
「ジュリアン様はたまに屋敷の屋内訓練所で鍛錬していました。危ないから近づかないようにといわれていましたので様子を見に行くこともしませんでしたが……」
ミツキさんがこの5年間のことを思い返し、少し項垂れています。
「魔法について黙っていた理由がわからないのが寂しいね」
話を聞いていたヴィルヘルムさんが出した言葉がこの場にいる全員の総意です。
私も寂しかったです。
5年間、一緒にお勉強をしたりご飯を食べたりしていたのに秘密を抱えていたことを知りました。
そのことも寂しいですし、理由がわからないことも寂しいです。
「話は変わるが魔力量は8といわれたそうだが、今日の戦いはどうみてもそんなレベルじゃなかったな」
「あたしもそう思う、総魔力量はもっとあるはずよ。今日の鼻血は一時的に大量の魔力を消費したことによる反動ね。じっくり寝て、体内の魔力の流れが整えば目覚めるわ」
リリアンさんの言葉に全員がよかったと口々にいいます。
彼女のスキルは魔力感知。対象の魔力量や魔力の流れが見えたり、魔力を持つ者の接近を知ることができたりと魔法使いとして相性のいいスキルです。
「ジュリアンが起きたら、また話を聞こう。本人が話してくれると嬉しいけども、強制はしない方向でね」
ほっほっほっとヴィルヘルムさんは笑顔を浮かべました。
ジュリアン君がどういう選択をしても尊重するという方向に私も賛成です。
「ジュリアン君のあの魔法ですが、使いこなしていくならSランクも狙えるかもしれませんね」
「”鋼の守護者”に入れて仲良くやっていきたかったが、そこに収まる器じゃないのは確かだな」
私の言葉にアーヴィンさんも同じようなことを思っていたようです。
「それでもまだ10歳なんですから、大人である私たちが支えませんとね。先輩冒険者としても」
「末恐ろしい10歳やなぁ……」
フィンさんの言葉にみんなが笑います。
大きな力を持つにはまだ幼いジュリアン君をこれからも支えようと私は決意を改めました。
「光と癒しの女神ルミナよ、ジュリアン君が元気になるよう見守ってください」
今の私にできることは神に祈ることだけです。
起きたら一杯かまってあげるようにしましょう。
まだまだ、子供ですからね。
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